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Atlantis World Online -定年から始めるVRMMO-  作者: 双葉鳴
一章 お爺ちゃんとVR
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大型レイドボス討伐イベント①

今回より

本文:秋人君視点

あとがき:お爺ちゃん視点


でお送りします。

秋人君視点は結構時間軸が巻き戻ってるので、お爺ちゃん編の続きを読みたい人は飛ばしても構いません。

なお、お爺ちゃん視点は短めです。予めご了承下さい。

 その話を妻から初めて聞いた時、たしかにこれはチャンスだと思った。ただ規模が規模だ。僕たちのクランでは荷が勝ちすぎていると思ったからだ。


 クラン『精錬の騎士』


 騎士と銘打っているが、実質は物作りを得意とする人材を一手に担う生産クランだ。騎士とつけているのは騎士を顧客とした品揃えを目標としていたから。

 それでも戦闘する上での力は必要だったので素材集め班も多くいる。

 全員が全員生産者というわけでもないのだ。

 ただしメインは生産。だから中堅からいつまで経っても上層へと駆け上がるのにあと一押しが足りなかった。


「お義父さんには礼を言わなければな」


「うん、でもお父さんはこういうのにあまり興味持ってくれないから」


 うん?

 妻の言っている意味が理解できない。

 発見者はお義父さんだし、娘だからとなんでも譲ってもらえるという考えがそもそもおかしいのだ。けれど彼女は当たり前のように娘だからと主張する。


「まさかとは思うけど、お義父さんから奪う形で引っ張ってきたという事はないよね?」


 眼に力を込める。すると妻は途端に目を泳がせた。

 慣れない口笛も吹き始める。

 まったく。いい加減に自分の年齢を思い出しなさい。僕たちはもう子供ではない。子を持つ親の立場だ。まだ親に甘えようと考える精神性があるのか君は。


「だって、お父さん私なら安心だって言って譲ってくれたもん」


 言い訳にしたって酷い理由だ。

 これは何を言っても聞き入れてはくれないな。

 お義父さん、貴方のことは尊敬してますけど子育ては失敗しましたね。妻はお義父さんの事を利用する事が当たり前という打算的な考えを抱いてます。でも貴方は許してしまうんでしょうね。だからここは僕が動きます。彼女だけに任せていたら、より酷くなりそうで怖いから。


「うん、そうだね。じゃあ僕から伝えるから、由香里もその場にいてくれる?」


「分かったわ」


 彼女は非常に頑張り屋で優秀な人物なのだが、こと父親が絡むと甘えが出てくる。それに絶対に自分を曲げないのだ。僕が言っても譲らず、非常に頑固になる。





 その夜、お義父さんに話を持ちかけた。

 そこでお義父さん直々に僕のクランに世話になる事を改めて聞かされた。もっと妻からたかられているのではないかと心配していたが杞憂だったようだ。それに……


「いつまで経っても親にとって娘は可愛いものだからね。上二人の娘が家庭に入ってからはとんと連絡が来なくなった。今もこうして甘えて来てくれるのは由香里だけだよ。父親冥利に尽きるね」


 そう話すお義父さんは本当に嬉しそうで、僕はそれ以上何もいえなかった。もしも美咲がこの先大きくなった時、もし同じ状況に陥ってしまったら、きっと僕も同じように許してしまいそうだったから。

 これは男親の心理であり弱点なのかもしれない。


「それでも過度に甘やかすのは辞めてくださいね。癖になってしまうと抜け出せなくなってしまうので」


「秋人君は由香里が本当にそうなってしまった時の最後の砦だよ。そうなってしまった時、私では対処しきれなくなる。頼むよ?」


「それは勿論。それとゲーム内で彼女が甘えて来た時は……」


「うん、私だって嫌なことには嫌だとハッキリ言える大人だ。それに娘に話せない苦労もたくさんしてきた。彼女の浅慮に対して注意してやることもできる。けれどね秋人君、私が知ってる知識はこの時代では古臭いかもしれない。そこは君が支えてやってくれないか? 私は君達よりも早く召される運命だ」


「そんな、お義父さんはまだまだお若い……」


 60歳になったばかり。働こうと思えばどこだって。

 そう言いかけた先の言葉を飲み込んだ。

 本当にそうか? 自分が60になるのと、お義父さん世代が今を生きるのは同じ事じゃない。

 時代の変化でたしかに暮らしは良くなった。

 同時に無駄だと思った物をなくしてきた。

 由香里の実家は物が溢れている。それは僕たちからしたら無駄なものにしか思えないが、お義父さんにとったら大切なものだ。

 物を大切にするお義父さんがこれから先の時代で生きていけるか考えた時、僕は難しいだろうという言葉を導き出していた。

 フルダイブという技術に対してだってどこか否定的だ。

 僕たちほど頭で理解できていないのかもしれないし。

 そして僕がその言葉を放とうとした時、お義父さんは少しだけ寂しそうな顔をしていた。きっと分かってるんだ。既に自分が今の時代に置き去りにされてるだろうことは。

 それを自覚したうえでこの人は妻のことを頼むと言ってくれているのだと気付かされた。


「ありがとう。それでも自分の体のことは自分がよく分かってる。無理はしないさ。でも、そういう事になったときの覚悟はしておいて欲しい」


「肝に命じておきます」


「なら私は安心だ。安心してゲームを楽しめる。今後イベントの事で色々と君に迷惑をかけると思うけど、あまり娘を責めないでやって欲しい。あの子はね、周囲の価値観に染まりやすいだけなんだ。本来はもっと優しい子だよ。本心から私を利用しようとはしてないんだ。そこは分かって欲しい」


