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1-9 罠設置会議

「で、これが例の罠に使う餌っていう事?」


 なんという事も無しに、そのような暴言を平気で垂れ流す、女性私立探偵(自称)がいる。


 この小会議室の真ん中に、折り畳み式の長机が二つ寄せられていて、その前には三人の男達が立っていた。


「餌、言うな。これとか言うな。

 我が東京警視庁の、誇りある警察官なんだからな。


 この度の無謀な作戦に命がけで志願してくれたんだから、ちゃんと敬意を払えよ。

 大体、こんな作戦を言い出したのは、お前だろうが」


「責任持って命がけで怪物と戦う、か弱い乙女に対して、あんたっていう人は、なんちゅう事を言うのか」


「お前のどこが、か弱いんとか言うんだ。

 この体重80キロの俺を片手で楽々と持ち上げて、『麗鹿片手独楽』とか言って、頭の上で軽々と回せる奴の」


 そんな、麗鹿と宗像のいつ果てるともつかぬコントを聞いていて、憮然としたというか、力が抜けたというか、なんとも言えないような表情で彼らの前に立つ三人の男達。


 この二人、自分達の緊張を和らげるために、わざとやっているんだろうなあとか思いつつ、それでもなんと言ったらいいのか困るような、慣れていないものにはついていけない空気というか、阿吽の呼吸。


