~あなたもそのうち出くわす話「アオイヒカリ」~
オマケ
青い光がぽつりぽつりとみえる。
駅にほど近い線路辺りから駅に向かって。
ぽつり、ぽつり
寺田は駅近くの煙草の自販機の脇のベンチに座って、その青い光をぼんやり見つめながら思わず口にした。
「なぁ輪音。あれってさ、自殺防止のライトなんだろ?」
寺田の隣に腰掛けていた三峰輪音はそれを聞いて答えた。
「ええ、かなりあのライトの色で減るって統計があるみたいですね。まぁ最近はしっかり柵を付ける方が自殺のみならず事故も防げるって話になったようですが」
「ふーん。そうか……でもさぁ、知りてぇんだけどさぁ。なんで人ってわざわざ自殺なんかすんのかなァ」
「自分がこの世に必要が無いと思ったり、不治の病でもがき苦しんだり、大きな借金でにっちもさっちも行かなくなったりと人それぞれでしょうけどね……」
ふーむ。と寺田は自分の五分刈りの頭をくるりくるりと撫でる。
「しかも電車なんて、多くの人に迷惑かけるし恨まれるだろ」
「自死する人はそれどころでは無いと思いますよ。なにせ生き地獄の苦しみを終わらせることこそが目的ですから」
「なるほどな。それぞれの苦しみがある、ってわけね」
寺田は背もたれに深く寄りかかると腕組みをして首を傾げた。
「テラさんの様に強い人ばかりではないですから」
「そういうもんか」
寺田は笑う。
三峰は続けた。
「まぁ…世の中が悪いなんていいますが、景気が良かろうと悪かろうと、今であろうと昔であろうと、人が自ら死を選ぶ数というのは、何年経ってみてもそう変わらんのです」
「へぇ……そうなんだ……」
寺田は興味深そうに三峰に視線を流す。
「ええ、今はかつてより出産や産褥で死ぬ人が少なくなり、病気や怪我で死ぬ人も100年前から比べればぐんと減りました。……でも自分から死を選ぶ人や殺人の多さはほとんど変わらんのです。新聞、ラジオ、テレビ、インターネットの流通で多くの人がよりその手の情報を目に入れ耳にすることが多くなったので、増えたように感じるだけ……」
「面白い説だ。目に見えたデータで証明出来たら最高だな」
三峰はくすりと笑う。
「テラさんは相変わらずですね。ちゃんと現実に沿った論を提示して、人に納得できる結果を出す、スピードは至る手段に過ぎず、重要なのは結果……」
寺田と三峰は顔を見合せ言葉を同時に言葉を発する。
「「結果良ければ全てよし」」
ピッタリ息が揃ったのがおかしくて2人は声を上げて笑った。
「ハハ、そうだそうだ。その通り。まぁ、俺から言わせりゃお前も変わらんなぁ。あれからこうして会えるのはお前だけだからなー。奥さん子供も形ばっかりであった気がせんし」
「まぁ……私大分歳は取りましたけどね」
「それはそれで難儀な事だ」
二人は苦笑した。
と、その時、そこから少し離れた闇の向こうから……プァン……と電車のタイフォン(警笛)が鳴り響いた。
その音を合図に、路地のあちらこちらから、揺らめく光とも炎ともつかない、尾の細長いオタマジャクシの様なような姿に似た発光体が、ふわ…ふわ…とゆるやかに流れる様に、泳ぐ様に飛んで、駅へ向かって行く。
発光体はみんな「あおいろ」
青、蒼、碧、それぞれに周囲を照らしている。
金色に光るライトが周辺を照らした。車体に綺麗なメタリックブルーのライン。銀色の車両。キラキラ輝きを纏いながら走ってくる。
電車だった。
その電車の姿を見て、寺田は「さぁて」と膝を打って立ち上がる。「そろそろ俺も行くわ。今回は電車で帰るけどもさ、次は車で来ようかな」
ンッと伸びをする。
「ふふ、自転車もバイクもあるじゃないですか」
「そーだなー、割と選り取りみどりなのな。それに、別にお盆だけ帰ってくる訳じゃねぇもん。ま、さ、またなんかあったら呼んでくれぃー」
2人はまた顔を見合せ同時に笑う。
「またな、輪音」
「ええ、また」
握手しようと三峰が手を伸ばすが、その手は空を切る。
「握れねぇー」
寺田は笑う。
その姿はふわりとあおくあおく光る発光体へ変わった。
じゃあな、と言うようにくるりと空を旋回して駅へ流れていく。
他のどの光よりも速い。
「相変わらずスピードは出るんだなぁ」
三峰が笑って手を振った。
電車がまたタイフォンを鳴らし、ガタン、ゴトンと走り出す。
沢山のあおい光達を乗せて、電車はキラキラ光ながら消えていった。
「死の光はあおいひかり……」
三峰が呟く。
その時、背後から声がした。
「ミッツー」
「……いたの火神」
「いたの? とはご挨拶。ねぇねぇ、いまさっきの幽霊の人がミッツのパイセンの寺田さん? マジイケてるオッサンじゃね?」
「そういやお前、寺田さんが生きてる頃に会ったことなかったもんな」
うんうんと頷きながら火神。
「まぁさ、生きてたら飲み行けるタイプの人だったよね。パリピの匂いすんもん」
笑う火神に、三峰は淡々と言う。
「あの世への電車迎え入れすんのに、ヤバイの片付けるの手伝ってくれたからお礼に奢る」
マジで! と火神が三峰の肩を抱く。
「いっちゃお!
お酒でお清め! いっちゃお!!」
やれやれと三峰が溜息をついた。
おしまい
またね