10、真実
ソラとの初デートの次の日、四条アマツは街を散歩していた・・・
その背後を、二人の人物が静かに尾行していた・・・
・・・・・・・・・
朝の08:30頃、俺は朝の街を散歩していた。今日は学校は休校日だ。何でも、学校の偉い人の急な都合で臨時休校になったらしい。偉い人の都合って何だ?
・・・まあ、別にそれは良い。せっかくの臨時休校なんだし、ソラをデートに誘うのもありか?そう考えるだけで、心が弾んでくる。思わず、笑みが零れるというものだろう。
昨日は良い所でデートを邪魔されて、少しばかり不満が残っていた。それ故、今度こそデートを成功させようとそう俺は思っていた。のだが・・・
そう、思ってはいたのだが。俺はふと、立ち止まる。少しだけ、背後に違和感を感じた。
「・・・・・・・・・・・・・・・見られている?いや、付けられている?」
・・・一瞬、ほんの少しだけ人の視線を感じた。それも、観察するような視線だ。
後を付けられている?しかし、誰が?一瞬だけ俺に恨みのあるチンピラの類かと思ったが、しかしそれを一瞬で脳内で否定する。違うな、こいつはそんな生易しい奴ではない。
後を付ける事に手慣れている。明らかに、尾行する事に慣れたプロの仕業だろう。しかも、気配を完璧に消してはいるが、俺が気付いた瞬間それを察知してそれを威圧に切り替えている。その威圧感も尋常ではない程の強さだ。どうやら、穏便にはいかなそうだ。
・・・穏便に済ませる気もないだろうがな。どうやら、向こうはやる気満々らしい。
「・・・気付いているんだろう?そろそろ出て来いよ」
そう、物陰に向けて言うと、二人の男が出てきた。
一人は軽薄そうな笑みを浮かべた男。まだ少しだけ肌寒い季節にも関わらず、シャツ一枚という寒い恰好をしているのが印象的だろう。そして、男の周囲に何故か陽炎が漂っている。
一人は油断のならない鋭い刃のような殺気を纏った男。青い星の刺繍が施された黒いコートを身に纏う肌も髪も白いアルビノの男。男の周囲には僅かに放電現象が起きている。
どちらも只者ではない事が解る。嫌でもそれが理解出来た。二人共に、既に臨戦態勢だ。
・・・俺も、臨戦態勢に入る。
「お前達、何者だ・・・?」
「秘密結社、”輝く星空”幹部。灼熱惑星のフォーマルハウトだ。覚えておけよ、小僧」
「同じく秘密結社”輝く星空”幹部、星の雷霆のアルデバランだ」
二人はそう名乗った。軽薄そうな男がフォーマルハウト、アルビノの男がアルデバランらしい。二人が名乗りを上げた瞬間、威圧感が更に増した。既に、暴力的なまでの威圧だ。
肌を突き刺すような、強烈な威圧が俺を襲う。圧倒的な殺意と戦意。
気のせいか、男の周囲の陽炎と放電現象が強くなった。何らかの固有宇宙だろうか?
しかし、秘密結社?輝く星空?聞いた事も無い名前だ。思わず、怪訝な顔をする。
「”輝く星空”とは?」
「何だ、それも知らねえのか?お前の親父が立ち上げた秘密結社だろうに?」
「っ!!?」
おや・・・じ・・・・・・?父さんが、立ち上げた・・・?
その言葉に、一瞬だけ思考が停止する。どういう意味か、一瞬理解出来なくなる。
俺のその反応に、何かを察したのかアルビノの男がそっと溜息を吐いた。そして、鋭い殺気を一時的に解いて未だ鋭いままの視線を俺に向けた。そして、衝撃の真実を口にする。
「・・・そもそも、お前は一度でも父親の庇護から離れて暮らしていると思っているのか?」
「なんっ・・・」
「お前は、何時だって父親の管理下の中で暮らしていた。そして、それ故に今切られる」
「待て、どういう事だ・・・?それは一体?」
理解が追い付かない。話についていけない。それは、一体どういう事だ?待て待て、そもそもの話がこれは一体どういう事なんだ?どうして、こんな話になっている?
