1、輝く星空本部
その後、俺達はフォーマルハウトとアルデバランの二人から輝く星空の本部所在地を聞いた。最初は二人も教える事を渋っていたが、やはりボスの身を案じているのか最後には教えてくれた。
俺とソラは、二人に礼を言いその場を後にする。二人は、一緒に付いていく事を提案したが。
「いや、良いよ別に。これは家族の問題だから・・・」
「そうか、ならせめて気を付けてな・・・以前は本当に済まなかったな」
「良いよ、別に・・・」
苦笑しながら俺はそれを断った。これは、あくまでも俺と父さんの事だ。
ソラはともかく、父さんとは家族として話をしたいと思っている。だから。俺とソラは二人で組織の本部へと向かう事にした。それが、俺なりの覚悟のカタチだから。
そう思い、屋敷を出てゆく・・・
・・・ ・・・ ・・・そして。
輝く星空の本部ビル。その所在地は意外な事に割と近くにあった。都市部の中央近くに大きく聳え立つ天を摩する巨大オフィスビル。実質、そのビル丸ごと一つがその組織の本部だ。
実質、というのはそのビルは表面上複数の企業や会社が各フロアに存在しているからだ。そしてその企業や会社とは即ち、輝く星空の裏の名前でもある。つまり、偽名だ。
そして、その本部は最上階に存在している。
普段は偽装の為に大手セキュリティ会社を装っているらしい。実際、セキュリティの為のシステムを組んでいるのはこの会社だという。それも、世界を裏から操作する為の工作の一つだが。
要は、世界のセキュリティシステムを抑える事で全世界に監視網を構築しているのだと。
他にも、世間を欺く為の偽装及び裏工作は数多くあるらしい。その数、約千通り。
文字通り、世界規模で監視網が築かれているという訳だ。なるほど、確かに驚異的だろう。その精密で緻密なシステムは、とても強固で堅牢だ。しかし・・・
しかし、裏を返せば精密で誤差の無い堅固なシステムそのものが致命的な隙となる。何故なら裏を返せばその精密性そのものが、一部の狂いすら許されないという事実だから。
もし、その精密なシステムにほんの僅かな誤差や致命的なバグでも発生しようものなら、恐らくそれだけで全てに狂いが生じる事になる。それこそ、ドミノを崩すように。バラバラと。
次々と連鎖するようにしてシステムに狂いが生じる物だろう。
だからこそ、精密なシステムを組む時は決して集中力を切らすべきではないのだ。一時も。
今回の件で言えば、その誤差とは即ちアルデバランとフォーマルハウト。この二人の裏切りこそが致命的な誤差と言えるだろう。或いは、この二人の忠誠心の高さ故に・・・
いや、それは流石に過言か。恐らく、そんなモノでは計れない物があるのだろう。
そう、俺は本部ビルに向かう道中思った。
「・・・・・・行こう、ソラさん」
「うん」
ソラは、俺の言葉に力強く返事を返してくれた。それが、とても心強かった。
・・・・・・・・・
さて、その頃シリウスとリーナはと言うと・・・
「・・・・・・リーナ、本当に良いのか?君は此処で待っていても」
そう問い掛けるシリウスに、リーナは微笑みながら首を左右に振った。そして、そっとシリウスの傍に寄り添うように抱き付いた。それは、まるで最後まで傍に居たいと意思を示すよう。
その姿に、シリウスは僅かに目を見開く。そして、僅かに安堵したように笑みを浮かべた。
それはきっと、二人だからこそ解る。深く通じ合った二人だからこそ解る事なのだろう。故にこれは本来聞かなくても解る事だ。二人には、聞かずとも理解出来る事・・・
「当たり前の事を聞かないで。私は、もう無銘の傍から離れない。そう決めたから・・・」
「そうか。そうだったな・・・ありがとう」
そして、背後に控える者に一つ命令を下す。
「そういう事だ、ステラ。俺達はこれから原初世界に向かう。お前はソラとアマツ君を頼む」
