9、芽生える何か?
その日の夜、エルピスの屋敷にて・・・。ソラ=エルピスは物思いに耽っていた。
・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・」
夜も深くなってきた頃、そろそろ夜の11:00になる・・・
現在、私は自室で考え事をしていた。考えているのは、アマツ君の事だ。先程から、彼の事を考えると何故だか顔が熱い。気が付いたら、アマツ君の事を考えている。
あの後、結局ミカちゃんの介入によって私とアマツ君のデートはお開きになった。アマツ君は至極残念そうにしていたけど、それでも最後は楽しそうにしていたのは良かったと思う。
・・・けど、そんなアマツ君の笑顔を思い出す度、何故か胸がきゅうっと締め付けられるような思いがするのは何故だろうか?頬が熱い、胸が痛む、どうしてもアマツ君の事を考えてしまう。
私は一体どうしたんだろうか?胸の奥に、理解出来ない感情が渦を巻く。
「・・・・・・アマツ、君・・・」
ほんの僅か、胸の奥が暖かくなった。果たして、この想いは一体何なのか?
「アマツ・・・君・・・・・・」
四条アマツ君。この世界で会った、私を真っ直ぐ大好きだと言ってくれた人。
初めて出会ったのは、この世界に来て間もない頃だ。この世界に来て、父様が国の要人と対話をしている時の事だった。私は、少しだけ外の空気を吸う為に外出していた。
外出する際、護衛を付けると言われたが断った事を覚えている。まあ、今はそれは良い。
其処で出会ったのが、四条アマツ君だった・・・
初めて会ったアマツ君は、何故か他人から喧嘩を売られていた。その人は、恐らくかなりの熱量を持つだろう炎をその手に纏っていた。しかし、アマツ君はそれを前にしても何処かつまらなそうな顔をしていたように思うけど。とにかく、気付けば私の身体は動いていた。
きっと、この時は単に無視出来なかったから介入したんだと思うけど。それでも私は動いていた。
その後、喧嘩はすぐに収束した。私の介入によって。アマツ君の呆然とした顔が印象的だった。アマツ君が呆然とした顔で、そして何処か眩しいものを見るような顔で問い掛けてきた。
「・・・えっと、貴女は一体?」
「ソラ・・・。ソラ=エルピス」
気付けば、私はそう名乗っていた。うん、我ながら他人の喧嘩に介入するなんて恥ずかしい。
・・・うん、今更ながらに恥ずかしくなってきた。
私は、すぐにその場を立ち去った。何時までもその場に居たら、恥ずかしさの余りに顔から火が出そうだとそう感じたから。今思い出しただけでも恥ずかしい。顔から火が出そうなくらいに恥ずかしい。
・・・けど、彼とはまた会えたら良いな。ふと何故かそう感じた。
何故、そう感じたのかは解らないけれど。そう感じた。
次に彼と会ったのは、父様に勧められて通った学校の中だった。彼は、私のクラスメイトだ。果たしてこんな偶然があるのだろうか?少しだけ、緊張した・・・
私が務めて冷静を装っていると、アマツ君は私に近付いてきて・・・
「初めて会った時から好きでした。結婚を前提に付き合って下さいっ」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・はい?
最初、何を言われたのか全く分からなかった。しかし、やがてその意味を理解すると・・・
「えっと、あの。・・・ごめんなさい?」
「がはあっっ!!!」
私は、彼のプロポーズを断っていた。見事に撃沈するアマツ君。そんな彼の姿が、何処か可愛いと感じたのは私だけの秘密だ。撃沈した彼は、床にうずくまりのの字を書いていた。
・・・果たして、其処まで落ち込む事だろうか?流石にかわいそうに思った。
そう言えば、何故私はこの時彼の告白を断ったのだろうか?別に、彼の事は嫌いではない筈?
いや、そもそも私は彼の事をどう思っているのだろうか?
好き?嫌い?それとも無関心?
「あっ、でもでも・・・。友達になってくれたら嬉しいです?」
「はいっ、友達になりましょう!!!」
アマツ君はすぐに立ち直った。立ち直りの早さがかなり異常だと思う。根が単純なのかな?
