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弱者に死を  作者: unknown
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18階層

俺達は数時間の仮眠(としか言えない時間と快適性だが、ダンジョン内ではこれがれっきとした睡眠ならしい)の後、移動を再開した。

今現在の勇者組の力量は既にこの階層の魔物では相手にならないものになっていたので、正規ルートを通って2階層分飛ばす事が俺達の休憩中に決まっていたらしい。

なので現在18階層。当然の事ながら、同じ階層内にいる同業者内の人数は、階層が深くなればなるほどどんどんと減っていく。最初の頃は如何にもな駆け出しパーティーもいたが、現在ではプロっぽい人間しか見なくなっていた。

異世界製の人間の生体反応に反応する謎探知機曰く、現在この階層には俺達勇者一行しかいないようだ。

19階層は正規ルートの整備中、20階層は正規ルート策定中との事。もしかしたら俺達が安心して探索できるのはこの階層が最後かもしれない。

一応正規ルート付近の魔物を狩ってみて実力を測り、この階層で戦闘しても大丈夫だと判断されたらしく、現在は前の階層と同様に正規ルートを外れてマッピングしながらの行軍中である。


「消し飛べっ!!『闘気刃』ッ!!」


一言で持っていた長剣が強い光を帯び、剣が振り抜かれると共に前方の魔物へと飛んでいく高速展開型の攻撃魔法。詠唱が簡単でミスりにくく、発動トリガーが剣の振り抜きなので感覚的に扱いやすい魔法だ。おまけに込める魔力量によって威力を変動させられる幅が大きいので末永く使える、覚えられたらかなりラッキーなレアスキル。

大量の魔力を注ぎ込まれた凶悪な光の一閃の被害はそれだけに留まらず、後方の魔物さえ巻き添えにし、ダンジョンの壁面に大きな穴を開けて消滅した。

本来であれば所持魔力の割合消費のスキルな為、あのサイズだとそう何発も連射したりは出来ない。

しかしまあ、ウチには優秀な治癒師がいるので問題ないのである……。

まあ、いつもこんな具合という訳では無い。基本的に全員鍛錬の為にこのダンジョンに来ているので、興奮の収まりと合わせて魔法による問答無用の滅却とかは減ってきている。初陣での興奮も冷めてきたのか、外での訓練で習った剣術でもって相手を圧倒している。

……ように見えるが、護衛の人曰く「まだまだステータスにものを言わせて戦っている」らしい。まあそれもそうか、半月程の訓練でまともにダンジョン攻略を出来る人間なんて現代社会にいるはずがない。腕力ステータスにモノを言わせてるのだろう。

まあ、ステータスが無い俺には関係ないがな。


「よし、一旦休憩、経験値見るぞ!!」


隊長が叫ぶ。


「「「おおっ!!」」」


勇者組から歓声が上がる。

この世界には、自身が取得した経験値を表示してくれる機械が存在する。ステータスプレートだけでも経験値を得た結果レベルアップし自身のステータスが変わるのを確認する事で、経験値を最近得たかどうかは分かる。が、この機械はいつどんな魔物からどの位の経験値を得たのかまで表示してくれる為、厳しいレベリングを行う上位の冒険者や、昇進にステータスや努力量が厳密に関わる剣士騎士には欠かせないものとの事。

但しその内部構造が複雑な上、素材は手に入りやすいが加工するのが難しいので、個人でこれを所有している者は殆どいないという。

大きめのオルゴールのようなそれの使い方は、右側の窪みにステータスプレート、左側の窪みに左手を入れて、数秒待つだけ。見た目複雑そうではないのにそれなりに高機能という事で、恐らくこちらの世界における『精密機器』なのだろう、かなり丁寧に扱われている。因みに高価な機器の為、俺が運んでいない数少ない荷物のうちの一つでもある。


戦闘回数が多かった者から順に確認していく。俺は一番最後にしてもらった。まあ正直必要ないんだが。

出力結果は以下の通り。




戦闘 極低優先度 2[+2]




『戦闘』とは名ばかりで、実際今日したのは前衛に出会い頭に魔法を突っ込まれ、瀕死状態で空を舞っていたウサギ風の魔物をぺしっと弾き落としただけだ。本当にそれだけである。


大括弧の中はアビリティ・スキル・パークによるボーナスだが、これも俺の能力によるものではなく、同行している勇者組に一定数、以下のパークを持った奴がいる。





○疑似体験

付近の人間は、このパークの所持者から常に知見を得る。付近の協力関係を築いている存在の取得経験値量が5%上昇する。

・重ねがけ可能





あらまー素敵。どうやらウチの団体にはこのパークを持つ人間が20人程いるらしい。100%ボーナスが常に入ってくるのである。

そりゃあ勇者が強い訳だ。一応俺達に付いてきている兵士、剣士騎士達は、国の中でもトップクラスの実力を持っているとの事だが、『疑似体験』のパークを持っている人間は20人中3人との事。