「それで、自分達はどうしたらいいのでしょう」


「そうです。

 市民の安全を守るために、この命、ベットしますよ。

 配当はジャックポットで御願いしますね」


「鳥野郎のぼんじりに、強烈な一発をぶち込んでやりましょう」


 いや、『ぼんじり』は鶏の肛門の事ではないのだがと思いつつ、麗鹿はにこやかに締めた。


「じゃあ、とっととみんなでガルーダの野郎を締めて、宗像の奢りで行く焼き鳥で乾杯だなっ!」


 勝手に自分の好みで、強引にチームを盛り上げようとする麗鹿。


「こらこらこら、勝手に決めるな。

 安月給なんだぞ」


「偉い人なんだから、命がけでミッションに参加する若者にケチな事は言いなさんな」


「えーと、少なくとも、お前は若者じゃないよな?」


 だが、にこやかな笑顔で若者たちとパシパシっと掌を交互に重ね合わせて、「ファイ、オー」と気勢を上げる麗鹿。


 このノリのよさこそ、鈴鹿御前の真骨頂。

 仲間の結束は高まった。

 麗鹿も少し調子が出てきたようだ。


「ふっふう。

 宗像ちゃん、これで奢らないなんて、もう人じゃない。

 とてもリーダーとは言えないよ」


 強引に話を持っていかれ、諦め顔の宗像と、元気一杯の若者チーム。


 こんなやり取りもまた力をくれるエッセンスだ。

 皆が笑っていた。

 うち約一名は苦笑いであったのだが。


 そして罠を張るための準備にかかっていった。


 まずは、場所の選定だ。

 これを見誤ると、『餌』が非常に危険に晒される。


 そして、ヘリで強行突入できなくてはならない。

 また車やバイクを使用する際の便の良さも必要だ。


 そして、それらがすぐ近くに揃っていなくてはならないのだ。


 だが、そういう場所は人目が多いと決まっている。

 また、市民に危険があってはならない。

 そこが一番問題なのだ。


「要は、相手をきちっと仕留められれば問題は無いのよね。

 でも、空間妖術を使う相手だから、そっちに逃げ込まれると、この麗鹿様でも非常に厄介なんでねえ。


 なんとか、あの逃げ足を一瞬でも封じられたらと思うのだけれど。

 それについては、策が無い事も無いのだがな。


 安全面が一番のネックなのよね。

 そこの餌諸君以外の一般市民の安全も。

 それで会議でも言い辛かったんだから」


 ネット地図と睨めっこしながら唸る宗像。


 市民が誰もいない場所なんて、果たしてこの大東京にあるのか。

 あまり辺鄙なとこでも罠と気付かれそうな気はするが。


「今まで、比較的に人が多いような地域に出没しているんだよ。

 人を捜しているらしいから、それも当然なのかもしれないがね。


 そして時間帯は、まるで梟のように夜の狩人だ。

 お陰で騒ぎが大きくならずに助かっているわけだが。

 だが、今回みたいに動画撮影されてネットに上げられるのも時間の問題だろう」


「まあ、最近は作り物の動画も多いですからね。

 報道管制を敷いておけば大丈夫なのではないでしょうか」


「気をつけないと、騒ぎが大きくなるとプロ顔負けの映像マニアが検証して騒ぎ出すぞ」


 チームでも、あれこれ意見は出るものの具体的な案はまだ浮上していない。


「ここなんか、どうです?」


 メンバーの一人、新巻誠二がパソコンを操作してプロジェクター画面の上で指を指したのは、意外な場所だった。


「荒巻ちゃん、ナイス!」

「荒巻! そこは、お前」


 麗鹿と宗像で反応が見事に別れた。


 荒巻が指し示したそれは、富士裾野にある自衛隊演習場であった。


 東京ですらない。

 一応は、東京方面の自衛隊方面区のうちではあるのだが。


「ここなら『一般人』はいないし、総理の命令で貸し切りにできそう」


「貸し切りって、お前。

 駐屯地から自衛隊を追い出すのか?」


「では、日々厳しい訓練に邁進し、国防に真摯に取り組む若者達に無駄に死ねと?」


 腕組みをして天を仰ぐ宗像。


 確かに麗鹿の言う事が正論なのだが、自衛隊にもプライドっていうものがあるだろう。


 ちょっと怪物狩りをやるから、『お前らは家から出て行け』とは大変に言い辛い。


 だが、こうなると言わねばならんのだろうな、と諦める宗像。


「だが、麗鹿。

 どうやってゲストをご招待するつもりだ?

 人のいないところにアレは、奴は来ないのだろう?

 そこは首都圏から離れているし」


「何、呼び出しをかけてみよう。

 我々、妖しには波長のようなものがある。

 あいつの波長は、この前遭遇した時に覚えた。


 そこへ奴の興味のありそうな言葉を垂れ流してやればいい。

 まあ妖魔ラジオとでもいうかな。


 奴が餌を見つければ、やってくるだろう。

 そして、奴が現われれば我々にはわかる」


 麗鹿にそこまで言われては上に掛け合うしかない。

 彼ら四人を残し、宗像は警視総監室へと向かった。


「さて、残った我々はお話でもしようか。

 じゃあ、みんな。

 自己紹介と、彼女の有無から」


 にやにやと笑いつつ、青年達を値踏みしながら切り出した麗鹿。


「そこ、大事なとこなんですか?」


 ちょと困惑しつつ笑いを浮かべる二人目の志願者。


「うん、だって死んじゃうかもしれないじゃん。

 あんたら囮の餌なんだからさ。

 彼女を残して死んだら、こっちも心苦しいし」


「うわ、彼女のいない奴は危険の優先度が高いっていう事なんですか!?」


「あはは、山崎。

 今からでも遅くはないから、頑張ってナンパしてこいよ。

 あ、私は猪原満。

 一応、ステディな彼女ありです」


「今は勤務時間中ですよ!

 もう猪原さんは相変わらずだなあ。

 ああ、僕は山崎大樹です。

 彼女募集中です」


 そして悩ましげに麗鹿を見る。


 初めて見たときから、その格好良さに夢中だった。

 しかし、相手は鬼。

 しかも伝説の。

 そして、彼女こそは『闇斬り』なのだ。


 闇斬りについて詳しい同僚から聞いた事がある。


「いいか、山崎。

 闇斬りとは絶対に関わるな。

 あれに関わるのは死神と触れ合うのに等しい。

 ほんの気まぐれで、首切り鎌が飛んできて人生が終わるぞ。

 奴らは人の姿をしていても、人じゃないんだ」


 次に、新巻誠二が改めて挨拶した。

 大仰に手を振りながら礼をして。

 妙に芝居がかった仕草が似合う男だ。


「どうも、新巻誠二です。

 彼女いますよ、幼馴染の可愛い奴。


 あと、血の繋がっていない超可愛い妹とかも二人ほどいますね。

 女子大生と女子高生です。

 義理の母親も、娘と姉妹なんじゃないかと思うほど若く見える美人ですし」


 そう言って豪快に笑う荒巻。

 案外とお茶目な性格だったようだ。


「このリア獣め!」


「荒巻さん、そのうち後ろから刺されても知りませんよ、もう。

 あ、リア獣は猪原さんもね」


「うん。

 やっぱり、こいつには一番危険な配役をしておくべきだろうか」


 遠慮なくシャレにならない突っ込みを入れる麗鹿。


「異議なし、異議なーし」

「それは仕方がないですね」


「でも、その次は猪原。

 お前だからな」


 すかさず言い返す荒巻。


「げ。山崎君、君も今日の帰りに彼女作りたまえよ。

 5人ほど」


「猪原さん、無茶言わないでくださいよ。

 できるものなら、とっくの昔に作ってますって」


「いやお前らって、みんな顔とかが似ているから選ばれたはずなのに、なんでこんなに差がついているんだ。

 解せんな」


 そんなこんなで、対妖魔特別捜査室本部のある地下の一室は、熱く議論に沸騰していたのであった。


 肝心のお仕事はちっとも進んでいないのだが。


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