Last Day Ⅳ
俺は新種の擬態型魔物を回収した後、階層内をデタラメに全速力で走り続けた結果、約一時間後に上層階への通路とストルさん達を見つける事ができた。
現在、21階層。レストエリアまではもう直ぐだ。
俺の体はというと、少し前から吐き気がするようになっていた。平衡感覚もなんだかおかしい。
中々濃い出来事が続いた上に人と会った安心感から失念していたが、自身で想定していた活動限界のタイムリミットは今日までだった。
水は分けてもらっているので、もう一日くらい動けるだろうと考えていたのだが……俺が思っている以上に俺の身体はボロボロになっているようだ。
「レストエリアまであとどのくらいですか?」
「あ?やっぱ辛くなったのか?」
「まあ、多少疲れてはいますがまだ大丈夫ですよ」
「……とんでもねえ生命力だよな、お前。俺にはお前の顔に死相が浮かんでいるように見えるんだが……」
「……修練の成果ですよ」
常に瀕死状態で、尚かつそのまま激しい運動を間断なく続ける。そんな訓練をしていれば、俺が化物級の生命力を得ているというのも頷けるだろう。
でも死相って……別に俺は貧血体質な訳ではない。
きっと薄暗い洞窟内で数少ない光源(薄緑色)に照らされているからだろう、うん。死相を浮かべながら最前線で戦う冒険者か……。
うん、俺TUEEEという理想(?)からは程遠いな。
俺がぶつぶつと呟きながら遠い目をしていると、治癒師のミーティアさんが話し掛けてきた。
「上西さんは転移組の方なんでしたよね?」
「ええまあ」
「やはり、転移組の方々は本当に凄いですね。そんなになっても動けるだなんて……」
「……」
え、何、『そんなになっても』って、どんなになってるの今の俺!?
いよいよ俺の今のビジュアルが気になってきた。この世界にも鏡はあるが、ダンジョンに持ってくるようなものではない。
カメラやそれに類するものは存在しないので、記録しておくこともできない。将来的に、デンジャーパークを活かす為に瀕死状態を故意に起こす事も考えている俺はその辺り、気になるんだが……。
周りにどう見えているのかを仔細に聞き出す事にした。
曰く、
「死相が浮かんでやがる」
「目の下の隈が凄いことになってます」
「唇、めっちゃ濃い紫色」
「体温低いですねー死んでるんじゃないですか?」
「怖い。幽霊みたい」
「夜、夢に出てきそう、怖い」
「歩き方が不気味」
「声に温かみを感じなくて鳥肌立ちそう」
「死人に見える」
「死人に見えます」
「死んでね?」
「まあ、死人って言葉がぴったり合うな」
「……」
予想以上に精神にダメージを負ってしまった。次からは死化粧してダンジョン来ようかな……。
俺達は暫く歩き続けた。21階層にもなれば魔物は瞬殺。
大きな問題も起こらず、レストエリアへと到着したのだった。
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戦闘 最高優先度 4050[+1215000]
訓練 最高優先度 3700[+1110000]
「「「「「…………うわぁ」」」」」
やっとこさ辿り着いた21階層のレストエリア。そこで俺は腹いっぱい飯を食い、丸1日間ぐっすりと眠り、朝食を取った後。
いつか見た取得経験値を調べる機械で、前回の測定から増えた経験値量を計測していた。していたのだが……。
出力結果を見た、俺の周りにいた人達は唖然としていた。
「……………お、お前……」
ストルさんが精神力を振り絞り、声を出す。
「……はっはっは、どうやら機械が壊れてしまっみたいですねー、叩けば直りますかね、まあ直りますよね一回叩いてみましょうか」
俺は乾いた笑みを浮かべながら冗談で場を和まそうとしていた。
約4日間での取得経験値200万超。こちらの世界の相場を知らないとはいえ、彼らの反応を見るに絶句するレベル。
「30000%スゴイ……」
「あぁ……?今なんつったよ……?ちょっと幻聴が聞こえてきたみたいだ、はは……」
疲れたような表情で、俺の呟きを聞いてふらふらとどこかへ行くストルさん。その言葉は、全員の気持ちを代弁していた。
俺は放心状態のストルさんのパーティーメンバー、他のパーティー、レストエリアの職員に声を掛ける。
「……全員、一旦これの事は忘れましょう?」
「「「「…………」」」」
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俺を含むレストエリアにいた人間、そのほぼ全員が焚き火を囲って座っていた。
ダンジョン内は太陽が見えないので、便宜上のものとなるが一応夕食どきだ。現在、どうやらレイグル大洞窟の最前線で探索をしていたらしい、という事が分かったストルさんのパーティー(俺達を多少先行している程度だと思っていたのだが。どうやら、俺達がちょくちょく耳に挟んでいた最高到達階層の更新をしていたのはストルさん達だったらしい)が、下層で見たものを伝えていっていた。
