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1-8 対策

 会議室のさざめきは止まる事を知らなかった。


「それで?」


 今度聞いてきたのは内閣の関係者だろうか。


 短い一言に、逆に万感の思い、計り知れない重さが込められている。

 この会議の中で、一際、真剣な表情をしているのがこの男だ。


 この騒ぎが大きくなっていけば、いずれは内閣を揺るがしかねない問題となる可能性もある。


 報道管制は敷かれているが、一旦表沙汰になれば、マスコミもそれこそ鬼の首を取ったかの如くに騒ぎ立てるだろう。


 対応でへたを打つと、最悪は政権交替にまで発展しかねない。


「奴らは空間妖術を使うようです。

 極楽鳥の特徴のようなものですね。


 人間の皆さんに対しては『空間魔法を使う』とでも言った方がより身近に感じられる表現でしょうか?」


 ざわめきというよりは、怒号、怒鳴りあいのような言葉の応酬が会議室を殴りつけた。


「妖魔の次は魔法かよ!

 いい加減にしてくれよ」


「いや妖術より、魔法の方がまだマシなんじゃないの」


「いやいや、そんな相手にどうすりゃあいいんだよ」


「魔法使いの鳥だと!?

 うーん、そんなものをどうやって逮捕しようか……いっそ猟友会に応援を頼むか」


「もうこんな話、わしはついていけないぞ。

 誰か、何とかしろ~!」


 そんな意見が噴出して、警視庁の偉い人達が紛糾していた。


「静粛に、静粛に」


 木槌をガンガン叩く人がいて、皆静まった。

 それは警視総監その人だった。


 顔色一つ変えていない。

 たいしたものだと、麗鹿は内心、彼に高い評価を与えていた。


「ああ、鈴木さん。

 どうか続きを御願いいたします」


「わかりました。

 とにかく、相手はいきなり空間から現われて、向こうはこちらに対して強力な物理攻撃を加えてきますので。


 こちらからの攻撃は受け付けないと考えてください。

 人間の警官や兵士には手も足も出ませんね、はい」


 一瞬静まり返った会議室が、次の瞬間には再び怒号の沸くスペースと成り果てていた。


「ふざけんな。

 そんな物を、どうしろっていうんだ」


「こっちは命を張ってるんだぞ。

 俺達は七面鳥かよ」


「いや、鳥なのは、あっちだろう」


「お祓いだ、もうお祓いしかないぞ」


「あ、そこの人、今いい事を言いましたね」


「え?」


 唐突な麗鹿の指摘に、再び会議室は静まり返った。


「いやね、こうなるとマジで法力僧でも連れてくるしかないですよ、もう。

 ただし、瞬間的に決闘みたいな感じでやれないと、法力僧の方が血塗れの肉塊に変わりますね。

 どこかに、そんな凄い早撃ちガンマンみたいな法力僧の方います?」


 沈黙は続いた。

 多分、そんな人はいないのだろう。

 少なくとも、警察や自衛隊に手持ちはなさそうだ。


「他に対策案はありませんか?」


 穏やかな、落ち着いた声で尋ねる警視総監の言葉に、にっこりと笑顔で即答する麗鹿。


「ありますよ」


「なら、なんでそれを最初から言わない!」


 なんか怒っている人がいたが、麗鹿は首を竦めた。


「それは、ここに私がいるのを見ていただければわかるように『闇斬り』を使うしかないわけですが。


 闇斬りとて万能じゃないのです。

 皆さん、私が普段どのようにして街を移動しているとお思いですか?」


 皆が顔を見合わせたが、若いメンバーが手を上げて答えた。


「超能力とか凄い身体能力でバビューンっと?」


「あははは。

 あなた、アニメとかマンガの見過ぎです。


 答えは、地下鉄と徒歩です。

 ここにも神田から地下鉄定期券で通っているんですよ?」


 そう言って、麗鹿はヒラヒラと地下鉄定期券を登録したICカードを見せた。


 思わず、うーむと唸る会議のメンバー達。

 麗鹿はそれを楽しそうに見ながら話を続ける。


「それが、何かあなたにとって、何か不都合なのですか?」


 先ほどの内閣マンが聞いてきたので、頭の中で『落第』と判定しつつ、溜め息と共に回答が齎された。


「相手は霊体のような者。

 いわば、テレポーテーションで移動し、やろうと思えばこちらからは手が出せない超空間の中から攻撃してくるようなもの。


 そして、私はそれを徒歩と地下鉄で追いかけるのです。

 車を使っても追いつけませんねー。


 相手を捉えられたら、多分始末できるかと思いますが、見つけたとしても初撃をはずしたら、それまでです」


 今度は『絶句』が会議室を、超高濃度で速やかに満たしていった。


 もはや、その濃度はPPMの単位とかでは絶対に足りなかろう。


「そ、それこそ、なんともならないじゃありませんか!

 どうしろというんですか」


「罠でも張って待つしかないですねー」


「罠?」

「はい」


「幸いにして、相手のお好みは判明しているものですから」


 それを聞いて、苦い顔をする宗像。


 つまりは、あの事件の犠牲者達に似た若い男達を大量に用意して、麗鹿の駆けつけられる場所に監視付きで置けといっているのだ。


 そして、それを麗鹿が会議で公表したため、場はまたざわめいた。


 賛否両論に会議は揺れ、怒号も渦巻いた。

 しかし代案も無いのであるから、次第に大勢は罠設置の方向へと舵を切り出していった。


「ヘリを用意してくださったら、私がそれで飛び回るしかないですね。

 奴に次々と移動されたら叶いませんので、罠はとりあえず三か所くらいを同じエリアに準備して試してみたら、どうですかねー」


「はあ。

 麗鹿、お前なあ、本当に」


「じゃあ、宗像さんや。

 あんたが他にいいアイデア出してよ。


 今回の相手は、なんだか後味の悪い決着になりそうな感じなんで、こっちも本音で言えば、あんまり乗り気じゃないんだけど」


「そう言うなよ。

 今のところ、お前にやってもらわないと警察には手も足も出ないんだからな」


 どうしましょうか? そんな表情をして、警視総監の方に目でお伺いを立てる宗像。


 警察庁の偉い人や国家公安委員会の人、自衛隊の人や内閣の人間、はては身内である警視庁上層部の幹部達までが、じっと警視総監を見詰めていた。


 皆、もうこれ以上市民の間に犠牲者を出したくないのだ。


 内閣の人に至っては、厳しい政治判断的までもが物理的に視線に込められている気がする。


 場合によっては現政権にとり、命取りになりかねない。

 全面的に報道管制が敷かれている案件なのだ。


「わかりました、わかりましたよ。

 その案でやりましょう。

 皆さん、そう親の仇みたいに私を睨まんでくださいな」


 かくして、満場一致で麗鹿発案の極楽鳥捕獲作戦の罠が設けられる事に決定したのだった。


 会場には、何らかの対策が為される事が決まった安堵の気持ちと、その反面、リスクの大きな危うい罠を仕掛けることについての不安が鬩ぎ合うような、渾然とした空気に包まれていった。


 ただ麗鹿だけは、まるで彼らを見守るかのように、優しく微笑んでいたのが印象的だった。


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