~あなたもそのうち出くわす話(駅の間の駅のこと)~
「駅の間の駅のこと(一)」
――21:30発 地下鉄 松野虫線、終点 孔雀町一丁目行きまもなく到着いたします。
真っ暗なトンネル。
カーブになった向こう側から強く丸い光と淡く四角い光が乗客の待つホームへと迫ってくる。
熱風の圧が押し寄せた後、なだれ込むようにドドッと地下鉄松野虫線の準急列車がその姿を現した。
銀色の車体に紫のラインと赤のライン。
行先プレートには"孔雀町一丁目"とある。
高木はしっかりそれを確認してから今度はもう一度、電光掲示板を見た。
「ヨシ、大丈夫ヨシッ」
と一人で頷いている。
同行している三峰が横目で覗くと、彼の顔面は真っ青だった。
二人で出張に来たのはいいが、さっきから地下鉄に乗りかえる度にこの調子なので、三峰も不振がっていた。
そもそも彼が異常に反応するのは地下鉄だけなのだ。普通の電車に乗っているときはいつもの通りおしゃべりで人当たりのいい好青年だ。
そうこうしているうちに、乗客が数名降りてきて、三峰と高木の乗車のタイミングになった。
「よっ…し!の、乗るよっ三峰さんっ」
そういう高木の脂汗が尋常じゃない。
乗車してみると案外混雑しており、入り口のところでドアにおしつけられる格好になった。
「あぁ、あ、神様仏様マジですかっ……」
高木が半泣きで呻いているので、見かねた三峰は仕方なく訊ねることにした。
「あのぉ高木さん。私でよければですが、苦手な理由を聞くだけでも聞きますよ」
高木は細い目をかっぴらいて三峰を凝視する。
「三峰さぁんっ…無理…私ね、地下鉄で昔すごく怖い思いしてるんですよォ」
「そうでしょうねその調子じゃ」
「だから外が見えない奥に行きたかったけど無理そうだから」
確かにこの混雑では無理がある。
「けど高木さん、変な話、地下鉄なんてトンネルの中をずっと行くだけで、大して景色も変わらないし真っ暗で特別何も見えなくないですか?」
「いやっ、違うんだなそれが、三峰さんならきっと、実は絶対何回か目にしてるって!」
そういって高木は昔に遭遇した出来事を話し始めた。
「駅の間の駅のこと(二)」に続く