「それは僕が一番分かっていますよ。おやすみなさいお義父さん」


「うん、おやすみ」





 お義父さんはそういうけど、僕はやっぱり心配だ。

 僕の前で見せる表情と、お義父さんの前で見せる妻の表情は違うから。僕の前で見せる表情は偽りの仮面を被っている。

 きっと娘の美咲の前でもだ。

 それがお義父さんの前だと娘としての顔になる。


 それは別に良い。親子だから。

 でもそれにしたっておねだりが過剰だとは思う。

 それぐらい彼女にとって安心できる相手ということだ。


 開いた掌を見つめ、握りしめた。

 結婚して15年。僕はまだ妻からの信頼を勝ち取れていないのか?


 お義父さんを見るたびに不安が過ぎるのだ。

お読みいただきありがとうございます。


挿絵(By みてみん)


少ないですがお爺ちゃんの続きをあとがきに記載することにしました。


 ◆水中戦闘Ⅰ



 スズキさんと泳ぐこと数分。

 突如流れていた穏やかな景色が凍りつき、ガシャンと割れた。

 このエフェクトは確か……


「ハヤテさん、僕の後ろに」


 前に出るようにしてスズキさんが私を隠そうと手で抑えてくる。


「スズキさん、平気ですか?」


 平穏を望む貴方が。


「水中は僕のテリトリーですから平気です。でもハヤテさんは……」


 孫から聞いたのだろうか?

 お察しの通り私は攻撃手段を持ち得ていない。

 ここは大人しく引き下がっていた方が良いだろうね。


 水中を泳ぐというよりただ流れているソレは、今まで遭遇してきたボール型ではなく人の形を模していた。


「知っているタイプですか?」


「いえ。僕はこの水域で戦闘は初めてです。逃げた方が得策ですが……」


 ちらりと周囲を見渡せば、ゆっくりとだがこちらに迫る数体の影。

 つまり向こう側から敵と認識されたのだ。

 散漫な動きではあるが、どれほどの攻撃力を有しているのかわからない。それと同時に、戦闘において逃げたという行動をとったプレイヤーが今までにいないということが気がかりになっている。


「分かりました。精一杯サポートします」


「何を?」


 困惑するスズキさん。

 そういえばブログにはこの情報を記載していなかったね。

 木登りすることに夢中でそれどころじゃなかったというのもあるし。


「スクリーンショットにはこういう使い方も有るんですよ!」


 パシャリ、パシャリと対象に向かって連射し、そしてクリティカル。

 情報を抜いた私はスズキさんに指示を出す。


[スワンプマン型の情報を獲得しました]

 耐久:500

 攻撃手段:取り憑き、捕食、擬態

 特殊技能:成り代り

 (捕食したプレイヤーのログイン権を一つ消費し、勝手に行動する)

 ※その際に生じるアイテムの紛失、所持金の減額は巻き戻しされません


[クリティカル! 弱点情報を獲得しました]

 弱点:真水、聖水、真空


 これはやばいですね。ボールはただの突進攻撃でしたが、こっちはログイン権を勝手に消費するタイプです。その上アイテムや残金を勝手に消費される面倒な奴です。これは連携を乱すパターンですね。

 しかしどこまでそのプレイヤーに似せてくるのか分かりません。非常に厄介です。



「スズキさん、攻撃手段は?」


「水中戦闘は近接主体。それと水中時にのみ威力を増す水鉄砲があります。こちらは中距離で遠距離攻撃手段はないですね」


 つまり単体戦闘に向くって意味ですよね。

 対して相手は低く見積もっても4体。

 多勢に無勢という奴です。


「スズキさん、残念ながら逃げた方が良さそうです。相手は格上だ。捕まればそれで終わってしまう」


「スクリーンショットで何を見たんですか?」


「モンスター情報と攻撃手段。それと弱点情報です。スズキさん、ここの海域を真水にする手段を持ち得てますか?」


「無いですね。僕のスキルは海中遊泳が中心です」


「ならば対処法はありません」


「ハヤテさんがそう言うなら従います。相手があの遅さなら振り切れるでしょう」


「はい、ではそういうことで」


 手を繋ぎ、振り切ろうとバタ足の速度を上げた。


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