閑話、想いはソラの彼方まで
事件の終結した後。学園校舎裏———
ミカちゃんに呼ばれ、現在俺は其処に来ていた。学園の生徒達は、ほぼ全員が重度の怪我の為病院に搬送される事になった。まあ、そのほとんどが俺のせいだが。その為、学園は緊急閉鎖になった。
まあ、それは別にどうでも良い。そう、それ自体は別にどうでも良いのである。問題は今、すぐ目の前に居るミカちゃんの事だ。古城ミカ、古城リュウヤの妹。俺の後輩女子・・・
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
彼女は只黙り込んだまま、俯いている。何かを言おうとして、やはり口を閉ざす。
かれこれ半時間。静寂が続いている。周囲には、人影は一切無い。
ソラとリュウヤには、絶対に来るなと伝えてある。だからこそ、此処には他に誰も居ない。
問題は、ミカちゃんの用件だ。
まあ、ミカちゃんの言おうとしている事は理解出来る。と、言うか予測出来ている。ミカちゃんは俺の事を今でも好きでいてくれているらしい。だから、俺がソラを好きになった事に嫉妬している。
・・・そして、その感情を自身の中でコントロール出来ていないのだろう。だからこそ、か。
ミカちゃんは、今でも自分ではなくソラを選んだ俺を恨んでいるのだろう。けれど、そんな自分に嫌気が差してもいると、そういう事なのだろう。本当は、自分が隣に居たかったんだ。
けれど・・・
「・・・ミカちゃん」
「・・・・・・っ」
ミカちゃんはびくっと肩を震えさせる。それは、俺の言おうとしている事を心の底で理解しているからこその反応だろう。要は、怯えているんだ。
だからこそ、俺は此処で尻込みしている暇は無い。此処ではっきりと言うべきだ。伝える事はしっかりと伝えるべきだと俺自身は思うから。それが、たとえどれほど残酷であろうとも・・・
「ミカちゃんの想い、気持ちは理解している。その気持ちは素直に嬉しい・・・」
「・・・・・・うん」
けれど、それでも俺が選んだのはミカちゃんじゃない。
「けど、俺が好きになったのはソラさんだ。俺が愛しているのはソラさんの方だ。だから」
ごめん。そう、はっきりと口にした・・・
ミカちゃんの表情が、くしゃりと歪む。悲しみに顔が歪み、今にも泣きだしそうだ。しかし、それでも泣きわめくようなみじめな思いだけはしたくないのだろう。必死にこらえている。
俺も、罪悪感が無いわけじゃない。其処まで俺は鬼じゃない。罪悪感は何時だって付きまとう。それに何時でも後悔だらけだ。しかし、それでも俺は選んだ。ミカちゃんではなく、ソラを・・・
そう、俺が選んだのはソラ=エルピスだ。俺が選んだのは、彼女だから。
「どう、して・・・」
「・・・・・・」
ミカちゃんの口から、嗚咽のような声が漏れる。泣き出しそうで、それでも必死にそれをこらえるような悲痛で泣きそうな声。俺は、それを黙って聞いている。
今は、黙って聞いているべきだと思ったから・・・
「どうしてあの人なの?どうして彼女なの?私じゃ、いけなかったの?私じゃ、駄目だったの?」
嗚咽と共に吐き出されるその言葉は、あまりにも悲痛で、悲しい言葉だった。
「こんなにも好きなのに。愛しているのに・・・大好きなのにっ・・・・・・」
「ミカちゃん・・・・・・」
俺は、ミカちゃんを真っ直ぐに見据えて言った。はっきりと、此処でけじめを付けるように言う。
はっきりと伝える。
「それでも、俺が選んだのはソラさんだ。俺は彼女を愛している。きっと、これからも、たとえ無限に生まれ変わり続けても、俺は彼女を大好きだと叫び続けたい。愛してると叫び続けたい」
「・・・どうして?先輩なんて大嫌い。・・・でも」
既にミカちゃんは涙腺が決壊したらしく、その目から涙が滂沱と溢れ出ている。そんな顔を俺には見られたくないのか、俺の胸元に額を押し付けて俯いている。俺の服を、ぎゅっと握りしめて。
嗚咽と共に、滂沱の涙と共に想いを吐き出した。
「そんな、先輩の事が・・・・・・大好きぃ」
「ありがとう、ごめん・・・・・・」
俺は、ミカちゃんをそっと抱き寄せ頭を撫でた。そんな俺の胸元で、ミカちゃんは泣きじゃくる。
ミカちゃんが泣き止み、泣き疲れるまで。俺は彼女を抱き締めた。胸の奥が、痛かった。
俺は、この胸の痛みを何時までも覚えていようと。胸に刻み込んだ。




