4,貪食と暴食の限りを尽くす悪魔
一方、四条アマツ達は暴食の限りを尽くすカミラという悪魔に攻めあぐねていた。カミラの固有宇宙により発生した暴食の大嵐。それにより周囲の空間ごとアマツ達の攻撃が無効化される。
禁忌の言霊も、世界を焼く炎も、ましてや次元貫通の弾丸すら暴食の宇宙に無効化される。どうやらカミラの固有宇宙は俺の対世界属性すら上回る出力があるらしい。
いや、違う。そうじゃない。
恐らく奴の固有宇宙は出力とか攻撃性とか、そういう一切合切が無関係だ。
カミラという存在の持つ宇宙観、それは簡単に説明をすれば無限の食欲。
或いは無限の貪食性だろう。
彼の食欲に制限は無い。そもそも、彼は常に餓えて乾いているんだろう。故に、全てを宇宙そのものすら食らい尽くすまで止まらない。いや、食らい尽くして尚止まらない。
彼は、全ての宇宙を己の内に食らい尽くして尚それでも満たされないのだ。故に、彼の固有宇宙はそういうカタチへと至ったのだろう。即ち、彼の餓え乾く精神の現れだ。
彼のどうあっても満たされない心が、無限の食欲として現れたのだろう。
それは即ち、宇宙の全てを喰らい尽くして尚彼が満たされる事のない証明。無限に食らい尽くしてそれでも満たされない事の証明だろう。
だが、手が無い訳では無い。決して手段が無い訳では無いだろう。何故なら、俺の次元貫通の弾丸を受けたその瞬間だけ、彼の暴食がほんの一瞬揺らぎのようなものを見せたからだ。
恐らく、俺の固有宇宙だけが奴の固有宇宙に対し打倒の可能性がある。
しかし、今の俺の力では圧倒的に出力が足りない。圧倒的に宇宙観で負けている。
文字通り、内包する宇宙の桁が違う。宇宙観の桁が違う。
ならどうする?どうすれば、俺は奴を上回る事が出来る?どうすれば?
簡単なこと、固有宇宙の第二解放。それに到達すれば良い。
しかし、それに至るには圧倒的に時間も経験も足りない。俺が奴に勝利するには、圧倒的に何もかもが足りないのだ。今すぐに第二解放へ至れるほど、その領域は安くない。
さて、どうするか?そう考えていたその時———
ついに耐え切れなくなったオフィスビルが脆くも崩壊した。
俺達は、一斉に崩落するビルから瓦礫とともに落下する。意識が黒く塗り潰されてゆく。
・・・・・・・・・
暗い。何も聞こえない。何処だ?此処は………
暗い。冷たい。此処は、寂しい………
何処までも続く、無限の虚無。或いは、此処こそが死後の世界とやらなのだろうか。そもそも俺は本当に死んだのだろうか?何も解らない。何も聞こえない。
何も、解らなくなってゆく。何も考えられなくなってゆく。何も感じなくなって、
「………?」
と、其処でふと俺は気付いた。何処までも無限に続く虚無。その中でそれでも尚存在する確かな温もりを放つ輝きを。確かな光を感じる。
果たして、それは一体何なのか?いや、違う。これはそもそも………
「………これ、は。俺の中の?」
これは、俺の中の光か。俺の中にある、俺の中で輝くものか。
俺の中の輝き。それはつまり、俺の中で不変の価値を示す存在達。
「みんな………」
それは、俺の友人達の存在だった。俺の、いちいちおせっかいを焼いてくる友人達。
そして、何よりも大切な………唯一の
「ソラさん」
俺の中の、皆の存在。俺の根幹を成す、みんな。俺のすべて。
そうだ、俺は決して一人じゃない。独りなんかじゃない。
なら———
此処は、暗くて冷たくて寂しい。此処は、恐らく死そのものなのだろう。死は暗くて冷たくて何もなくてそして寂しいから。けど………
俺の中に、皆が居る。俺の中に、確かに存在している。なら、
きっと、それでも俺は寂しくはない。そう思い、俺は目前の虚無と向き合った。
・・・・・・・・・
「っ、よかった。目を覚ました‼」
目を覚ませば、俺の目の前にソラさんが居た。いや、意識を失っていた俺をソラさんが助け出して抱きかかえていたのだろう。目を覚ますまで、ずっと。
見れば、崩壊したオフィスビルの傍で未だに暴食の嵐が吹き荒れている。暴食の大嵐が、未だ周囲の空間ごと食い荒らして破壊し続けている。
なるほど?状況は理解した。
「っ‼」
「っ⁉だ、駄目だよ!まだ傷が塞がっていないから!」
しかし、それでも俺が諦める訳にはいかない。俺が諦めれば、其処で全てが終わる。
此処で、世界は終わるから。だから………
「そうか、やはりお前なら諦めないよな」
「っ⁉お前ら‼」
俺に、唐突に話しかけてきた奴等。恐らく、先程から此処に居たのだろう。
彼等は、
「よう、ダチ。助けに来たぜ?」
古城リュウヤとミカちゃん兄妹。ネメア先輩とフォーマルハウト、アルデバランも居る。
どうやら、五人とも俺達を助ける為に駆け付けてくれたらしい。リュウヤに至ってはかなり気合があるらしく格好付けている節があった。何処から持ってきたのか、特攻服を着ている。
うん、しかしまあ確かに五人が増援に来てくれて助かってはいる。
なのでそれはありがたくいただいておく。
「ああ、増援は正直助かる。正直、そろそろ攻勢に出ようと思ってたところだ」
「アマツ君、あの暴食を打ち破る術があるの?」
「ああ———」
ソラの言葉に、俺は端的に頷いた。
「さあ、ファイナルラウンドの始まりだ」




