~あなたもそのうち出くわす話(くろす駅)~
「くろす駅(二)」
電車は大きな町のある駅とは反対の方向へ向かっている。次の駅は自転車でも10分程度の場所だ。
線路沿いに道もある。田舎道なので舗装されているところとそうでないところがあるので走りづらいのが難点だ。
幸いにも電車はゆっくり進んでいく。そんなに突き放されずに追うことができた。
走る風の中の水の匂いが強くなる。
町境に流れるそこそこ大きな川だ。
次の駅はこの橋を越えて坂道を少し下ったところに有る。土手に張り付くような急な坂道を下り、線路に沿った道なりに電車の背後を追っていく。
リー……リー……
もの悲しげな虫の声。
それを聞いて磯部はぎょっとし、ペダルを踏むのをやめ、自転車を止める。少し先に行った岩居がブレーキをかけて振り返った。
「どうしたんです磯部さん」
「……おい、どこだここ」
うっそうと生い茂る草木。重く垂れさがる黒い枝。どこからかボウ、ボウ、と鳥らしき声が木霊する。
石灯籠が道の脇に幾つも並んでいるが、どれもこれも崩れたり、頭が落ちたり、倒れているものまである。道筋を間違えず来ているならば本来、寂れては居るが住宅街が続くはずだ。
「…こんな場所みたことも来たこともない。明らかに記憶にない道だぞオイ…」
「いやだな、磯部さん、暗いからわかんなくなっちゃったんですか?」
岩居は暢気な声をあげてアハハと笑いながら戻ってきた。
「道に迷ったなら、ホラッ!我々にはこんな文明の利器スマフォという強い味方がいるじゃないですかァ」
岩居にこにこ笑いながらスマフォを取り出すとGPSをオンにして話しかける。
「現在地を検索して」
沈黙
「どうした」
「……反応しないです」
「おいおい…文明の利器じゃなかったのかよ……」
「おかしいな今までこんなことなかったんですよ?」
岩居は頭を掻きながら今度は手で現在地、と検索バーに打ち込み検索をかける。
「だめだ…マップ上の我々の現在地示すカーソルが川を渡る手前から動いてないことになってる」
「壊れてんじゃねえのか?」
「ええ……それは困るぅ。だってこの間、機種変したばかりなんですよぉ!?」
「だったら初期不良で変えて貰えるでしょ」
磯部も自分のスマフォを取り出しGPSがオンになっているかを確かめ検索をかけてみた。
……磯部のスマフォに示される地図上のカーソルも川の手前で止まっている。
すなわち出発の駅からそう離れていない場所にいる、ということになっているのだ。
そんなはずはない。
現に少し先に次駅の灯りが見えており、そこへゆっくりと電車が停車するのが目の前で起きている事象だからだ。
磯部は、思い付きで電話をかけてみる事にした。だが電話も繋がらない。ツーツーと話し中の状態になってしまう。
「おいおい……マジですか」
「磯部さん何処へ電話を?」
「警察にだ。どこか近場の警察の派出所につながるはずだし、よほどのことがない限り繋がらないはずがないからな。寧ろ派出所なんて駅の傍にあるもんだろう、大抵の場合は。……でもダメだった。話し中になってる」
岩居はあーとため息をつき、情けない声で訴える。
「磯部さん、もうこうなったら駅行きましょう。目と鼻の先ですから」
「そうだな……」
二人は自転車に再度乗って灯りの見える方へ走ってみることにした。
生ぬるい向かい風が二人の顔を撫でていく。
かなり暑いはずなのに何故か二人は身震いをした。
「くろす駅(三)」に続く