私の異世界転移 その1
治癒師目線でのお話。
私はもう何度目か、自分のステータスプレートを眺めていた。
RANK 1
LEVEL 1
VOCATION /高等治癒師
ABILITY /女神の微笑み、慈愛の泉
SKILL /瞬間治療、神力治療、慈愛の光
PERK/外来者の意地、慈愛の女神、超生命力、協調行動
HP 1000[+100]
MP 5000[+1000]
VIT 7500[+500]
STR 850[+70]
MAT 750[+80]
DEF 1000[+85]
DEX 3700[+500]
AGI 1500[+150]
……そしてため息をつく。
最初にステータスプレートを確認した時、私は安心した。
転移する直前か途中か、私は『神の代理人』だと言う人から、これから戦争に駆り出される事になる、と告げられていた。
命のやり取りなんて今まで一度もやったことが無い。話を聞いたときから、ずっと不安で一杯だった。
相手の命を奪う覚悟が出来るのか、殺意を向けてくる相手に対して勇気を振り絞って逃げ出さず、相対することが私に出来るのか。
しかし、そのときに渡されたステータスプレートの『治癒師』の文字を見たとき、私は心底安心した。
自分の天職は、後衛の、絶対に戦うことのない種類のものだったから。
しかし、私のステータスプレートを見た担当職員の方の反応は、予想とは違い困惑したものだった。
「敏捷値が異様に低いですね……あと体力値も、実戦で困る事は少ないでしょうがかなり低いです」
私のステータスは、恐らく敏捷値を表すのだろう『AGI』の値が1000代。周りの同じく『転移者』の人は殆どが3000ちょっと、数人だけが2000代後半だった。
「1000に満たないステータスがあるんですが……」
「ああ、これは大丈夫ですよ。物理、魔法攻撃力ですが、治療師にはあまり関係がありません。勿論、高いに越したことはありませんが」
何でも、敏捷値が低いとパーティーの行軍に支障があるそうだ。基本的に前衛は攻撃力、体力、物理攻撃関連のステータス、後衛は器用さと魔法関連のステータスに秀でているそうで、それに加えてパーティーを組もうと思う人間なら誰しも、行軍速度に影響の与える敏捷値も他のパーティーメンバーと同水準必要らしい。
多少敏捷値が低い位では問題は起こらないけれど、周りの人の半分程度しか無いというのはかなり面倒になるそうだ。
「どうしても、治療師という職は回復ポーションで代用できてしまいます。その為、治癒師としてパーティーに参加するなら絶対に行軍を妨げない様にしなければいけないとされています。ですが、貴方のステータスでは……恐らく、最前線へ行く事は難しいでしょう」
それは寧ろ良かった。最前線に近くなればなる程、戦いは苛烈さを増すと思ったからだ。
しかし、私のステータスプレートのパーク、『慈愛の女神』の詳細情報を見た途端、職員の方の表情が変わった。
ーーーー
○慈愛の女神
[ベリーレア デンジャーパーク Lv.1]
自他の身体を気遣う。治癒速度が常時50%上昇し、遠隔治癒が可能になる。他者の治療に一切の魔力を消費しなくなるが、自身の治療に通常時の3000%の魔力を要するようになる。
特定の相手を指定する事で120秒間、相手への物理攻撃を全て肩代わりする事ができる(攻撃は60%減衰する)
・クールタイムは24時間
・重ねがけ不可(PEAK SKILL)
・シークレット
・デンジャーパーク(RISKY)
ーーーー
「なっ、何ですかこのパークはっ!?」
「は、はいっ!?」
びっくりした……。今まで淡々と業務をこなしているだけという風だった職員の方が、急に感情を露にしていた。
確かに、一つだけ内容が異様だったのでこのパークについては私も気になっていた。そもそも説明文が他のパークより随分と長いし、最初に書かれている『デンジャーパーク』、最後の方の『シークレット』の文字も気になる。
ここに来る前に会った『神の代理人』の人曰く、『シークレット』は極めて珍しい能力に付くようで、転移者しか得られないのだという『外来者の意地』にも付与されている属性。
でも、他の人のステータスを見せてもらっても『外来者の意地』以外でシークレット属性のある能力を持った人はいなかったし、『デンジャー』の属性が付いた能力に関しては誰も持っていなかった。
「少々お待ちください!」
踵を返して何処かへと走っていく職員の方。上司を呼びに行ったのかな。少なくとも、このパークが特殊なものであるということは察する事が出来た。
『重ねがけ不可』の属性の後ろの括弧は…括弧内の種類の能力と重複して効果は発揮されない、とかかな?それなら、私の場合はアビリティであれば重複する事が出来るのだろうか。
『デンジャー』の属性の後ろの括弧は何だろう?『RISKY』……直訳するなら正に『危険性のある』だけど、同じ事を二度書く必要があるのかな?
