6、夢幻世界
「ああ、あああ、あああああ、あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっ‼」
ラス=アルグルが、名状しがたい絶叫を上げる。すると、彼女の精神波が世界を覆う。
全てを、覆い尽くす。
世界が変質していく。アルグルの絶叫と共に、世界が変質していく。彼女の精神波が、世界を浸食して物質界を地獄へと書き換えてゆく。今在る世界を、地獄へと変えてゆく。
それは、まさしく固有宇宙の第二解放。ラス=アルグルの覚醒に他ならないだろう。変質してゆく世界法則に皆は苦悶の声を上げる。世界法則が、地獄の法へと書き換わってゆく。それに、皆が耐え切れず苦悶の声を上げている。此処に居るだけで、生命を蝕む地獄へと変質していく。
しかし、そんな中でも俺は平然と立っていた。俺は今、何かを摑みかけている。
いや、違う。そうじゃない。そう、これは………
それは何か?俺自身にも解らない。解らないが、それでも恐らくは俺の本質そのものが。
そうだ、これは。いや、それも違う。それは、そうだ………
もうすぐで、それが摑める気がした。あと、もう少しで。何かが摑める。
「あああ、ああああ、あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっっ‼‼‼」
ラス=アルグルの壊れた絶叫と共に、俺に地獄の法が襲い掛かる。それは、俺には彼女の悲鳴にも涙にも見えていた。そして、それは恐らくは正しい。
この地獄は、彼女の悲鳴だ。彼女は、きっと子供のまま停滞しているのだろう。
俺には彼女が泣きながら駄々をこねる子供と同じに見えていた。
いや、彼女の場合は実際に子供のまま成長しなかったのだろう。
だからこそ、全てはもう決定している。大人になっても、駄々をこねる彼女に説教をする。
説教し、彼女を地獄から引き上げる。彼女を殴ってでも止める。
「お前も、もう泣き喚くのを止めろ‼」
「ああ、うああ、あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ‼‼‼」
俺の放った一発の銃弾が、地獄を引き裂く。続いて放たれる銃弾、何発もの銃弾が地獄を次々と引き裂き無力化していく。これが、俺の持つ固有宇宙の特性。
あらゆる固有宇宙の持つ世界観や宇宙観を貫通し無力化する。対世界特性。
世界にはびこる理不尽を、地獄を引き裂く魔弾。次元貫通の魔弾の本質なのだろう。
呆然と立ち尽くすアルグルを真っ直ぐ睨み、俺はそのまま次弾を撃つ。
これで、もう終わりにする。
「もう、お前も地獄で全てを語るのを止めろ」
そして、俺の放った魔弾がアルグルの頭部に命中し。致命的な何かを貫通して破壊した。
それは、アルグルの中にある地獄の崩壊に他ならなかった。
俺の魔弾が、彼女の世界を破壊した瞬間だった。
・・・・・・・・・
倒れたアルグルを、俺は静かに見下ろしている。彼女は死んではいない。まだ生きている。
俺が魔弾で貫通したのは、彼女の中の地獄。云わば彼女の世界そのものだ。
つまり、簡単に説明すれば彼女の固有宇宙の根幹を成す世界そのものを破壊した。即ち彼女は自身の世界そのものを破壊されて昏倒しているに過ぎないだろう。
………そう、彼女は今昏倒しているに過ぎない。死んだ訳ではない。
此処で、余計な横やりさえ入らなければの話だが。
「っ、な………‼?」
「え………?」
俺とソラの、呆然とした声が上がった。
ラス=アルグルは、その瞬間周囲の空間ごと渦を巻いて何かに呑み込まれていった。それはまるで目に見えない怪物に食われてしまったかのような。そんな光景だった。
そして、恐らくはその認識は正しい。そう、彼女は今食われたのだ。周囲の空間ごと。
目に見えない力により周囲の空間ごと食われて消えたのだ。
「ラス=アルグル。俺の中で安らかに眠れ………」
其処には、無表情で立つカミラの姿があった。




