3、永久不変の宇宙
それは、簡単に言えば永久不変と呼べるだろう領域。無限の時を経ても変わらない。それ故秒を跨がずに急変していく物理法則の嵐の中、一切苦もなく立っていられる。
簡単に説明をすると、だ。次々と変質をしていく法則の嵐に逐一適応をするのではなく、ただその嵐の中でそれでも我を貫き通すという事。
即ち、事象の嵐の中でたった一つの特異点と化すという事だ。
この僕、シリウス=エルピスが到達したのはその領域である。つまり、固有宇宙樹という究極の多様性宇宙を宿した上でその全てを以って不変としたのである。
秒を跨がず次々と物理法則が変質していく事象の嵐、その中でそれでも僕は僕だと叫ぶ。
それこそが、僕という人間が到達した極致である。
言うのは簡単だが、当然それ程簡単な話ではない。文字通り、魂すら砕くような大嵐の中でそれでも屈する事なく己が己であると言い切る精神が必要だろう。
それは、当然並の精神ではない。尋常外の精神力を必要とする。
「しかし、先ずはお前から先だな………」
そう言って、僕は悪魔Ωを見る。彼は既に、口から泡を吐き狂気じみた笑みを浮かべて哄笑するのみの存在と化していた。明らかに、危険領域。
しかし、それでもあの翼卵の主はエネルギーの供給を止めない。それでも、彼に期待しその力を送り続けているのである。何故、其処まで期待するのか?一体何に期待しているのか?
そんな事、最初から決まりきっている。
それは、無論悪魔Ωの更なる覚醒をだ。僕が更なる覚醒を果たした、それ故きっと彼も必ず期待に応えて覚醒を果たす筈だ。いや、果たすに違いない。
そう思い、期待を寄せている。しかし、そうはならないだろうと僕は見ている。
何故なら、彼は既に限界だからだ。もう、既に自我などほとんどありはしないだろう。
それなのに、だ。
それでもきっと、あの存在は期待する事を止めないだろう。それでもきっと愛する事を絶対に止めたりしないだろうから。だからこそ………
だからこそ、もう楽にしてやるべきだ。そう思い、僕は一振りの剣を顕現させる。
星魔剣ΑΩ———
《っ、それは———⁉》
僅かに驚いたような素振りを見せる翼卵の主。その反応は、まるでこの剣の存在を既に理解しているかのようである。まるで、僕がそれを所持しているのを見て驚いているような。
一体何故か?しかしそれを考えている暇など今はない。
悪魔Ωは星魔剣を構えた僕を見て野獣のように跳躍し襲い掛かった。しかし、その瞬間にはもう既に決着が着いている。それは即ち………
「さようなら、もうお前は眠れ」
「ぎゃ………がっ…………ぁ」
真っ二つに両断された悪魔Ω。しかし、息絶えるその間際。確かに僕は見た。
悪魔Ωの表情が、何処か安らかに笑みを浮かべるその姿を。ようやく安らかに眠れる事に心底から安堵しているかのように。穏やかな笑みを浮かべていた。
或いは、
「………或いは、この悪魔もただ一人の人間として普通に眠りたかったのかもな」
ぽつりと、僕はそう呟いた。
ただ、普通の人間として。普通に死にたかったのかもしれない。それなのに、自分の本当の目的も願いも何もかもを見失ってしまった。
そっと、傍に寄り添うように近寄るリーナの肩を抱く。僕達の表情は、優れない。
それはきっと、悲劇なのだろう。
これ以上のない悲劇なのだろう。だからこそ………
「なあ、本当にこれで満足か?其処のオマエ」
《………やはり、彼も駄目でしたか。彼の件は私も残念に思います。しかし、それでも貴方は私の期待に無事応えて覚醒を果たしました。それだけは喜ぶべきでしょう》
「な、にが………」
《まだまだ貴方のような人物が居ることだけでも知れて本当に良かった。なら、きっと他の人も大丈夫だと安心出来ます。それだけで、まだまだ私も続ける価値がある。なら彼の犠牲もきっと無駄でも無価値でも無い筈ですから》
その言葉に、僕はようやく察した。理解した。やはり、こいつは駄目だと。
これは既に終わっている。もう、こいつは行き着くところまで行きついている。故にこれはもう此処で倒してしまわねばならないと。そう理解して、
「待て」
そう言い、僕に声を掛けてきた人物が居た。それは、僕も知っている人物だった。
シークレット・チーフだ。




