2、古城リュウヤという男
昼休みの時間になった・・・皆が昼食を準備する中、もちろんソラも自分の弁当を用意している。
そんなソラに、俺も笑顔で近付いていく。もちろん、自分の弁当を所持してだ。
「ソラさん、俺達も一緒に昼食を食べましょう」
「え?あ・・・はい?」
ソラが困惑したように俺を見る。そんな表情も可愛いなと、俺は密かに和んでいる。すると、其処に無粋極まりない邪魔者が入った。教室のドアが勢いよく開く。
「邪魔するぜっ!!!」
其処に居たのは古城リュウヤ、俺の事を喧嘩友達と呼んで何時も喧嘩を吹っ掛けてくる馬鹿だ。俺は非常にうんざりとした溜息を吐き、リュウヤを恨みがましげに睨む。実際恨みがましく思っているし。
やれやれ、またか・・・
「・・・おい、またか?リュウヤ」
「おうっ、喧嘩しようぜ!!!」
その言葉に、俺はうんざりとした溜息を吐いた。どうしてこう、邪魔が入るのだろうか?俺は若干不運の星の下に生まれているのではないだろうか。それとも、俺とソラがくっつこうとするのを邪魔する超常的存在が居るのではないのだろうか?そんな馬鹿な事を、思わず考えてしまう・・・
俺は、こっそりと溜息を吐いてリュウヤを改めて睨み付けた。
その視線には若干の殺意と殺気が混じっている。その気迫に、クラス内がざわめく。
・・・ソラも慌てているようだ。
「あ、あの・・・。私は別に・・・・・・」
「リュウヤ・・・覚悟しろよ・・・?」
「おうっ、何時もより何だか不機嫌だなおいっ・・・」
流石のリュウヤも、俺の機嫌の悪さに引いているようだ。そんな事はどうでも良いが。
・・・こいつ、いっぺんシバキ倒す。・・・きっと、今の俺は邪悪に嗤っているのだろう。
・・・・・・・・・
そうして、グラウンドに俺とリュウヤは来ていた。全人類が固有宇宙に覚醒してから、何処の学校機関でも固有宇宙を活用した模擬戦程度なら許可されている。故に、学園のグラウンドで多少暴れる事は全く問題ないのである。・・・世も末だと、俺も思う。
無論、他の生徒に対する防護措置もとられている。だから、一応問題無い・・・筈だ。たぶん。
「おい、またリュウヤが新星に喧嘩を売ったらしいぞ?」
「マジかよ、よくやるわ・・・」
「俺、新星に賭けるわ・・・」
外野からなんか聞こえてくるな?誰だ、賭け事なんかしてるのは?出て来やがれっ!
・・・ちなみに、新星とは俺の通り名の事だ。新しい時代を告げる星だとか、そんな風に呼ばれていた気がするけどな。まあ、それはどうでも良い。今はこいつをシバキ上げる事が重要だ。
ふふっ、カクゴシロヨ?
離れた所で、ショタ先生とソラがオロオロしている。そんな二人に、一部の男女がほっこりした。
・・・とりあえず、ソラは天使だな。俺はこっそりとソラに親指を立てて笑った。そんな俺の姿にソラは静かに溜息を吐いていた。あれ?俺、滑った?軽くへこむ・・・
まあ良い。俺はリュウヤに向き直る。
「・・・お前、あの女の子の事をやけに気にするな?一体誰だ?」
「俺の恋人になる予定の人だ・・・」
その言葉に、リュウヤは愕然とした瞳で俺を見た。何だか、外野から大声で違うと叫び声が聞こえた気がしたが気のせいだろうか?まあ良いや。気にしない気にしない。
「へえ?お前に好きな人が出来るとはな?俺の妹ですら相手にしなかったのに?」
「知るかっ、俺が好きなのはソラさんだけだ。現在過去未来、それだけは変わらない」
「・・・へえ?」
そう言って、リュウヤは口角を吊り上げる。そして、リュウヤの身体に変化が現れた・・・
リュウヤの身体が、一瞬で獣のそれへと変化していく。黒い縞模様の入った、獣王だ。リュウヤの固有宇宙は獣人化である。ワービーストとも呼ばれるそれだ。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォッッ!!!!!!」
その遠吠えだけで、地面が大きく揺れ動く。獣の因子を宿しているリュウヤは身体能力も破格だ。
遠吠えをすると、リュウヤはそのまま勢いよく突っ込んできた。獣の瞬発力を生かした突進だ。しかしそれでも俺は一切焦る事無く懐からそれを抜いた。二丁のガバメントだ・・・
魔弾の射手。それが、俺の固有宇宙だ・・・その能力は、まあ見てのお楽しみ。
俺はそれを容赦する事無く撃った。銃声がグラウンドに響く。しかし、放たれたそれをリュウヤは何とか獣の瞬発力を最大限生かして避けた。俺は舌打ちをする・・・
外した魔弾は、グラウンドに張られた防御用エネルギー障壁を容易く貫通した。障壁意味ねえな?
