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新星のアイオーン  作者: ネツアッハ=ソフ
対話編
35/52

2、親子対面

 時刻は昼過ぎ———太陽は中天(ちゅうてん)に輝いている。


 そして、俺達は”輝く星空”(ほんぶ)部に到着した。街の中央に建つ、巨大オフィスビル。そのビルに存在する全ての企業や会社が輝く星空の直系(ちょっけい)となっている。


 いや、正確にはそれら全ての会社を総称して”輝く星空”と()ぶ。つまり、これら全ての会社はその本来のカタチと()をごまかす為に造られた偽装(ぎそう)に過ぎない。故に、このビル全てが本部だ。


 結社”輝く星空”。父さんが造った、世界を(うら)から支配する組織。


 本来は、もっと別の理由から(つく)られた組織らしいけど。今は世界を裏から支配する、巨大秘密結社と成り()てている。世界的巨大組織へと。


 其処に、思う所がないとは言わない。正直、思う所はあるが……


「…………行こう、ソラさん」


「うん」


 俺達は、互いに覚悟(かくご)を決めてビルに入る。瞬間、ビルのロビーに一人の女性が立っていた。


 栗色(くりいろ)のショートカットをした、チェック模様のベストにスカート姿の小柄な女性。恐らく彼女も組織の人間なのだろう。或いは、俺達を直接迎える為に()し向けられたか?


 その女性は、俺達の姿を確認すると軽く会釈(えしゃく)をした。女性らしく、(やわ)らかな物腰だ。


「四条アマツ様にソラ=エルピス様ですね?お()ちしておりました……」


「俺は父親に会いに来た。(とお)して貰っても構わないか?」


 軽く警戒しながら()う。もしもの場合は、此処(ここ)で戦闘になってもおかしくない。それはソラも理解しているのか(わず)かに身構えている。しかし……


 それは、どうやら杞憂(きゆう)だったらしい。女性は僅かに笑みを浮かべて頷いた。


「了承しました。では、こちらにどうぞ…………どうか、社長(しゃちょう)を」


「……………………」


 最後、何かを言おうとしていた女性だった。しかし、女性はそのまま口を(つぐ)んだ。何か、理由でもあるのだろうか?それとも———


 何故だろう?一瞬だけ、女性が酷く悲しげな表情(かお)をしていたのは。気のせいか?


 いや、やはり今はいい。今は父親の事にのみ思考(しこう)を集中させるべきだ。今は、それ以外に思考を裂いているべきではないだろう。だから、


 俺達は、そのまま女性の後ろを付いていった。俺の胸が、(ひど)くざわついた。


          ・・・・・・・・・


 オフィスビルの最上階、最奥(さいおう)の部屋。その前で女性は立ち止まった。部屋の扉には、社長室と札が掛けられている。この中に、(とう)さんが。


 自然、俺は(つば)を呑み込む。心が緊張して、()り詰める。


「社長は中におられます。どうぞ」


「……………………」


 部屋に入ろうとした、その瞬間(しゅんかん)———


「その、えっと……」


「?」


 振り返る。女性は、どこか躊躇(ためら)うように視線をさまよわせながら……それでも言った。


 強い決意を示すように。何処か、(いの)るような瞳で。そして、()きそうな悲しげな表情で。


 僅かに声を張り上げて、言った。


「社長を、あの人をどうか(すく)って下さい……どうか、お願いします!」


「貴女は……」


「本当は、こんな事を(たの)めるような立場ではないのは理解しているんです。けど、あの人が狂い始めたのは私のせいなんです。私が、親友に嫉妬(しっと)したから……そのせいで」


「……………………」


「悪いのは、全部私なんです。私が親友(しんゆう)を、あの人を裏切(うらぎ)ったから…………っ」


 果たして、それがどのような意味(いみ)があったのかは理解出来なかった。しかし、それでも何か必死なのは理解したから。それだけは理解したから。


 だから、俺達は力強く頷いた。頷いて、ドアノブを(まわ)す。


 そして、中に入っていった。


          ・・・・・・・・・


 室内は、酷く()れていた。社長机も、その上に()いてあった筈のパソコンも、


 全て荒れ果て(こわ)れていた。


 中には、一人の男性が居るだけだった。スーツ姿の、壮年(そうねん)の男性。顔はやつれ果て。その目の下には深くクマが浮かんでいる。しかし、その瞳には爛々(らんらん)と危険な光が。


