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弱者に死を  作者: unknown
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私の異世界転移 その3

前回に引き続き治癒師回。

「いやー転移組の中でもやっばい人は一杯いるねー!もう私10人で掛かっても返り討ちにされそうな人とか。才能ってやつなんだろなあ」

「こちらの世界の魔法や武術の知識はさして変わらない筈なのに、ステータスが高いだけであんなに対応が違うのはそういう事だったんだね」

「そうだね、確かにいの一番に確認されたのは名前とかじゃなくてステータスだったね」

「ははは……」


ここは、転移してきた人達向けの食堂。今までに転移してきた人達の中に料理人だった人がいたらしく、和風の食事が提供されていた。日本のジャンクフードに慣れた私達にはどうにも馴染まなかったけれど、故郷の食事という事で皆嬉しそうに食べている。

私達は練習試合も回数を重ね、連携練習や自主練習の賜物か、かなり戦績が良くなってきていた。

今は今日の訓練を終えて夕食中だ。

明らかに見た目は米、但し食感が何だか違う気がするものを口に入れながら、はーちゃんと談笑していた。

ちなみに、実はジャンクフードっぽいものもあるにはあるらしい。

裏メニューだか何だかで。

私はお味噌汁(モドキ?味噌とか材料こちらにあるのかな)を啜りながら、最近ずっと一緒にいるはーちゃんと話していた。


「私達の配属された『レイグル大洞窟攻略班』って、転移組は25人いるんだよね?」

「ん?ああ、うんそうだよ。前衛17、後衛8の脳筋パーティーだった筈」

「いや、そんなに脳筋って言う程でも無いと思うけど…。ていうかはーちゃんもその脳筋の内の一人なんじゃ?」

「おう?まあバランスが悪いという程でも無いから気にならないけど。因みにあたしは脳筋ではない」


はーちゃんは、敏捷値に優れるインファイトアタッカー。本来なら私の遠隔治療が一番光る相手なので、私達は訓練で組むことになったらしい。


「あ、で、話を戻すとね。転移組は25人いて、全員訓練を受けてる筈なのに、1人足りないんだよ」

「足りないぃ?休んでるとかじゃなくて?」

「うん、一度も訓練に参加してない人が一人いて。もの凄く強い人で専属の人が訓練してるのかな?」


配属後の訓練は私達が異世界に来て唯一、実戦前に知識と技能を得ることのできる機会の筈だ。その為、いないというのはおかしな話。訓練無しで実戦なんて、自分の命の問題に直結しかねないからだ。

しかし、はーちゃんの返答は私の予想とは違ったものだった。


「あ〜。はいはい、それはあの人だよあの人。最近結構噂になってる人」


ビシッ!!と、3つほど離れた机を指差すはーちゃん。ぺしっとその手を降ろしながら、私はそちらに目を向けた。


「うわぁ……」


第一印象はそれだった。10人は座れるであろう机に、たった一人。もの凄く近づきがたい負のオーラを漂わせながら黙々と食事をしているのは、高校生位の男の子だった。


「なんでも、ステータスがあたし達と比べれば異常に低くて、まともな仕事が出来ないとか。今まで送られてきた勇者達を見てもそこまで低かった人は居なかったらしくて、かなり対応に紆余曲折あったとか」

「……何で紆余曲折の結果、私達と同じ班に?」

「転移組でありながら、ここまでステータスが低いのは寧ろおかしい、という話になって、隠された能力に目覚める!的な展開を期待して非戦闘員として入ったんだって。異世界に来てまで辛い事ばかりなんてご愁傷様だよね」


成程。どれ程のステータスかは知らないけど、全ステータス1000台とかだろうか。又は、もしかして全ステータス3桁……とか?

私は2つのステータスが3桁だったけれど、練習の成果からか何とか4桁台まで増やせていた。どれも治癒師として重要なものでは無かったけれど、3桁はまずいと思ったのだ。

その他、魔力総量がかなり増えていた。魔力効率も…他の人と比べれば見劣りするものの、なんとか実践で使えるものになっていた。


「本人もそれを分かってるのか、訓練には出てきてないみたいなんだよねー。落ち込んでるのか、観光とかもせずに異世界に来てまで引き籠ってるとかどうとか」

「……」

「鏡子?」


私は、彼のうかべている表情に、既視感を覚えていた。訓練が始まって直ぐの、自信を無くしていた頃。朝起きて一番の洗顔のとき、鏡に映っていた私の表情とよく似ていたのだ。


「まあ、あたし達に出来る事なんて無いけどね」


そう、まるで私の思考を読み取ったような事を言ってくるはーちゃん。短い付き合いだけれど、濃厚な時間を過ごしてきたはーちゃんには私が何を考えていたのかお見通しの様だ。