異常な程長いクールタイムも不思議…。これでは通常の戦闘では使えない…まるで、最後の切り札のような…。
このパークの文章のニュアンスからは、『攻撃の肩代わり』の効果のクールタイムを言っているんだろうけど、遠隔治療や消費魔力量の減少といった能力にまでこのクールタイムが適用されるなら、余りに実践向けでは無くなってしまう。
そもそも『パーク』というものは3つある特殊能力の中で、『アビリティ』や『スキル』とは少し違ったものなのだそうだ。アビリティとスキルは所持者の技能や経験によって得た体の特性や技術を文章化したもので、本質的には一緒のもの…だそう。その効果内容によって区別されているらしい。しかしパークは『神による奇跡の再現』のようななものらしい。
私も、神の代理人と名乗る人から教わったもののいまいち理解できていない。
曰く、『奇跡』と呼ばれる出来事を神の力によって常時又は任意のタイミングで同じ現象を再現出来るようにしたもの。
ここで言う『奇跡』というのは、『偶然』発生し、尚かつ『本人の力』が引き起こしたものを指すらしい。本人とは何ら関係の無い要因で発生した事は対象にならないとの事。
尚かつ、神が認める程の特異なものでない限り、パークとして習得する事は出来ないらしい。
パークに限らず全ての特殊能力には、6段階のレアリティがあり、当然レアリティが高くなればなる程能力の性能は上がったり、より尖ったものになるとか。私のこのパークは『ベリーレア』、かなり珍しい部類だ。一緒に転移させられた人達の中にも持っている人はいそうだが、今のところ周りでは見つからなかった。
「すみません、お待たせしました」
私が物思いに耽っていると、背後から声を掛けられた。さっき走っていった職員の方が後ろにいる。上司のようだ。
「プレートを見せていただきますね……ほう、これは。……貴方は勇者一行を支える貴重な人材となれるでしょう」
「えっ??えっ!?」
私はつい素っ頓狂な声を出してしまった。ついさっき「最前線には出られない」と言われたばっかりなのに、何を言っているんだろう。
「このパークは、お察しかとは思いますがとても強力です。貴方がパーティーにいるだけで、パーティーの生存率が大幅に向上するでしょう。おまけに、腐ることも無い。大規模な部隊でも重宝されるでしょう」
「へ?」
「貴方のパークは、『シークレットパーク』という稀有なものです。その効果は、無限に他者を治療出来るというもの。貴方は治癒魔法の練度と素質次第で、一人で治療団一つ分の治療能力を持つことができるかもしれない」
急に言われて、混乱してしまう。何を言っているんだろう、このパークにそこまでの価値があるとは思えない、と思うものの、こちらの世界により詳しい職員の方に言われるとそんな気がしてきてしまう。
混乱している私を見てか、職員さんは更に話を続ける。
「貴方のパークがあれば、自身は一切疲弊することなく、安全地帯から強力な回復魔法が行使できます。しかし、普通の治癒師はそうはいきません。大抵の場合は負傷者に直接触れなければなりません。しかし、各地で戦闘が行われているような状況の中、十分な自衛力の無い治癒師が負傷者の元へ行くのは現実的ではありません」
「その為、負傷者を後方へ運ぶ必要がありますが、当然その為の人材が必要で、また、負傷者の治療も遅れてしまいます。当然、戦闘中の味方に治癒を施す事など不可能です」
「しかし貴方のパークがあれば…戦場で倒れた戦士を、その場で治療出来ます。それどころか、戦闘中の人間すらそのまま治療する事ができる筈です。そのような事が出来る能力を、私は今までに見たことがありません」
びっくりして状況を飲み込めていない私は、何やら手続きをするとかどうとかで何処かへと連れて行かれる事となった。
この後あれやこれやと私の能力についての検証に呼ばれ続け忙しく過ごす内、勝手に配属先を決められ、その訓練に入る事となった。
しかしその訓練の中で、私は自分の無能さを知る事となる。
今までの掲載話をいくつか見直しました。
もう一話、治癒師目線での話が続きます。
次回は土曜1時、又は土曜23時更新予定です。