10、前へ進む勇気を
星の船———訓練区画。疑似神域にて。
「・・・お前の固有宇宙、第二解放については俺達からは何とも言えない。というより、俺達には解らない事が多すぎるという方が正しいか。すまないけど、俺達がお前に教える事はほとんど無い」
その言葉により、俺の訓練もとい第二解放の講義は終わった。俺の固有宇宙、その第二解放については正直なところ解らない事だらけだ。しかし、それでも収穫はあったと言えるだろう。
世界破壊属性。ソラの言によると、どうやら俺の固有宇宙はその属性を宿しているらしい。世界破壊属性とはつまるところ、世界を破壊する属性。より厳密には、対象の宇宙観を破壊する属性を差す。
この場合、宇宙観とは即ち固有宇宙などの概念宇宙の事だ。つまり、俺の固有宇宙は対象の固有宇宙を問答無用で破壊可能とする魔弾という事だ。概念破壊の魔弾と言った方が早いかもしれない。
と、言うよりもだ。元来、次元を歪めて貫通するという性質そのものが対象の概念宇宙を破壊するという性質に直結する結果となっている訳だ。概念宇宙=次元貫通という理屈だろう。
次元破壊とは、即ちイコールで概念破壊という事となる。
「・・・・・・・・・・・・」
まあ、ともかく俺は結局第二解放に至る事なく講義を終えた。其処が釈然としない点ではある。
まあ、正直なところ俺の固有宇宙の真価が知れたのは収穫だとは思うけれど・・・
うーん・・・
まあ、何だ・・・うん・・・・・・
「アマツ君、何だか不満そうだね?」
「まあ、正直なところ・・・な・・・」
まあ、はっきり言って納得は出来ないだろう。俺もようやく俺の固有宇宙を認める事が出来るようになれたというのにだ。そして、俺自身更に強くなれると聞いて少しだけわくわくしていたというのに。
それが何だか、期待だけさせて最後の最後でひっくり返された気分だ。うーん・・・
別に、俺自身焦って力を求めている訳ではない。ゆっくり強くなっていけば良いと思っている。
けれど、なあ?俺もやはり、此処までもやもやする気分はある種初めてかもしれない。或いは、俺も更なる力に憧れていた所があるのかも知れない。まあ、其処は考えても仕方がないだろうけど。
と、その時。とてとてと一人のメイドが俺達に近付いてきた。
もう、既にけっこうな歳になっている筈なのだが(自分でもそう言っている)、そう感じさせないとても幼い見た目をした若々しいメイドだった(そういう固有宇宙だとか)。
「あ、居ました居ました。ようやく見付けましたよ」
「マーキュリーさん?俺達に何か用事ですか?」
この人はマーキュリーさん、エルピス家に仕えるメイドだと言う。この人もこの人で、異世界から来たらしいんだよなあ?というか、俺メイドなんて初めて見た気が。
ある種新鮮な気分ではある。まあ、正直どうでも良いかも知れないけれど。少なくともエルピス家には他にもメイドや執事が複数人居る。それも、異世界から付いてきた人たちが。
中には、固有宇宙を使わずに俺を圧倒出来る武闘派執事も居るくらいだ。恐るべし、異世界!
「いえ、アマツ様にお客人ですよ?学園の後輩と名乗ってはいましたけど・・・」
「後輩って・・・。俺の後輩で俺に用事のありそうなヤツは・・・・・・」
少なくとも、俺には一人しか心当たりがない。とりあえず、俺は玄関に向かう事にした。
少しだけ、嫌な予感がしたけれど・・・
・・・・・・・・・
屋敷の玄関口には、やはりというか何というか・・・ミカちゃんが居た。
少し俯きがちに俺を見ている。けれど、それでも何処か覚悟を決めた瞳をしていた。
「・・・・・・先輩」
「えっと、ミカちゃん?」
ミカちゃんは若干俯きつつ、それでも何かを覚悟したような表情で俺を真っ直ぐに見据えた。その強い覚悟を宿した瞳に、俺は僅かにたじろいだ。
しかし、それでもミカちゃんはぐっと表情を引き締めて俺を真っ直ぐ見据えて言った。
「・・・っ。先輩は私ではなく、ソラ先輩を選びました。私では、ソラ先輩には敵わないのかも知れないしそれは私も認めます。けれど」
「・・・・・・・・・・・・」
「けれど・・・それでも・・・・・・」
俺は、僅かに罪悪感に苛まれながらミカちゃんの言葉に耳を傾ける。
恐らく、これがミカちゃんが決めた渾身の覚悟だと思ったから。それを聞く責任がある筈だから。
だから、俺はミカちゃんの覚悟を正面から受け止める事にした。
「私は・・・私は、それでも四条アマツ先輩の事が大好きです。先輩の恋人には、誰よりも先輩の傍には居られないかも知れないけれど、それでも・・・先輩の傍に居続けても良いですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
それでも俺の事が大好き、か・・・
それは、恐らくは俺に対するミカちゃんなりのプロポーズなのだろう。俺は、それに対する答えを僅かに考えやはり最初から決まりきった返答を返した。
「ミカちゃん、俺はソラさんが大好きだ。愛している。それは何時まで経っても変わらないし変わるつもりも一切無いよ。けど、それでもミカちゃんには何時までも俺の後輩として傍に居続けて欲しい」
「・・・はい」
「そう、俺は考えている」
それは、あまりにも身勝手な言い分だと思う。けど、それでもミカちゃんには何時までも一緒に居て欲しいし何時までも仲良くしていたいと思っている。
俺なりに、やはりミカちゃんの事は気に入っていたのかもしれないから。
だから、俺は真っ直ぐとその想いをミカちゃんに伝える。正直に、伝える。
そして、それはミカちゃんにもしっかりと伝わったようで。ミカちゃんは一筋の涙を流しながらそれでも満面の笑みで笑った。まるで、悲しみと喜びを同時に表すかのように。
「・・・・・・ありがとう、ございます。大好きです先輩」
そのありがとうにはどういう意思が籠められているのか。それは解らないけど、それでも・・・
その笑顔は何処までも眩しく、そして美しかったと後にメイドとソラは言っていた。
そして、俺も心からそう感じた。それだけは、嘘偽りはなかった。嘘偽りだけはなかった。
・・・・・・・・・
原初世界———幾重にも折り重なる翼の卵の中。其処で静かに眠りながらソレは思考する。
全てのヒトは星である。儚く、そして美しく輝き夜空を彩る。私はそれを美しいと思った。私はそれに魅せられたから。だから人よ、決して諦めないでくれ。折れないでくれ。
愛している。私は、貴方たちを愛している。何時までも、何処までも見守り続けている。だから決して挫けないで駆け抜けて欲しい。私は、それを願っているから。祈っているから。
貴方たちを、何時までも愛している・・・




