~あなたもそのうち出くわす話(駅の間の駅のこと)~
駅の間の駅のこと(4)
運転士の大澤田は苦虫を噛み潰したような顔を隠すためか、口を手で覆っていたが、ほどなくしてその手を顔から離すとにこやかに言った。
「そうだ、緊急避難通路としてあの駅が使えるので、お客様方はあの駅へ1度上がられては如何でしょう」
高木とチャラ男は顔を見合わせる。
さっき車掌の渡辺が言ったように、何らかの不幸が重なって、後続電車が突っ込んでこないとも限らない。安全確保の意味では最高の提案だった。
しかし、だ。
高木は顔をしかめる。
高木は心霊だとかそういった怪奇現象などと言ったものにさほど興味もなければ無縁の人間だが、この駅は余りにも不気味すぎる。
駅の外観もさることながら雰囲気が異様なのだ。
しかしチャラ男はその空気を打ち破るが如く、
「いいじゃん、面白そう。だって普段入れないとこに潜入出来るとかサイコーにネタっしょ。行こうよお兄さん」
その瞬間、車掌の渡辺が
「大丈夫なんですか!? あそこ使ってッ……」と大澤田にヒソヒソと訴えた。それに大澤田もヒソヒソと返す。
「別に問題ないだろっ…取り敢えず我々は乗客の安全を確保して、運転再開に向けて業務をだな…」
それを深いわざとらしいため息でチャラ男が制する。
「あのー、そっちの事情とかぶっちゃけどーでもいいんで早く乗客の安全確保してくださいヨー」
今度は運転士と車掌が顔を見合せる番だった。
結果、チャラ男の圧に負けて、2人を伴って運転士と車掌はその駅まで安全確認をしながら駅へ先導する事に。
駅の端にある小さな梯子でホームに上がる。
高木は事態を説明しようと会社に連絡するためスマフォを取り出した。
と、大澤田が悲鳴に近い感じで言った。
「おっお客様ッ、撮影は禁止区域なので! ここ! ご、御容赦くださいっ……!」
「撮影!?」
「はいっあの、ここはあまり世間に公表しておらず、今回の様な緊急時以外、何かの間違いで誰かに入られると非常に不味いもので!」
「あのね、会社!会社に事態を連絡しようとしてるんですよ!」
そこまで言った時、チャラ男が頭の後ろで腕を組みながら言った。
「おにーさん。ここ、圏外じゃね? 地下鉄内フツーにネット繋がんねーよ? きんきゅーじたいって奴で焦っちゃった?」
アッと高木はおでこに手を当てた。
「まぁこえー顔しないで許してよふたりとも! おにーさん別に写真撮る気はなかったって解ったんだしっ」
チャラ男は馴れ馴れしく2人の真ん中に立ち、2人の肩に手を置くとポンポン叩く。
そして、思いもよらないような低い声で2人の耳の辺りに顔を下ろすと
「……ま、俺らにバレたら不味いもんがあるってンならとっとと地上出口へ案内するなり、電車復旧させて次の駅へ運ぶなりしてくんね?」
と強めに言った。
駅の間の駅のこと(5)に続く