表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新星のアイオーン  作者: ネツアッハ=ソフ
学園編
13/52

10、真実

 ソラとの初デートの次の日、四条アマツは街を散歩(さんぽ)していた・・・


 その背後を、二人の人物が静かに尾行(びこう)していた・・・


          ・・・・・・・・・


 朝の08:30頃、俺は朝の街を散歩していた。今日は学校は休校日だ。何でも、学校の偉い人の急な都合で臨時休校になったらしい。偉い人の都合って何だ?


 ・・・まあ、別にそれは良い。せっかくの臨時休校なんだし、ソラをデートに(さそ)うのもありか?そう考えるだけで、心が(はず)んでくる。思わず、笑みが(こぼ)れるというものだろう。


 昨日は良い所でデートを邪魔(じゃま)されて、少しばかり不満が残っていた。それ故、今度こそデートを成功させようとそう俺は思っていた。のだが・・・


 そう、思ってはいたのだが。俺はふと、立ち止まる。少しだけ、背後に違和感(いわかん)を感じた。


「・・・・・・・・・・・・・・・見られている?いや、付けられている?」


 ・・・一瞬、ほんの少しだけ人の視線(しせん)を感じた。それも、観察するような視線だ。


 後を付けられている?しかし、誰が?一瞬だけ俺に恨みのあるチンピラの類かと思ったが、しかしそれを一瞬で脳内で否定(ひてい)する。違うな、こいつはそんな生易しい奴ではない。


 後を付ける事に手慣(てな)れている。明らかに、尾行する事に慣れたプロの仕業だろう。しかも、気配を完璧に消してはいるが、俺が気付いた瞬間それを察知してそれを威圧(いあつ)に切り替えている。その威圧感も尋常ではない程の強さだ。どうやら、穏便(おんびん)にはいかなそうだ。


 ・・・穏便に済ませる気もないだろうがな。どうやら、向こうはやる気満々らしい。


「・・・気付いているんだろう?そろそろ出て来いよ」


 そう、物陰(ものかげ)に向けて言うと、二人の男が出てきた。


 一人は軽薄そうな笑みを浮かべた男。まだ少しだけ肌寒い季節にも関わらず、シャツ一枚という寒い恰好をしているのが印象的だろう。そして、男の周囲に何故か陽炎(かげろう)が漂っている。


 一人は油断のならない鋭い刃のような殺気を纏った男。青い星の刺繍(ししゅう)が施された黒いコートを身に纏う肌も髪も白いアルビノの男。男の周囲には(わず)かに放電現象が起きている。


 どちらも只者ではない事が解る。嫌でもそれが理解出来た。二人共に、既に臨戦態勢だ。


 ・・・俺も、臨戦態勢に入る。


「お前達、何者だ・・・?」


「秘密結社、”輝く星空”幹部。灼熱惑星(フォーマルハウト)のフォーマルハウトだ。覚えておけよ、小僧」


「同じく秘密結社”輝く星空”幹部、星の雷霆(らいてい)のアルデバランだ」


 二人はそう名乗った。軽薄そうな男がフォーマルハウト、アルビノの男がアルデバランらしい。二人が名乗りを上げた瞬間、威圧感が更に()した。既に、暴力的なまでの威圧だ。


 肌を突き()すような、強烈な威圧が俺を襲う。圧倒的な殺意と戦意。


 気のせいか、男の周囲の陽炎と放電現象が強くなった。何らかの固有宇宙だろうか?


 しかし、秘密結社?輝く星空?聞いた事も無い名前だ。思わず、怪訝(けげん)な顔をする。


「”輝く星空”とは?」


「何だ、それも知らねえのか?お前の親父(おやじ)が立ち上げた秘密結社だろうに?」


「っ!!?」


 おや・・・じ・・・・・・?父さんが、立ち上げた・・・?


 その言葉に、一瞬だけ思考が停止(ていし)する。どういう意味か、一瞬理解出来なくなる。


 俺のその反応に、何かを察したのかアルビノの男がそっと溜息(ためいき)を吐いた。そして、鋭い殺気を一時的に解いて未だ鋭いままの視線を俺に向けた。そして、衝撃の真実(しんじつ)を口にする。


「・・・そもそも、お前は一度でも父親の庇護(ひご)から離れて暮らしていると思っているのか?」


「なんっ・・・」


「お前は、何時だって父親の管理下の中で()らしていた。そして、それ故に今切られる」


「待て、どういう事だ・・・?それは一体?」


 理解が追い付かない。話についていけない。それは、一体どういう事だ?待て待て、そもそもの話がこれは一体どういう事なんだ?どうして、こんな話になっている?