「・・・はい、了解しました」
・・・直後、シリウス=エルピスとリーナ=エルピスの二人は忽然と姿を消した。
まるで、最初から居なかったかのように。その姿を消失した。
・・・・・・・・・
そして、輝く星空本部ビル———社長室。其処に、社長たる彼は居た。
輝く星空の総帥である青き星のガイアこと四条大地は、まるで頭痛でも堪えるように額を押さえて脂汗を流していた。しかし、その口元は確かに笑みを浮かべている。
「・・・・・・そう、か。息子が・・・来る、か。ぐぅっ・・・・・・っ」
そして、やがて大地は暗く冷徹な表情になる。まるで、先程までの苦しみの顔が嘘のよう。
しかし、その額にはまだ脂汗が滲んでいた。それは、まるで何かに必死に抗うかのよう。そしてそれは決して錯覚ではない。彼は今、必死に抗っているのだ。抗い、振り払おうとしている。
精神支配から、必死に逃れようとしているのだ。しかし、現状それはとても難しい。何故なら彼に施された精神支配は緻密にして強固。精密にして頑強な支配力だ。
そもそも、もはやもう自分自身で抗える領域にはない。もう、全てが手遅れに近い。
何故なら、彼の場合は何年も前から少しづつ支配を受けていたのだから。少しづつ、まるで蜘蛛の糸で絡め取るかのように。少し、少しと本人ですら気付かれないように。少しづつ・・・
故に、気付いた時には既に遅かった。精神の奥底にまで侵食を受けていた。支配されていた。
其処まで浸食を許せば、もう彼の固有宇宙でも解除する事は至難だ。しかし、彼は抗う。
他でもない、自身の息子の為に。もう、家族を失わない為にも。それだけは、断じて許容出来ないからこそ魂を削るように必死に抗い続けるのだ。しかし、それを嘲笑う者達が・・・
「何だ、まだ抗っているのか?傀儡の総帥如きが・・・」
「もはや、私の精神支配は完全に決まっているのにねえ?くすくす・・・」
そう、他でもない総帥に精神支配を掛けた二人・・・世界の全てを敵に回す者達。
カミラとラス=アルグルだ。
「だ・・・まれ・・・・・・っ。貴様・・・ら、なんぞに・・・・・・っ」
「ああ、もうそういうのは良いから」
「ごっ‼?」
激しい音が、室内に響き渡る。
カミラは、あろう事か総帥である大地を殴り飛ばした。四条大地が、椅子ごと崩れ落ちる。そしてそれを醜い笑みで嘲笑う二人。その胸の内には、暗い愉悦の感情が。
そして、必死に立ち上がろうとする大地をカミラは踏み付ける。それも、ぐりぐりとその足で執拗にその誇りごと踏みにじる。その口元に、嫌らしい笑みを浮かべて。
外道、此処に極まれり・・・
「お前は、自分の手で自分の息子を殺すんだよ。自分の手で、愛する家族をだ。嬉しいか?実に楽しいだろうなあそれはっ‼自分の大切なモノを、自分の手で壊すんだよっ‼」
「い・・・やだ・・・・・・俺は・・・俺、は・・・・・・」
そして、とどめにカミラとアルグルは言った。自身の歪んだ欲望を。
自分達の、真の目的を・・・
「そうして、お前が息子を殺して完全に堕ちた時。その時こそ、真に俺達の計画は始動する」
「私達が、純血の悪魔へと至る為に。高次の存在へと至る為に・・・・・・」
「その為に、お前達は生贄になるんだよっ!俺達の崇高な目的の為になあっ‼」
大地は、その顔にこれでもかと絶望の表情を浮かべた。
それは、自分の手でただ一人きりの息子の命を奪う姿を想像してしまったが故に。それ故、彼はあらん限りの声を張り上げて絶叫した。絶望の、断末魔とも呼べる声を・・・
「き、貴様等はああああああああああああああああああああああああああっっ‼‼‼」
「ふっ、はは・・・あははははははっ。あーははははははははははははは、はははははははははははははははははははははははははははははははははっっ‼‼‼」
それは、まるで悪魔の産声のような。醜悪でどす黒い嘲笑だった。




