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新星のアイオーン  作者: ネツアッハ=ソフ
輝く星空編
28/52

9、固有宇宙の神髄

 そして、とりあえずは俺の修行(しゅぎょう)が始まった。の、だが・・・


 一つ、問題(もんだい)が発生していた。それというのも、星の(ふね)の訓練区画の一角での事だ。


 星の船、訓練区画———疑似神域(ぎじしんいき)。夜空を星々が(いろど)る草原、世界の中心を光の柱が貫く広大な空間。


 其処に、俺達は立ち尽くしていた。というか、ソラが世界さえも焼き尽くす業火(ごうか)を背後に、膨大な殺気をみなぎらせていたのである。うん、正直に(こわ)いと思う。


 その殺気だけで、人が殺せそうだ。そう、素直に思った。


「ああ、えっと?とりあえず固有宇宙の第二解放についてお前に教授(きょうじゅ)する事になった訳だが・・・」


「・・・・・・・・・・・・っ」


 ぎりぃっ・・・。俺の隣に居るソラが歯を食い縛り、俺の教師役二名を(にら)み付ける。睨み付けられた二人はとても居心地悪そうに口の端を引き()らせた。まあ、気持ちも解る。


 と、いうか実際に俺の事なのだ。ソラは俺がこの二人にボコボコにされた事を、未だに深く根に持ち恨んでいるのである。だからこそ、俺自身何も言えずに苦笑するしかない。


 そもそも、俺自身がこの二人を(ゆる)す気など全く無いというのもあるけれど・・・


 まあ、それは別に良いだろう。そんな事、今は良いんだ。


「ソラさん。ソラさん・・・。今は話が進まないから、もうここら辺で()めにしよう」


「・・・・・・っ。うん・・・解ったよ」


 ぎりぃっと、やはり心底(くや)しそうにソラは歯を食い縛る。まあ、正直なところ(うれ)しくもある。何故ならそれはつまる所、ソラが俺の事をそれ程に大切(たいせつ)に思っているという事だから。


 ソラが俺を大切に想い、俺の為に本気で怒ってくれる。それだけで、とても嬉しい気分になる。


 苦笑して、俺はソラをそっと抱き締めた。抱き締めて、出来る限り優しく(さと)す。


「大丈夫、俺ももう二度とあんな無様な真似(まね)はしないから。もう、二度と俺は()けないから」


 ———だから俺は(ちか)う。必ずソラを幸せにしてみせる。そして、俺は必ずソラを守ってみせると。


「・・・・・・うん」


 そう言い、ソラは僕の胸にそっと顔を(うず)めた。ああ、そうだ。俺はソラの事を愛している。俺が愛しているのは生涯でソラ只一人だ。俺が共に居て欲しいと思ったのは、ソラ一人なんだと。


 だから、俺はソラをこの命の全てを掛けて守り抜く。それが、俺の覚悟(かくご)の全てだ。


 ・・・と、その時。


「えっと・・・?もう説明を開始しても()いか?」


 おずおずと、そう口を開くフォーマルハウト。ソラは未だに二人を睨んだままだが、それでももう止める気はないらしい。何も言わずに俺からそっと離れた。


 俺も、黙って二人の話に耳を(かたむ)ける姿勢を見せる。そんな俺達に、アルデバランとフォーマルハウトの二人は安堵の息を吐く。そして、話を再開すべくアルデバランが口を(ひら)いた・・・


「そもそも固有宇宙の神髄、第二解放とは文字通り固有の宇宙観である固有宇宙を己の外にまで拡張して広げたものを差す。つまり・・・」


 そう言い、アルデバランが己の固有宇宙を開放する。それは、まさしく星の雷霆(らいてい)。神々の御業を人間の認識可能なレベルにまで落とした事象(じしょう)だった。それは、即ち・・・


 周囲一帯が、強力無比な雷に覆われた空間に変質する。これはまさしく雷の星、周囲一体を青白い雷霆が支配するアルデバランの支配領域だ。


 その光景に、ソラが補足説明を入れる。その()に、世界すら焼く業火(ごうか)を揺らめかせて。


「ちなみに、以前私が見せた炎も固有宇宙の第二解放による産物だよ。周囲一帯のあらゆる物質を無限速へと加速させる事により、物質界の限界を超えて加熱する。それが私のクトゥグア」


「クトゥグア・・・」


 あの時の光景を思い出す。なるほど、確かにあれはそういう物なのだろうと俺は納得した。


 あの時、世界は文字通りに物質界を超越した業火に包まれていた。あれは、つまり世界そのものを己の宇宙観へと書き換える所業(しょぎょう)だったのだろう。即ち、固有宇宙の外部展開だ。


