プロローグ
ドタドタと屋敷が騒がしい。悲鳴や怒声、銃声や痛みにのたうち回る呻き声。自分は、この騒音の中心にいる。しかし、フワフワとどこか浮いたところにいる気分だった。
もっと焦るものだと想像していたけれど、「こんなものか」と、まるで他人事なのが可笑しかった。思わず「ふっ」と声を漏らすと、いつの間にか部屋が火の海に包まれていたらしく、煙を吸ってしまう。主のために忠臣たちが気をきかせてくれたらしい。自分で自分の人生を閉じるには、うってつけの場に仕上がっている。戦国の世は、勝てばあらゆるものを手に入れ、負ければ死ぬ。至ってシンプルな構造だ。今まで数え切れないほどの命が消えていった。己もまた、例に漏れず、構造の一部として運命を受け入れなければならない。
バキバキバキッ、と音を立てて火柱が折れる。屋敷が限界であることはもう分かっていた。ただこの空間は、全ての家臣が命をなげうって、自分の最期の為に整えたのだから、ここから避難する、ということはできない。そして外には、自分を、詳しくいえば自分の首を血眼になって探す敵たちが、うじゃうじゃといるだろう。思いは違えど、味方からも敵からも死を望まれているのは、不思議な気持ちだった。
「どこだぁ!」と野太い声が近づいてきた。いよいよ見つかってしまう。チンタラしている暇はない。喉に護身用の刃を突き刺すか、または毒をあおらなければ、無様な姿を晒すことになってしまう。しかしどうしてもあと一歩が踏み出せない。だんだん焦り、焦り、焦り、このままではいけないと一度深呼吸をした途端、今度は大量の煙を吸ってしまった。
「ゲホッゲホッ!っっひゅーっ!ゲホッ!」
どれだけ息をしても、きれいな空気が吸えるはずもなく、苦しみもがく。息を吸おうとして煙にむせるを繰り返す。どれくらいたったか、ようやく意識が遠のく。
(やっと終わるのか)
と、意識を手放すほんのちょっと前に思った。