 知っている。顔はやつれ果て、目の下にクマが(きざ)まれているが。それでも俺はこの男を。この男が俺の父親であり、”輝く星空”の総帥(そうすい)。四条大地だ。


 すぐに、俺はそれを理解した。理解して、(いた)ましい気持ちになった。


「よく来たな、()が子よ…………」


「父さん」


 父さんは、にこりともしなかった。しかし、その瞳は爛々と危険な光を(とも)している。


 そして、俺はようやく理解した。確かに、今の父さんは精神支配を受けている。けど、


「父さん、そんな姿になってもまだ支配(しはい)に抗っているんだな」


「え⁉」


 驚愕の声。


 ソラは驚いた顔で、俺と父さんを交互に見た。(おそ)らく、これは家族にしか解らないだろう。解らないだろうけれど、俺には確かに理解出来た。その瞳の(おく)に、まだ俺の知る父さんが居る事を。


 父さんは、()だ抗っている。精神支配を受けながら、それでもきっと家族の為に。他でもない俺の為に父さんは抗っているのだろう。まだ、きっと間に合う。


 そう思った直後、父さんは口を開いた。にこりともせず、クマの刻まれたやつれた顔で。


「実に、無様(ぶざま)な事だ。他でもない家族を、お前の母さんを救いたかった。死病に犯された妻を救いたいと願いその手段を固有宇宙に(もと)めた。それだけの、(はず)だったのだが…………」


「…………え?」


 今、何て言った?母さんが死病に犯されていた?父さんが、その為に固有宇宙を?


 それはどういう…………?


「妻は、死病(やまい)に犯されていたのだ……。ただ、直後に固有宇宙が発言した為にお前は原因をそれだと勘違いしていたに過ぎん…………。ただ、時間が()かったのだ」


「そんな、母さんは……そんな事一言も」


「こんな事なら、もっと早く言っておくべきだった……母さんは、(おさな)いお前に無用な心配をかけたくないと無理をしていたのだ……ずっと、無理(むり)をして笑っていたのだ…………」


「そんな……そんな事が……」


 自嘲するように、父さんは笑みを()らした。それすらも、もはや辛そうだ。ただ、笑みを零すだけの事が既に辛そうだ。そんな父さんが、本当に(いた)ましくて……


 辛くて。悲しくて。


「そんな時だった……。俺が、奴等に精神支配を()けていると知ったのは…………。気付いた時にはもう何もかもが遅かった。既に、精神の根深(ねぶか)い部分にまで支配を受けていた…………」


「……………………」


「俺を(ころ)せ、アマツ…………」


「っ‼?」


 その突然の言葉に、俺は目を大きく見開いた。しかし、父さんは本気(ほんき)だ。それは、父さんの瞳を見ればすぐに理解出来る。それ程までに、父さんは強い覚悟を()めていた。


 父さんの瞳には、危険な光が宿っている。しかし、それでも今なお抗ってもいる。


 抗い、そして俺の手で死ぬ事を望んでいる。全てを()わらせる事を望んでいる。


 それを理解(りかい)した俺は……


「…………っ」


 黙って銃口を突き付けた。(ふる)える手を抑え、涙で(にじ)む瞳を真っ直ぐに父さんに向けながら。


 困惑(こんわく)するソラ。しかし、止める事は出来ない。ただ、硬直するだけだ。どうすれば良いのかソラでも理解出来ないらしい。ソラでも、判断(はんだん)出来ないらしい。


 そして、俺の手に持つガバメントが魔弾(まだん)を放った。それは、狙い違わず父さんの額に……


          ・・・・・・・・・


 魔弾を額に受け、四条大地は安堵(あんど)を胸に抱いた。ああ、これでようやく安心して逝ける。


 意識が闇に呑まれてゆく。全てが終わる。四条大地の人生に、(まく)を引く。


 そんな中、闇に沈んでゆく大地の意識を。そっと引き上げる者が居た。(つや)やかなウェーブの黒髪に優しい少女のような笑みを浮かべた女性。四条ミナ、大地の(つま)だ。


「……そうか、わざわざ(むか)えにきてくれたか。ミナ」


 笑みを(こぼ)す大地に、ミナは首を左右に振る。どうやら違うらしい。ミナは何処までも優しい瞳で大地を見詰め()げた。


 何処までも、(やさ)しい声音で。


「アナタにも、まだあの世界でやるべき事が残っています。あの子の(そば)に……」


「ああ、そうか……そうだな…………」


 自嘲の笑みを零した大地に、花が()くような笑みでミナは意識を()き上げた。

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