「鏡子と違ってスキルやパークにも恵まれなかったみたいだし。頑張ってほしいけどね、同郷の人だし。あんなに不幸感満載だとこっちの息が詰まりそうだしねー」


なかなか酷い事を言っていたが、そんな、慮るような事も言うはーちゃん。私のはーちゃんは根は優しく、ツンデレなのだ。


「そうだね」


私は御馳走様、と呟いて食器を片付け始める。はーちゃんは大食いなのでまだ暫く食べる。

食器を片付けた後も私とはーちゃんは話し続け、夕食時間ギリギリまでそこにいた。あの男の子はいつの間にかいなくなっていた。









−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−









異世界に来ての興奮やら憧れやら、そんな気持ちを持ったまま、現実を知り挫折する。


「……はあ」


私は、夕食時に見た男の子の表情が気になって、全然寝付けなかった。

ここは2人部屋。隣でははーちゃんが寝ており、辺りは真っ暗。恐らく真夜中だろう。

私は気分転換の為にはーちゃんを起こさないようそっと部屋を出ると、少し散歩をする事にした。


「うわぁ……!」


部屋を出てすぐ、壁のない連絡通路の様な場所から外を見て、私は驚きの声を上げた。

私達の部屋は15階。この通路は、私達が滞在している『異世界管理機関』の、円形に配置されている施設の中心部にある。その為、凄く景色が綺麗だった。

真夜中にも関わらず多くの光で照らされた街の様子は、とても幻想的なものだった。

一応この場所は転移してきた女子たちの中でも人気であり、態々職員の方がこの女子寮?建築計画の時には無かったにも関わらず、建設開始直前に出されたその時代に転移してきていた人の意見を聞き入れ、計画を変更してスペースを作ってくれたらしい。

転移して初めての夜。夕食時の一家団欒の光があちこちから広がり、中央の広場や道路が爛々と輝く景色は、初めて見た私達全員が思わず見惚れるほどのものだった。

その街並みも相まって、本当に異世界に来たんだなあという実感が湧いた。

日本でも夜景というのは美しかった。但しそれに照らされるのは無機質なガラスやコンクリートが並んでいる風景で、中世ヨーロッパ然とした、まるで外国の様な街の夜景はとても新鮮だった。

本当に、遠い所に来てしまったんだなあ……。


しかしその風景は今は少し違っていた。

深夜と言って差し支えない時間帯。節電という概念がこの世界にあるのかは分からないが、照度を落とした街路灯、うっすらと光を反射し、きらきらと光る噴水、ぽつぽつと、まだ起きている人がいる事を知らせる建物の灯り。


「こんなに綺麗な……」


ぼんやりと浮かんだ、落ち着いた雰囲気の夜景は、いつも寮に帰る前に見る夜景とは随分と違って見えた。いつもの活気に溢れた夜景とは対になるような、静かな夜景。そこには、言葉に出来ない魅力があった。


ーーーー私が、この夜景を守るんだ。


異世界につれてこられて、右も左も分からない状態の私達に優しく接してくれた街の人達。その穏やかな暮らしを守ろうと、自身の鍛錬ばかりで忘れかけていた魔族との戦争という『使命』を思い出し、自分を鼓舞するのだった。


暫く夜景を眺めていたが、高層階故の冷たい風に吹かれ、大分寒くなってきていた。風邪を引く前に帰ろうと立ち上がり、視線を移動したとき、ふと視線が私がいる『異世界管理機関』、その敷地内の一点に向いた。


「?」


とそこで、遠すぎてよく見えないが人影のようなものを捉えた。

暗くて見えないが、その人影は真っ直ぐ、まばらに光のついている機関の施設の内の一つに入っていった。

その瞬間、ぐぅぅ、と自分のお腹から音がする。


「ちょっとだけ、ちょっとだけだから……」


そこは私達が数時間前にいた転移者用の食堂ではなく、職員向けの食堂。もうこの施設に来て一月近くが経っているが、まだ訪れたことが無かった場所だ。

転移者用の食堂と違って深夜も営業してるんだなあと思いながら、目的地を自分の部屋から食堂へと変更し、私は歩き始めた。

当初2回で終わりの予定でしたが、意外と長くなってしまっています。

もう一話、治癒師回となります。次はやっと主人公とお話する予定です。本当は洞窟内での話まで治癒師回は入れたいですが、そうすると本当に話が進まなくなるので次回で終えたい……終わる……筈。

次回は火曜0時更新予定です。作品に対して反応を頂きたい……。

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