そんな俺の困惑を知ってか知らずか、アルデバランは言った。無慈悲に、真実を口にする。
「そもそも、お前に毎月高額の仕送りをしていたのは誰だ?お前の通う学校が、誰の出資により設立されたのか本当に知っているのか?」
「・・・・・・・・・・・・っ」
その言葉に、すぐに思い至る。そう、つまりはそういう事だ。何時だって、俺は父親の管理下で過ごしていたのだろう。それに、自分だけ気付いていないまま。
きっと、ネメア先輩は気付いていたのだろう。彼は、俺の後見人だ。気付いていない筈がない。
おかしいと思ってはいた。毎月、余りにも高額な仕送りがされていたという事実に。そして、それに全く不思議と思えない自分自身に。
おかしいと思ってはいた。至って平凡な人間の筈の俺が、特待生として国内でも有数の高校に進学出来たという事実が。本当はおかしいと思っていた筈だ。
それなのに、俺はそれを今までのうのうと甘受していたのか?享受して生きていたというのか?
なら、何故だ?何故今更・・・?父さんは俺を切るんだ?
「なら何故、父さんは俺を・・・?」
「さあな。けど、ボスは言っていた。今だからこそ、切る時なんだと・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
切る。その言葉の意味を俺は脳内に反芻して、そして理解し・・・
その言葉に、今度こそ俺の心は完全に折れた。完膚なきまでに心がへし折れた。俺は、膝から頽れてそのまま動かなくなる。いや、動けなくなる。
・・・もう、俺には一切動く気力も無かった。もう、一切の気力が無くなった。
俺の心が、耐え切れなかった。
そして、理解した。俺は、本当は全てを理解していたんだと。
父さんの庇護を受けている事実を知っていながら、俺がそれを良しとしていた事実を。俺が心の片隅でまだ父さんとの親子の絆を求めていた事を。今、全て理解した。
・・・本当は、最初から理解していたんだ。全て、理解してそれを甘受して生きていたんだ。
本当は、俺は言う程父さんを嫌ってはいなかったんだ。それなのに。それなのに、だ・・・
今、実の父親から切られた事で許容範囲外のダメージを精神に負った。許容出来ない精神的損傷を受けて俺は崩れ落ちたんだ。立ち上がる事が出来ないまでに・・・
俺の心に、深いダメージを刻み込んだ。
「ふむ、終わりか・・・。フォーマルハウト、やれ」
「あいよ」
放たれる死刑宣告。その瞳は、何処までも無慈悲だった。
そう言って、フォーマルハウトは掌から炎を放出した。以前、チンピラが出したような炎では断じて無いだろう高出力かつ高威力の業火。まさしく、灼熱惑星だ。
どうやら、軽薄な笑みを浮かべるその男は高位のパイロキネシストのようだ。男の掌の炎が、急激に膨張して俺に襲い掛かる。そして・・・
俺は成す術もなく、そのまま炎に呑み込まれていった。俺に、避ける術も気力も無かった。
・・・・・・・・・
・・・私は、今目の前にある現実を受け止めきれなかった。それ程に、衝撃的光景だった。
「さて、もう終わりか・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
今、私の目の前には全身大やけどを負いピクリとも動かないアマツ君とそんな彼を執拗にいたぶり続ける二人の男が居た。アマツ君は、されるがまま抵抗しない。抗う気力も無いらしい。
既に、アマツ君は重傷だ。虫の息という奴だろう。
そんな彼らを見て、私の心が急速に冷えていく。見ると、アマツ君の頬に一筋の涙が・・・
私の中にある何かが、音を立てて軋む。
「俺は別に、無抵抗の奴をいたぶる趣味は無い。さっさと止めを刺そう」
「へいへい、解りましたよ・・・」
そう言い、男がアマツ君に止めを刺そうとする。それを見た瞬間・・・
私の中にある何かが音を立てて切れた。意識が暗転する。




