6、幹部二人
その日の夜、街の一角にあるとあるビジネスホテルにて。秘密結社”輝く星空”の幹部二人は他に誰も居ない部屋の中で話し合っていた。話の内容は、即ち学園での出来事である。
「なあ、やっぱりこれは変じゃねえか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
フォーマルハウトの言葉に、アルデバランは答えない。何かを思考するように、じっと目を瞑り深く考え込んでいるのだ。そんな相棒の様子に、フォーマルハウトは僅かな不安を覚える。
先程から、アルデバランは黙り込んだまま何も答えないのだ。故に、不安は募るばかり。そろそろそれも限界に到達しそうであった。だから・・・
思わず声を震わせ、張り上げる。
「なあ‼」
「ああ、解っているよ。俺だってどうすれば良いのかなんて解らねえよ・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
相棒の言葉に、フォーマルハウトは黙り込む。そんな彼に、アルデバランは続けて言った。
「しかし、解った事もある。ボスは、あの方は奴等によって操られているんだ」
「・・・っ‼」
アルデバランの言葉に、フォーマルハウトは息を呑んだ。そして、やがて悔しげに歯を食い縛る。
そう、フォーマルハウトとアルデバランの二人は見ていた。学園での事件を影からこっそりと。それ故に二人は理解したのだ。この事件は裏で大幹部、カミラとアルグルの二人によって操られていると。
そう、総帥は既に操り人形と化していた。その事実だけで、はらわたが煮えくり返る思いだ。
しかし、怒りだけでどうにかなる程奴等は甘くはない。それ故の大幹部なのだから。カミラとアルグルの二人は、それ程までに強大な力を保有しているのだ。大幹部の肩書きは伊達ではないのだ。
特にカミラ。彼の固有宇宙はこの宇宙すらも気まぐれに滅ぼして余りある。それこそ、一瞬で宇宙を跡形もなく消滅させてしまえる程には危険な能力だ。
だからこそ、どうすれば良いのか。悩む所だった。
「・・・・・・いっそ、あの少年達と手を組むか?」
「っ、しかしよアルデバラン?俺達、以前アイツに喧嘩を売ってボコボコにしてるんだぜ?今更許して下さいなんて虫が良すぎねえか?それに、あの嬢ちゃんが許さねえだろ」
「・・・・・・・・・・・・」
アルデバランの言う少年とは、つまり四条アマツの事だ。二人は以前、彼を街中で襲撃して殺そうとした事がある。その時、一人の少女によってそれは未遂に終わった。
その少女こそ、ソラ=エルピス。シリウス=エルピスの一人娘だ。
二人は身を持って知った。ソラの固有宇宙の力を。その出力の程を。彼女一人で、一国すら滅ぼせるだけの力を保有しているという純然たる事実を。身を持って知ったのだ。
だからこそ、アルデバランもフォーマルハウトも何も出来ずに居たのだ。もし、それを度外視してアマツに近付けば今度こそソラの手によって焼き殺されるだろう。それは願い下げだった。
・・・
さて、これからどうするか?真相を知った今、ボスの元に戻るという選択肢は無い。しかし、だから裏切るなどと言う発想が湧く程に忠義が薄い訳でもない。つまりは手詰まりだ。
そんな中、二人の耳に深い溜息の声が漏れた。
「はぁ、そんな事だろうと思ったけどな・・・」
「っ、何者だ‼?」
二人はぎょっとする。全く気付かなかった。どころか、全く違和感すら感じなかった。
アルデバランは叫び、同時に気付く。先程から、部屋の外から物音が一切しない。どころか、窓の外からも一切物音がしないのだ。二人は訓練を積んだ事で、常人よりもはるかに高い身体能力を持つ。
文字通り、部屋の外から微かな物音がしても察知可能だ。微かな気配の変化にも気付けるだろう。
故に、ホテルの外で物音がすればすぐに察知出来る筈だった。なのにだ・・・
先程から、物音が一切しない。それも、不気味な程に。
「僕なら、ずっと此処に居るぞ?」
「なに?・・・・・・っ‼?」
気付けば、すぐ傍に一人の青年が居た。二人はこの青年を知っていた。
それもその筈。この青年こそ、二人を撤退させた少女の父親。無銘ことシリウス=エルピスだ。
その青い瞳は、神秘的に輝き人外の気配と威圧感を纏わせる。
「い、何時の間に・・・」
「ああ、言っておくが今この部屋は外と空間次元的に切り離しているから。逃げようとしてもそれは無駄な行為だと思うぞ?抵抗はしても構わないけど、どうする?」
そう言って笑うシリウスに、二人は不気味な悪寒に襲われる。
まるで、全て手玉に取られているよう。そうアルデバランとフォーマルハウトは感じた。
決して、この男にだけは逆らってはならない。そう心の根源にまで理解させられた。
この男とは、そもそも立っている次元が違いすぎるのだと。理解させられたのだ。
「・・・・・・いや、抵抗はしない。逃げもしない」
「そう、賢明な判断だ・・・」
そう言うシリウスは、少し残念そうな表情をしていた。どうやら、抵抗される事を少しばかりは期待していたらしい。二人は口の端を引き攣らせた。
そんな二人に、シリウスは軽く咳払いをして意識を自分に向けた。
「まあ、それはともかくだ。君達は組織の総帥を元に戻したいと考えている。しかし、君達二人にはどうする事も出来ないと・・・。違うかな?」
「・・・・・・いや、違わねえよ」
ぶっきらぼうに吐き捨てるフォーマルハウト。アルデバランは、黙って首を縦に振る。
二人とも理解してはいるのだ。自分たちは、根本的に力不足だと。二人では、決して総帥を助けることなど不可能だという事を。だからこそ、素直に頷いた。
そして、それを理解しているシリウスだからこそ。二人にある提案を投げ掛けた。
「なら、僕から君達に提案だ。君達二人、僕の元に来ないか?」
「・・・・・・何だって?」
「だから、僕の元に来ないかと言っている。君達には、アマツ君の訓練に付き合って貰いたい。組織の総帥に関しては君達はアマツ君に一任する。どうする?」
その一言に、二人は黙り込む。黙り込んで、しばらく迷った後アルデバランが問い掛ける。
「あの少年に任せれば、ボスは元通りになるのか?」
「ああ、確約しよう・・・」
確約する。その言葉を聞き、吟味して二人は深く考え込む。どうするべきか?どんな選択が此処では最適なのだろうか?考えて、悩み、迷い・・・
そんな二人を見て笑うシリウスの瞳は、青白く光り輝いていた。その輝きは、とても神秘的で。
二人は呑まれるように静かに頷いた。
・・・・・・・・・
後日、アルデバランとフォーマルハウトを前にひと騒動あったのは言うまでもない。




