~あなたもそのうち出くわす話(駅の間の駅のこと)~
駅の間の駅のこと(3 )
明滅が弱くなりどんどん暗くなって行く車両を先頭へ向かって3人は行く。
「前後の駅と電車には辛うじて現状を伝えてありますが…こんな場所で止まることになるなんて…万が一地下で列車同士の衝突事故になんかなったらどうしよう……」
3人の先頭を歩く車掌はブツブツと首を項垂れている。
それとは正反対に最後尾のチャラ男は、天井の広告に手を伸ばして触れてみたり、水着姿の女の子の広告を覗き込んだりしてやや楽しそうだ。
中間を歩く高木は、浮かれるでもなく沈むでもなく……その中間の気分だった。
異常で非常事態である事は間違いない。ほんの数分前まで最高の気分だったのにとんだハプニングだとは思う。
ーー腹立たしくもあるが、普段できない体験だし…まぁ商談先で話す時のネタにはなるかもな…
そんなことを考えていた所で一車両目と二車両目の境目にたどり着いた。
チラリ、チラリ、と濃い灰色の壁に懐中電灯らしき灯りがみえる。
「大澤田さーん」
「渡辺くんか?」
運転士が1両目の空いている左の扉から顔を覗かせた。
運転士…大澤田と呼ばれた男は「あっ」と声を出すと、慌てて車両へ上がってきて高木と青年の2人に深々頭を下げた。
「この度はこのような事態に巻き込んでしまいまして…大変申し訳ございません……!」
高木が
「いえいえ頭をあげてください」
と言い終わらないうちに食い気味にチャラ男が言った。
「で? 人? 人じゃないなんかスか? 轢いたか跳ねたかしちゃったのって」
高木は"何言ってんだこいつ! "と言いかけたが、何故か言葉にならなかった。
車掌と運転士がビックリして目を剥いているのを見たら言葉にならなかったのである。
そりゃそうだ。
しかしそんなこともお構い無しにチャラ男は扉の空いている左手側の方を指差し、畳み込むように質問した。
「で、あとさ、アレなに? 駅スか? 駅に見えるんすよね。つーかアレまじ不気味なんスけど」
3人はチャラ男の指さす方向に目を向ける。
ーー……そこには駅があった。
ぱっと見た感じとても小さい駅だ。
ひと目でわかる理由に駅特有の円柱に、横に広い階段らしきもある。
しかし、奇妙なのは、壁は全て濃い灰色で、電気系統が何一つみえないことだ。点字ブロックも敷かれていないので、色がまるで無い不気味な駅であった。
「あれは……」
高木が言いかけると困ったを通り越し、余計なものを見つけたくらいの不愉快極まりないといった表情をした大澤田が
「あれは…駅になり損ねた駅というか。トンネル工事の時の産物みたいなもんです、名前はありません」
と早口で言い呆れるほどの営業スマイルになる。
「いつもの電車のスピードだと、ここまじ見えなくね?ワロタ」
チャラ男はケラケラ笑い出す。
高木も確かにな、と独り言ちる。
普段なら確かにあのスピードや暗がりで絶対に見逃してしまう。
それ程に分かりにくい場所であった。
駅の間の駅のこと(4)へ続く