少しだけ、彼に興味を抱いた。ほんの少しだけだけど・・・
学校の授業の内容は、至って普通だった。別に、特別な事を教わる訳でも無い。けど、授業中アマツ君は私の方を終始ずっと熱い視線を送っていたように思う。少し、恥ずかしい?
そして、話はそれだけでは終わらなかった・・・
その後、アマツ君の喧嘩友達だと言うリュウヤ君とその妹、ミカちゃんと知り合った。ミカちゃんにはいきなり喧嘩を売られたけど、きっと私達は仲良くなれると思った。直感だけど。
・・・これも直感だけど、きっとミカちゃんは一途なだけだと思うから。
放課後、アマツ君が父様に呼ばれた。彼は、いきなり自分の机の上に手紙が置かれていた事にかなり驚いていたようだけど、父様なら普通だと思う・・・この程度、普通だよね?
けど、流石に父様や母様にいきなり気に入られていたのは予想外だけど。
「・・・・・・・・・・・・」
四条アマツ君。彼は私を大好きだと言ってくれた。けど、果たして私は彼をどう思っているのか?
好きなのか、嫌いなのか、それとも無関心なのか。一体、私は彼をどう思っているのか?
果たして、本当にそれだけなのだろうか?胸の奥が、切ない気持ちで満たされる。
・・・考えていると、扉をノックする音が響いた。
「ソラ、僕だ・・・」
「父様?・・・入って良いよ?」
私がそう言うと、ドアが開き父様が中に入ってくる。その手には、白い湯気の立っているココア。
・・・どうやら、温かいココアを淹れてくれたらしい。父様はココアの入ったコップをテーブルの上に静かに置いた。そして、私の顔を見て何か思案するとそっと問い掛けた。
「ソラ、デートの時に何かあったか?」
「・・・父様なら、何があったかすぐに理解出来るんじゃないの?」
私の言葉に、しかし父様は首を横に振った。
「僕は基本的に人のプライバシーは覗かないよう心掛けているからね。まあ、もしもの時や必要な時はそうするけどな、ソラ達のデートを勝手に覗き見しようとは思わないよ」
「・・・そう」
その言葉に、私は静かに頷いた。そして、ぽつりぽつりと今の想いを語り始めた。
その際、一瞬だけ胸の奥がきゅうっと切なくなった。その気持ちに、少しだけ首を傾げる。
「父様・・・。私、アマツ君の事をどう思っているのかな?」
「うん?」
父様は、その言葉に僅かに首を傾げた。どうやら、言葉が足りなかったらしい。
・・・まあ、今の一言だけで通じるとは思ってはいないけど。思わず私は苦笑する。
「アマツ君とデートをして、アマツ君の気持ちを聞いてから。私の胸が締め付けられるような、熱くなるような不思議な気持ちになるの・・・」
「・・・ああ、なるほどね」
「・・・・・・私、一体どうしたのかな?」
私の言葉に、父様はしかし苦笑するだけだった。その反応に、私の方が首を傾げた。どうやら父様は今の言葉だけで全てを理解したようだけど、一体何なのか?
そんな私に、父様は優しく微笑んで言った。
「ソラ、お前はアマツ君に恋をしたんだよ・・・」
「恋・・・?」
こ、い・・・、恋・・・?
私、アマツ君に恋をしているの?
しばらくして、その言葉が私の心の中にすとんと落ちるような気がした。そうか、私はアマツ君に恋をしているんだ。恋をしてしまっているんだ・・・
私は、胸をぎゅっと握り締める。とくんっと、胸の奥で確かに鼓動が聞こえた。それは、確かに恋の鼓動であり彼を心から愛している証拠だった。それを、心底から理解した。
「・・・・・・そうか、私、アマツ君に恋をしているのか」
ほんの少しだけ、私は嬉しくなった。そんな気がした。
父様は、そんな私に嬉しそうな笑みを向けて静かに部屋を出ていった。
明日、アマツ君に会ったらこの気持ちを告白しよう。そう、私は決意した。