「・・・・・・・・・・・・」


 俺は、思考の中へと没入する。


 周囲の物質を限界を超えて無限速へと加速(かそく)させる。それはつまり、無限に運動エネルギーを与え続けるに等しい行為だろう。つまりは物質を無限に加速させ過熱させる力だ。


 そも、物質界の限界をそう易々(やすやす)と超えられるのかという疑問はともかくとして。そういう宇宙観でそういう物理法則の力なのだろうと納得(なっとく)する。そういう事は、おいおいに理解していけば良い。


 ごほんっと、アルデバランが其処でせき込み注目を(うなが)す。その瞳は、至って真剣そのものだ。


「つまり、だ。此処で重要なのは如何に強く確信をもってイメージするかだ」


「イメージ・・・」


「そう、己の宇宙観を底から拡張(かくちょう)していき外へと押し広げるイメージだ。此処で重要なのが、如何に強く確信出来るかによるだろう。出来れば良いなではなく、出来て当然(とうぜん)というまでの強度でだ」


 出来て当然。つまり、強く己のイメージを補強(ほきょう)出来なければ第二解放には(いた)れないという事か。


 あやふやなイメージではなく、確信をもって確固たるイメージでなければ固有宇宙を外へと拡張させる事など到底不可能という訳だ。なるほど?そういう事か。


「じゃあ、とりあえず・・・」


 そう言って、俺はホルスターに仕舞った拳銃(ガバメント)に手を掛けた。意識を己の内側へと沈めてゆき、そのまま己の固有宇宙へと意識を向けてゆく。それはつまり、己の宇宙観(ほうそく)だ。


 俺は極限まで集中する時、拳銃を(にぎ)る。それ即ち、一種のルーティーンだ。


 つまりは特定の行動をなぞる事で、集中力を極限まで高める技法。


「・・・・・・・・・・・・っ」


 次元貫通の魔弾(まだん)。次元を(ゆが)め、あらゆるモノを貫通する魔弾。その、第二解放。


 それは・・・


 ———その瞬間、俺の心の内側で誰かが笑った気がした。その笑顔に、何故か俺は(なつ)かしい気に。


「・・・っ‼」


 拳銃を引き抜き、己の宇宙を開放する。ガバメントから放たれた魔弾は展開されたままの雷霆空間そのものの次元を歪めて貫通し、()ち抜く。それは、即ち宇宙観の破壊だ。


 次元を歪め貫通(かんつう)する魔弾は、そのまま第二解放により展開された固有宇宙、雷霆世界の組成すら引き裂いて破壊してゆく。その光景は、まさしく天地開闢(てんちかいびゃく)そのものだった。


 それを目にしたアルデバランとフォーマルハウト、そしてソラですら目を大きく見開く。


「・・・・・・俺の、固有宇宙を貫通破壊した?それも、第二解放に(いた)った固有宇宙をだと?」


「そんな、馬鹿(ばか)な・・・・・・」


 愕然とした言葉を、アルデバランとフォーマルハウトは戦慄(せんりつ)と共に漏らした。


 二人のその言葉の通り、これは本来あり得ない光景だ。固有宇宙とは、文字通り人間大の宇宙。それはつまりただの雷に見えて、それは宇宙の法そのものだ。並の雷霆とは比較にもならない。


 それこそ、一撃で惑星破壊すらも可能だろう。固有宇宙の第二解放とは、即ち己の(ほう)で世界の法を書き換えるに等しい所業なのだから。文字通り、己の宇宙観を外へと展開する(わざ)だ。


 それ即ち、世界の再創造(さいそうぞう)に等しい。


「世界・・・破壊属性・・・・・・?」


 ソラが、戦慄と共に呟く。そう、これは文字通り世界を破壊するという属性を持つ魔弾だ。


 その魔弾は一撃であらゆる宇宙観を破壊可能だろう。そもそも、次元を(ゆが)めて貫通するとはそういう事を意味するのだから。あらゆる固有宇宙に対し特攻効果すら(のぞ)める。


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 しかし、俺はその感慨に(ひた)る程の余裕など無かった。それを成す直前、確かに感じたんだ。俺の心の奥底で響く母の鼓動(こどう)を。懐かしい、母の(ぬく)もりを・・・


 ———ああ、成る程。


 俺は、ようやく得心した。母親はずっと昔から、俺の心と共に()ったんだ。

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