それを聞き終えて、この大洞窟の攻略を指揮しているらしい国の人間らしき人が質問をした。
「成程、22階層でそんな事が……私達は、魔物の異常発生を感知して避難していましたが、どうやら今までの現象とは毛色が違いそうですね。ただ規模が大きく、偶然囲まれた、と考えることも出来なくはないですが……調査が必要ですね」
それに付け加えて、こう言った。「私としては正直そんな事よりも、我々の最高到達階層よりも下層から上がって来た彼のほうが気になりますが……」と。しかし、それに応える声はない。皆で忘れようという話をしたばっかりなのだ。
ただただ乾いた笑いが所々から湧いただけだった。
因みに、俺が回収してきた擬態型の魔物の骸はさっさと上層へと運んでもらっている。ついでに20階層で鍛錬しているであろう、勇者組に俺の無事を伝えてもらうことになっている。
一度、ウェフン!!と大きな咳払いをした後、ストルさんが再び口を開く。
「まあ、明日になれば魔物の数も減ってるだろうから、調査に出られるだろう。調査に出るのは、俺のパーティーと、上西でいいか?」
「まあ、僕は大丈夫です」
俺は瀕死状態から回復したのでパークによるステータスアップの恩恵は受けられない。しかし、ものすごい量の経験値を得たことによってレベルが急上昇している為、22階層の魔物ならなんとかなるようになっている……はずである。
「では、それで行きましょう。上西君……療養時間が取れずすまない」
「いいえ、もう慣れました。大丈夫ですよ」
本音を言うと、ここ数日ハード過ぎたので一週間くらいダラダラしていたかったのだが、レストエリアといえどダンジョン内。
どちらにしろ、さして休息できはしないので致し方ない。それでも、魔物の襲撃に怯えずに寝られるというのは本当にありがたかったが。
一時的な異変について調査をするなら、行軍速度は早いに越したことはないしな。
作戦会議が終わった後、俺は明日に備え英気を養う為、あてがわれた仮設テントへと戻った。そして、おもむろに自分のステータスプレートを眺める。
この世界では自分のステータスやパークを他人に見せるのはタブーとされている。個人情報の塊だから当然だが。その為、めちゃくちゃな数値を取得経験値量測定器が出したときも、何故こんな数値が出たのか俺に聞いてくる人はいなかった。そして、それだけの経験値を得た俺のステータスについても。
「このステータス見せたら、絶対誰かぶっ倒れるよな……」
あれだけの経験値を得たのだ、ステータスにも影響があるだろうとは思っていた。多分、取得経験値量の時と同等のバグり様で……。
RANK 2
LEVEL 5
VOCATION / N/A
ABILITY /ささやかな生存本能、暗視
SKILL /魔物感知
PERK/臆病者の勇気、瀕死の代償、オーバーヒール
HP 15600
MP 2000
VIT 22010[+440]
STR 9000
MAT 5000
DEF 10900
DEX 3000
AGI 13500
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○臆病者の勇気
[ウルトラレア デンジャーパーク Lv.3]
世界は試練を与える。戦闘時に特定条件を満たしたとき、得られる経験値が30000%増加する。条件を満たさなかった時、得られる経験値が100%減少する。
上記の条件を満たしている時、自身の全ステータスが200%上昇し、物理、魔法、特殊攻撃のダメージが50%減衰する。
・重ねがけ不可(ABILITY)
・シークレット
・デンジャーパーク(HARD)
○瀕死の代償
[ベリーレア デンジャーパーク Lv.4]
自身の身体が瀕死状態の時、全ステータスが30%上昇する。瀕死状態からの回復時、治療速度が500%低下する。
・重ねがけ可能
・シークレット
・デンジャーパーク(CATASTROPHE)
○オーバーヒール
[ウルトラレア パーク Lv.1]
世界の理を捻じ曲げる。自身が受けたダメージを『蓄積量』分、無効化する。
『蓄積量』は時間と共に増加し、最大で体力最大値の500%まで蓄積することが出来る。最大量まで貯めるには1日間必要。
『蓄積量』は追加の体力とみなすことが出来るが、治癒魔法による回復は出来ない。また、あらゆる回復阻害の影響を受けない。『蓄積量』の残量は所持者の消耗状態とは関係しない(体力が0になれば、例え蓄積量を使い切っていなくとも死亡する)
・重ねがけ可能
・シークレット
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次回更新は金曜0時半近くの予定です。
評価の方も、どうぞ宜しくお願いします。