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新星のアイオーン  作者: ネツアッハ=ソフ
世界終末編
51/52

9,原初の契約

 時は遡り、原初世界。


「何から話すべきか………ともかく、全ての起源(はじまり)は俺が原初世界に到達(とうたつ)した事から始まった」


 そう言い、チーフは話し始める。どうやら翼卵(よくらん)の中に居る存在も、アーカーシャもじっと静観するつもりのようで先程から大人しくしている。


 僕とリーナも黙って話を聞く事にする。それを見て、チーフは僅かに()みを浮かべながら首肯しそのまま続きを話し始めた。


「俺は純粋に科学技術が発達した世界の出身だった。宇宙全土に勢力を拡大(かくだい)し、多元宇宙にまで範囲を広げそしてやがて(かみ)の領域にまで到達する手前にまでこぎつけた」


 そう、チーフの居た世界は純粋な科学技術によりその文明の規模を多元宇宙全土にまで勢力を拡大していく事に成功していたという。


 多元宇宙全土にまで文明レベルを拡大し、やがては神の領域へ………


 即ち、多元宇宙の起点(きてん)となった座標へと進出する手前まで来ていた。


 しかし、神の領域にまでその領土を拡張する一歩手前。結果として大戦争(だいせんそう)が勃発する。


 人類文明は、多元宇宙全土を舞台にした大戦争の結果として宇宙(せかい)ごと消滅する。


 そう、たった一人。チーフを残して………


()き残った一人として神の領域に到達した俺は、そのまま高次生命として原初世界に到達しやがて原初世界を創造し全ての多元宇宙を創造した生命体と遭遇(そうぐう)した。それが、アーカーシャだ」


 そして、仲間も故郷も失ったチーフは自棄(やけ)を起こしアーカーシャに喧嘩を売ったという。しかし当然の結果としてチーフはアーカーシャに敗北(はいぼく)する。


 科学技術が発達した世界に生まれ育ち、全ての法と理を(おさ)めたチーフですら理解の及ばない不可思議な力と術の数々により呆気なく(やぶ)れたのだという。


 そして、チーフはアーカーシャの意思(いし)に触れる。その本質に触れる。


 その意思を知り、本質を知り、やがてチーフはアーカーシャと交渉を行ったという。


 その交渉とは、端的に言うと創造主(そうぞうしゅ)であるアーカーシャを(なが)い封印にかけるという物。


 アーカーシャが封印されている間、チーフは彼に対抗しうる戦力を(あつ)める。そして、その封印が解けた来たるべき日にアーカーシャを満足させる為、再び戦いを(いど)むと。


 そう、全てはアーカーシャただ一人を満足させる為の。云わば茶番劇だった訳だ。


 それを聞いた僕は、頭を鈍器で(なぐ)られたような衝撃を受けた。


 ………何だこれは?何だ?この馬鹿(なぐ)げた話は?


「………何だ、それは?何だよそれ?」


「全ては必要な事だったんだ。アーカーシャの、無限の孤独を(いや)す為に」


「何だよ、それは?そんな茶番の為に………そんな(くだ)らない事の為に、僕達は」


 そんな下らない茶番の為に、僕達はさんざん()り回されて来たのか?


 そう、絶望の声を上げそうになる僕に。チーフは静かに首を左右に振った。


「始まりは、ただ孤独を(いや)す為だったらしい。その為に原初世界を創造し、様々な多元宇宙を創造し生命を創造したという。しかし、事此処に至ってはそれだけに(とど)まらないらしい」


「………どういう、事だ?」


「アーカーシャは全ての創造主だ。全てを超越し、思考(おもい)一つあれば何だって出来る」


「……………………」


 アーカーシャという超越者。何もない(ぜろ)の中で初めて生まれた、原初生命。


 果たして、何でも出来るというのはどのような気分なのだろうか?始まりから全てを(あた)えられたというのは果たしてどのような気分なのだろうか?


「けど、そんなアーカーシャだからこそ弊害(へいがい)があった。アーカーシャの中で、人類を深く愛する気持ちと同時に深い落胆(らくたん)の気持ちが芽生(めば)えた事だ」


「落胆………」


 アーカーシャは思考一つで何でもできる。


 つまり、思考を僅かに(かたむ)けるだけで不可能さえ可能とする。不条理さえ叶えてしまえる。


 しかし、それは一つの欠陥(けっかん)を生んだ。


「落胆の気持ちは徐々に大きくなり、成長し、やがて大きな失望(しつぼう)に変わった。文字通り、思考一つで何でも出来るアーカーシャにとってはそれは一つの悪性(あくせい)を生み出す結果となった」


 その悪性に、アーカーシャは徐々に意識を()まれつつある。全てに落胆し、失望した。その感情は魔物となり(あるじ)の意識を少しずつ呑み込んでいったという。


 結果はどうあれ、アーカーシャは自身の生み出した世界を(あい)している。自身が生み出した全ての生命を深く愛しているのである。それを(こわ)すのは、彼とて不本意だろう。


 自身が創造した世界で生命が独自の進化を繰り返す。それを見て歓喜(かんき)するのを自覚した。しかしそれと同時に失望と落胆も自覚していた。


 どうして(くじ)けるのか?どうして折れるのか?


 どうして(あきら)める?どうして絶望する?


 始まりから超越の者であったアーカーシャにとって、最大の不幸だったのは他者の失敗や挫折を何一つとして理解出来ない事だった。


 人が諦めずに歩み続けるのが嬉しい。その中で進化を続けるのが(ほこ)らしい。


 しかし、同時に何故失敗するのか理解出来ない。何故挫けるのか理解出来ない。


 最初から全てを与えられていた孤独な怪物(なにか)は、人の失敗や挫折を何一つ理解出来ない。


 だからこそ、それを知ったチーフはこう(だん)じた。


「全ては、アーカーシャの内に生まれてしまった魔物を打倒(だとう)する為。そして———」


 アーカーシャ自身に、それでも人は素晴(すば)らしいと理解してもらう為に………


 挫折や失敗があるからこそ、人は其処から学び進化を続けられるという事。


 それを()ってもらう為に………

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