5、絶望と慟哭
精神を直接揺さぶるような、そんな意思の波が室内に満ちる。
それは絶望———心を揺さぶる絶叫。
それは慟哭———彼女の泣き叫ぶ心の波動。
そう、彼女は絶望と慟哭に泣き叫んでいた。絶叫と共に、その絶望の意思が伝わってくる。何故自分はこうも理不尽な目に会うのか?何故、自分達はこうも不条理に会わねばならないのか?
そして、その絶望は他者に向けられ理不尽を振るう側へと回る。
何故あいつ等は幸せなのか?何故あいつ等ばかりが笑うのか?私達は、自分達はこうも不幸なのにあいつ等ばかりがこんなにも幸せをのうのうと享受して、私達ばかりが‼私が‼
許せない許せない許せない。私達がこうも理不尽にも不幸な目に会っているのに、あいつ等はそれを知らずにのうのうと私達を踏みにじり笑っているのが許せない。
絶対にっ‼
・・・・・・・・・
ゴゥッ‼意思の波が更に勢いを増して俺達に襲い掛かる。
理不尽にも自分達を踏みにじり、それを糧に得た幸福で笑う者達を憎悪する。
「………っ‼」
ぎりぃっ、と俺は歯を食い縛り前に立つ彼女を睨み付ける。壊れた悪魔を、睨み返す。
ふざけるなだと?何故だと?許せないだと?
それは、俺達のセリフだ‼
「ふざけるなっ‼そんな事の為に俺達は、俺達家族は崩壊したのか‼ふざけるなだと?何故だと?俺達を許せないだと?そんなの全て俺達のセリフだろうがっ‼‼‼」
「な、に………?」
ぎぎぎっ、と彼女の視線が俺の方を向いた。その瞳は、壊れた人形のような無機質な色を。
ゴウッ、と俺を怒りと憎しみの波が襲う。負の感情が、物理的な波として襲い掛かる。しかしそれ等憎悪の嵐を俺はしっかりと立ちながら睨み返す。睨み返し、言い返す。
「理不尽が許せないだと?何故自分達ばかりだと?だから、俺達に理不尽を強要するのか‼お前達が理不尽を振りまく側になると言うのかっ‼‼‼馬鹿にしてんじゃねえぞっ糞野郎が‼‼‼」
そんな事の為に、俺達はさんざん振り回されたというのか‼‼‼
そんな事の為に、俺は。父さんは。母さんは。
「お前に、私達の何が………」
「お前達に、俺達の何が解るっ‼‼‼」
俺の絶叫は、彼女の負の情念を押し返した。
今、俺は理解した。奴は亡霊だ。過去の地獄を忘れる事が出来ず、同じ地獄へと他者を引きずりこまねば気が済まない。そんな怨念に過ぎないだろう。
だからこそ、俺はこいつを倒さねばならない。絶対に、こいつを許してはならないだろう。
こいつを、こいつ等を放置すれば未曾有の災厄へと変質するだろうから。
だから、俺はこいつを倒す。その意思を籠めて俺は彼女を睨み付ける。それにソラも並ぶ。
そんな俺達を見て、ラス=アルグルは歯を食い縛り壊れた視線で睨み付ける。
「だ、まれ……黙れ黙れ黙れ…………」
「………ラス=アルグル。カミラ。お前等は俺達が倒す」
「黙れえええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええぇぇぇぇっっ‼‼‼」
悪魔の絶叫が、壊れた悪魔の絶叫が周囲に鳴り響いた。