 そんな俺の困惑(こんわく)を知ってか知らずか、アルデバランは言った。無慈悲に、真実を口にする。


「そもそも、お前に毎月高額の仕送りをしていたのは誰だ?お前の通う学校が、誰の出資(しゅっし)により設立されたのか本当に知っているのか?」


「・・・・・・・・・・・・っ」


 その言葉に、すぐに思い至る。そう、つまりはそういう事だ。何時だって、俺は父親の管理下で過ごしていたのだろう。それに、自分だけ気付いていないまま。


 きっと、ネメア先輩は気付いていたのだろう。彼は、俺の後見人(こうけんにん)だ。気付いていない筈がない。


 おかしいと思ってはいた。毎月、余りにも高額な仕送りがされていたという事実に。そして、それに全く不思議と思えない自分自身に。


 おかしいと思ってはいた。至って平凡(へいぼん)な人間の筈の俺が、特待生として国内でも有数の高校に進学出来たという事実が。本当はおかしいと思っていた筈だ。


 それなのに、俺はそれを今までのうのうと甘受(かんじゅ)していたのか?享受(きょうじゅ)して生きていたというのか?


 なら、何故だ?何故今更・・・?父さんは俺を()るんだ?


「なら何故、父さんは俺を・・・?」


「さあな。けど、ボスは言っていた。今だからこそ、切る時なんだと・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


 切る。その言葉の意味を俺は脳内に反芻(はんすう)して、そして理解し・・・


 その言葉に、今度こそ俺の心は完全に()れた。完膚(かんぷ)なきまでに心がへし折れた。俺は、膝から(くずお)れてそのまま動かなくなる。いや、動けなくなる。


 ・・・もう、俺には一切動く気力も無かった。もう、一切の気力が無くなった。


 俺の心が、()え切れなかった。


 そして、理解した。俺は、本当は全てを理解していたんだと。


 父さんの庇護を受けている事実を知っていながら、俺がそれを良しとしていた事実を。俺が心の片隅でまだ父さんとの親子の絆を(もと)めていた事を。今、全て理解した。


 ・・・本当は、最初から理解していたんだ。全て、理解してそれを甘受して生きていたんだ。


 本当は、俺は言う程父さんを嫌ってはいなかったんだ。それなのに。それなのに、だ・・・


 今、実の父親から切られた事で許容範囲外のダメージを精神(ココロ)に負った。許容出来ない精神的損傷を受けて俺は崩れ落ちたんだ。立ち上がる事が出来ないまでに・・・


 俺の心に、深いダメージを(きざ)み込んだ。


「ふむ、終わりか・・・。フォーマルハウト、やれ」


「あいよ」


 放たれる死刑宣告(せんこく)。その瞳は、何処までも無慈悲だった。


 そう言って、フォーマルハウトは掌から炎を放出した。以前、チンピラが出したような炎では断じて無いだろう高出力かつ高威力の業火(ごうか)。まさしく、灼熱(しゃくねつ)惑星だ。


 どうやら、軽薄な笑みを浮かべるその男は高位のパイロキネシストのようだ。男の掌の炎が、急激に膨張して俺に襲い掛かる。そして・・・


 俺は成す術もなく、そのまま炎に呑み込まれていった。俺に、()ける術も気力も無かった。


          ・・・・・・・・・


 ・・・私は、今目の前にある現実(げんじつ)を受け止めきれなかった。それ程に、衝撃的光景だった。


「さて、もう()わりか・・・?」


「・・・・・・・・・・・・・・・」


 今、私の目の前には全身大やけどを負いピクリとも動かないアマツ君とそんな彼を執拗(しつよう)にいたぶり続ける二人の男が居た。アマツ君は、されるがまま抵抗(ていこう)しない。抗う気力も無いらしい。


 既に、アマツ君は重傷だ。虫の息という奴だろう。


 そんな彼らを見て、私の心が急速に()えていく。見ると、アマツ君の頬に一筋の涙が・・・


 私の中にある何かが、音を立てて(きし)む。


「俺は別に、無抵抗の奴をいたぶる趣味(しゅみ)は無い。さっさと止めを刺そう」


「へいへい、(わか)りましたよ・・・」


 そう言い、男がアマツ君に止めを刺そうとする。それを見た瞬間・・・


 私の中にある何かが音を立てて切れた。意識が暗転(あんてん)する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