同じパークを2つ持つことは出来ないので、40人いる勇者組の半数程度がこのパーク、又は互換パークを持っているという事になる、相当異常な事がよく分かるだろう。

因みにレアパーク。一説では宝くじ3等以上に当たる確率と同じ位取得できる確率は低いとかどうとか(この世界にも宝くじは存在するらしい)。

勇者として転移された人間に発現する特殊能力には、ある程度似通ったものになる傾向があるらしい。疑似体験パークもその一つだそうだ。


「うーん、全然経験値が取得出来てないな。幾らステータスが低いとは言っても、流石にこのままじゃあ流れ弾一発とかで死にかねない。訓練にでも付き合ってあげようか?」


はははと軽く笑いながら俺の取得経験値量を見て声を掛けてくれたのは、行軍中常に俺の周りで警戒をしてくれている男の人だった。


「いえ大丈夫です。前衛が随分強いので。それに、ダンジョン内でそんな事に体力使うのは良くないでしょう」


本心である。別に異世界に来てまで補習的なイベントに参加したくないとかいう訳では無い。そんな俺の気持ちを察してか察せずか、彼は苦笑いしながらこう話す。


「いや、周りを常に警戒する役回りの僕としては、君がある程度自衛できるようになってくれるようになった方が楽できるし…」


おっと。ストレートなお荷物発言である、全く以てその通りであるが。しかも、自分から相手を慮った発言をした後にこんな事を言われてしまうと、拒否しづらい。


「あ、じゃあ私もお願いします」


そんな風に話に入ってきたのは例の夜食ちゃん。まるで俺が補習を受ける事が確定したかのような言い方だ。


「なんか、どんどんと前線で戦っている方達と離されていっているみたいで」


今回の取得経験値量の確認では、全体で見て最大1030、平均620、最低2といったところ。彼女は確か基礎値250のボーナス込みで500ちょいだったので、確かに遅れてはいるだろう。さして大きな差では無いとはいえ、俺と違って勇者組に付いていこうとしている彼女としては塵積で後が怖いのだろう。


「しかも、経験値が貰えても上昇するのは魔力攻撃力、貯蔵量、器用さばっかりで、体力や脚力は全然伸びないんです。皆さん物凄い勢いで各ステータス伸びていっているので、このままだと全体の行軍速度に支障が出るんじゃないか、と思うと……」


まあ大丈夫だよ、君は回復役としてかなり重要な役職持ちだから、置いていかれることは絶対に無いよ。

そう、誰よりもその置いていかれる心配をしなければいけないのは俺である。スタート地点から彼女のバフでドーピング必須であるが、この調子だと探索の後半戦はかなりやばいかもしれないのだ。

彼女のスキルバフの最高性能がどの程度かは未知数だし。


「よし、じゃあ基礎体力を付けていけるように頑張ろう。ちょっと辛いかもしれないけど、晩御飯を食べて終わったら僕の方に来て」

「はい!宜しくお願いします!」

「はあ……宜しくお願いします」


未来が大体予想できてしまう、憂鬱だ。


「宜しくね、上西くん」

「あー、宜しく」


単調なダンジョン探索に息抜きが出来たのが嬉しいのだろう、笑みを浮かべて笑う夜食ちゃん。

あー憂鬱。












−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−












晩飯後、約束通り、円形になって休んでいる一行から少し離れた所で俺達3人は向かい合っていた。


「基本的に、ダンジョン内で経験値を稼ぐなら魔物と戦うのが当然一番効率的なんだけどねぇ。もうかなり深い階層まで来てしまってるし、危ないといけないから、僕が相手をするよ」


事前に、日本の陸上部や野球部、それに吹奏楽部の人間がやるような長々としたランニングやら体操やらをした後、次は実践での回避行動の訓練という事になった。

俺が2の経験値を得た例のウサギもどきは、意図して弾いたというよりも顔を守ろうとして運良く叩けてしまったといった感じで、通常はこの階層にもなってくれば俺のステータスでは唯の流れ弾でもかなりの速度に感じられる。よって、意識して回避する為にはステータスの暴力又は実践経験で培った反射神経(という名のまあ隠しステータス)を使うかしないといけない訳で、後者の俺の場合はこうして回避というシチュエーションに限定した訓練をして体に覚えさせる必要がある。


「味方が砕いた岩の欠片とかも飛んでくることがある。知ってると思うけど、結構数が多い上に尖ってることが多いから危ない」


俺達は前衛からかなり遠いから殆ど飛んでこない。とはいえ、階層が下がる毎に少しずつダンジョンを構成している岩石成分も変わってきているのか、見るからに硬そうな感じではある。突然穴だらけにされる可能性も無くはない。


「まずは、この鞘で僕が君達に攻撃を仕掛けるから、それを避ける訓練をするよ…反射神経を養う訓練だから、避け方は今は我流でいいよ」

「はい!!宜しくお願いします!」

「宜しくお願いします」


これから習う技術を、応用しなければいけないような状況にならない事を祈りながら、俺達は交互に休んで稽古をつけてもらってを繰り返した。

後衛、というか正直それよりも後ろにいる俺は、仮眠はさして要らない。治癒師の彼女も時々仮眠を省く位は問題ないようだ。



後から気付いたが……この補習、ダンジョン攻略前の訓練をほぼ受けていない俺にとっては数少ない異世界転移らしいイベントだった気がする。


次回は火曜日22:00投稿予定です。

今日深夜辺りにも投稿するかもしれません。


基本的に、毎日22:00付近に投稿します。それとは別に、筆が乗ったときは25:30位にも投稿するかもしれません。


伏線回収はまだ先です。温めてます。ちゃんと回収しますので暫くお待ちください。

本当はこんなに展開をゆっくりにするつもりは無かったんですが、不憫な主人公を書くのが面白いので、俺TUEEEEは暫く先です。

まあ、残念チートになる予定ですが。


ご意見ご感想、低評価高評価どうぞ宜しくお願いします。

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