7、ひと騒動
「「・・・・・・・・・・・・・・・」」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・っ」
現在、エルピスの屋敷にて。時刻は早朝の06:00頃。かなり重苦しい空気が書斎を漂っていた。
俺も、ソラも、二人共にある一点を睨み付けて今にも襲い掛からん雰囲気だ。俺なんか、拳銃に手を掛けて今まさに抜き放たんとする雰囲気だ。
それというのも、現在その書斎には俺とソラ、シリウスさんとリーナさんの他に、俺を襲撃した二人組の男が居たからだ。確か、名前はアルデバランとフォーマルハウトと言ったか?
シリウスさんが止めてくれなかったら危なかった。あいつ等が出てきた時、反射的に俺は拳銃を構えソラは件の炎を出しかけていたからだ。ソラに至っては未だに二人組を睨んでいる。背後に鬼の幻影。
二人組、アルデバランとフォーマルハウトはそんなソラにすっかり怯えている。
かなり剣呑な空気。しかし、俺はそんなソラを止める気は一切無い。俺だって殺されかけたから。
代わりに、シリウスさんに状況の説明を求める事にした・・・
「えっと・・・?シリウスさん、これはどういう状況ですか?」
「ああ、この二人には総帥を。つまりはお前の父親を元に戻す為に一時的に組織を裏切って貰った」
・・・?組織を裏切った?この二人が?
「それで?具体的に二人には何をして貰うつもりですか?組織について吐かせるつもりですか?」
「いや、二人にはこれから君の特訓を任せたいと思っている」
・・・は?
俺は思わず、半分口を開いたまま硬直した。どうやらそれはソラも同じらしく、愕然とした表情のまま硬直してしまっている。うん、まあそれも当然の話だが・・・
驚いているのは俺も同じだ。しかし、このまま固まっている訳にもいかない。そう思い、俺は恐る恐る口を開いてシリウスさんに聞き返した。
「・・・えっと?何故、こいつ等に俺の特訓を?」
「ああ、君にもそろそろ固有宇宙の神髄、固有宇宙の第二解放を習得して貰おうと思ってな。それをこの二人に一任しようと思った訳だ」
「・・・はい?」
固有宇宙の第二解放?いや、それよりも俺の訓練をこの二人に一任だって?
その言葉に、俺が驚いていると。シリウスさんに食ってかかる者が一人居た。ソラだ。
「っ、お父様!私は反対です!」
「ふむ、それは何故?」
「この二人はアマツ君を殺そうとした人ですよ?そんな二人に一任するなんて、そんなくらいならお父様がアマツ君の特訓をすれば良いじゃないですか‼」
その一言に、シリウスさんは少し悲しそうな顔で首を横に振った。
「そう言う訳にもいかないんだよ、ソラ。僕はアマツ君の特訓に裂いている時間が無い」
「・・・?それは、何故?」
その問いに、今まで黙っていたリーナさんが答えた。
「ソラ、私達はこれから事件の背後に居る真の黒幕を探さなくてはいけないの。いえ、真の黒幕の居場所を探さなくてはいけない、かしら?」
「・・・真の、黒幕?」
「ええ、貴女には以前話したと思うけど。悪魔Ω、彼が事件の背後で暗躍している事が解ったの。私達は彼の居場所を見つけ出し、早急に止めないといけない」
「・・・そんな。悪魔Ω、本当に居たなんて」
先程から、俺は話しについていけてなかった。悪魔Ω?真の黒幕?どうやら、話しに付いていけてないのは僕だけではなく、アルデバランとフォーマルハウトも同じらしい。呆然としている。
なので、いっそ聞いてみる事にした。恐る恐る、俺は手を挙げる。
「あの、その悪魔Ωって何ですか?」
「おお、そうだったね。君は何も知らなかったな」
そう言って、シリウスさんは話し始める。それは、とても荒唐無稽な話だった。とてもではないが信じられるような話では無いだろう。それくらい、現実味の無い話だった。
単一の宇宙をたった一人で滅ぼし、悪魔へと転生した元人間。たった一柱で神々を含めた全世界を相手取れる程に強大な力を持った、最大最悪のイレギュラー。最強の大悪魔。純血の悪魔。
その話を聞いた俺達、主に俺とアルデバランとフォーマルハウトは愕然としていた。
そんな中、それでも納得がいかなそうな複雑な表情で二人組を睨んでいるソラ。そんな娘に、シリウスさんは苦笑を浮かべてそっと頭を撫でた。その手つきは、優しさに満ちている。
「そんなにアマツ君の事が心配か?」
「・・・・・・・・・」
黙って頷くソラ。シリウスさんはそんな彼女に優しく微笑んで言う。
「なら、ソラもアマツ君の特訓に付き合ってやれば良い。一緒に居てやれば良いんだ」
「・・・・・・はい」
ソラはまだ納得出来ないような、そんな複雑な表情で頷いた。そんな彼女に、俺はそっと近付いて抱き寄せてやるのが精一杯だった。そんな俺に、ソラはそっと身体を寄せてきた。
そんな俺達を、アルデバランとフォーマルハウトは若干居心地悪そうな目で見ていた。