「ちっ、外したか・・・」
「危ねえな・・・、お前の魔弾は防御不可能なんだからそりゃ避けるだろうがっ‼」
「いや、当たれよ其処は?」
でなきゃ説教が出来ねえじゃないか・・・
俺は当然のように憤慨した。しかし、どうやらリュウヤにとってはそうではないようで、軽くドン引きしているようだった。え~?
まあ良い。確かに俺の魔弾は防御不可能だ。例え、それが絶対防御の類であろうとも貫通する。それは例えどのような質量や強度を誇る物質であろうと、例えどのような概念を宿す能力であろうと、問答無用に容易く貫通するだろう。俺の能力に、硬度や質量、概念など関係ない。問答無用に貫通する。
次元貫通の魔弾。それが俺の能力の正体だ。次元を歪めて貫通する性質を持つ魔弾を生成する。
次元を貫通する性質により、俺の魔弾はどのような固有宇宙であろうとも貫通する性質がある。それはつまりどのような概念宇宙であろうと、次元ごと貫通する事が可能という事だ。
故に、俺は事実上どのような高次存在であろうとも殺す事が可能だ。まあ・・・
殺しはしないがなっ!!!
「うおっ⁉掠った、今掠ったぞっ‼お前本気で殺すつもりだろう!!?」
「・・・・・・・・・・・・」
俺は無言で魔弾を撃ち続ける。事実上、俺は無限に魔弾を生成可能だ。故に弾切れを起こす心配など一切ありはしない。無限に弾丸を撃ち続ける。
そして、流石に焦れてきたのかリュウヤがついに行動に出た。
「ちっ、こうなりゃ一か八かだっ!!!」
そう言って、真っ直ぐ突っ込んでくる。獣の走力だ。かなり速い。しかし・・・
所詮はソラよりも遅いなっ!!!
「せいっ!!!」
「ぐはあっ!!?」
俺は、リュウヤの頭にガバメントのグリップで思い切り殴り付けた。これも、計算の内だ。こいつの思考回路はおおよそ知り尽くしている。故に、こうやって何れ焦れて特攻してくる事も理解している。
頭を思い切り殴られ、リュウヤは伸びてしまっていた。そんな奴を、俺はぐいっと持ち上げた。襟首を持ち上げて首根っこを摑み上げるようにだ。
俺は、リュウヤに向かってにっこりと笑みを浮かべた。周囲から見れば、きっと俺はとてもさわやかな笑顔を浮かべている事だろう。そして・・・
俺は拳を握り締めた。
「おりゃっ‼‼‼」
「ぐぼえっ!!?」
リュウヤの顔面を、思い切り殴った。それこそ、全力の拳でだ。
「なっ、何を———」
「お前なあ、流石に時と場合を弁えろよ?俺がせっかくソラさんと一緒に弁当を食べようとしていたのをタイミング良く邪魔しやがって?其処の所、解ってるか?」
「ええっ⁉ちょっ、そんな事で———」
「そりゃっ‼‼‼」
「ぐぺっ!!?」
もう一度、俺はリュウヤの顔面を殴り付けた。そんな事?俺の楽しみをそんな事だと?ほほう、よろしいならこれから素敵なオハナシと逝こうではないか・・・
俺は、にっこりと再び笑みを浮かべた。その笑みに、何故かリュウヤは怯えている。何故だ?
・・・まあ良い。では始めようか。オハナシの時間だ。
・・・・・・・・・
その後、哀れな獣の悲鳴がグラウンドに響き渡った。