プロローグ
第二解放の訓練を開始して、数日が過ぎ去った。それは、実にあっという間の事だった。
俺は、屋敷の中庭でベンチに座りながら、独り考え事をしていた。固有宇宙第二解放の訓練を初めてまだ数日が過ぎたばかり。しかし、俺は待ってはいられなかった。
もう、時間は残されていない。そんな、嫌な予感がしたから。俺は決意を固める。
「そろそろ、行くか・・・」
「何処に行くの?」
声がして、振り返る。其処には、ソラ=エルピスの姿があった。その表情は、険しい。やはり言わずとも俺の考えは理解出来るらしい。やはり、ソラには敵わないか。
まあ、理解は出来ても納得は出来ないようだけど。其処までは俺も求めてはいない。故に、ソラに対して俺も即答する事が出来た。やはり、俺も意地が悪いのだろうけれど・・・
或いは、単なる意地っ張りか?まあ、其処はどうでも良い事のように思う。
「父さんに、会おうと思ってるんだ・・・」
「大丈夫なの?今会っても、殺されるかも知れないよ?」
そうかも知れない。けど、それでも俺は父親に会わなければいけない。
そう、思っているから。だから、俺はソラを真っ直ぐに見詰めた。
覚悟はもう決まっている。とは、口が裂けても言えないけど。むしろ、まだ父親に会うのは正直な所怖いけれども。それでも、俺はきっと父親に会わなければならないから。
それだけの理由があるから・・・
だから・・・
「それでも、俺は行かなければならないんだ。父親との関係を元に戻す為に・・・」
———もう一度、父親を父親と呼べるようになる為に。もう一度、家族を修復する為に。
「その為に、父親と殺し合いになっても良いの?自分が殺されても、良いの?」
理解出来ない、そう言うようにソラは俺を見詰めてきた。無論、俺だって父親とは殺し合いになんてなりたくはない。それに、殺されたくもない。俺だって、怖い物は怖い。
しかし、俺は静かに首を左右に振りながらそれでも真っ直ぐにソラを見据えた。きっと、俺はもう先に進まなくてはならないから。もう、立ち止まる訳にはいかないから。
だから、俺は言った。正直に、素直な気持ちを打ち明けた。
「俺は、父親と殺し合いに行くんじゃない。只、親と息子として少し話しに行くんだ」
———只、一人の息子として。父親と話しに行く。それだけだ。
「そう・・・、どうしても行くのね・・・・・・?」
「ああ、行くよ」
そう、と。ソラは諦めたような呆れたような、そんな曖昧な表情で頷いた。
そして、僅かに苦笑を浮かべて再び頷いた。
「解った、なら私も一緒に行くよ」
「・・・・・・え?」
「意外?けど、私にだって一緒に行く理由がある。私にだって、譲れないものはあるから」
そう言って、ソラは笑った。それは、何処までも強い笑みだった。
———ああ、やはりソラには敵わないな。
そう、俺は苦笑を漏らした。何時まで経っても、ソラには敵う気がしなかった。
其処は、やはり惚れた者の負けなのだろうけれど、な・・・




