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1-6 会議

 翌日、起き抜けにスマホが鳴ったので、寝ぼけ眼で手に取り発信者を見たら宗像修二であった。


 昨日の一件も報告しておくか。


 そう思いながら、まだ温かみを残し果敢に二度寝の誘惑をする、麗しのマイベッドへの未練を断ち切り、なんとか起き上がることに成功する。


 かなりの難業苦行であったのだが、彼女は見事にそのミッションをやり遂げたのだ。


 下着一枚にワイシャツだけという扇情的なスタイルで、真っ白なタオルを肩にかけ、洗面所に向かうその後姿は実に悩ましい。


 顔の造作も素晴らしいものだが、その眉の太さが当時は美女の証であったのだ。


 当時から比較的現代的な顔立ちであったので、あまり美女とは言われていなかったが、さらに現代での生活を経て不思議と現代人らしい容姿にシフトしたので、この現代ではどこに行っても充分すこぶるつきの美女で通る。


 眉だけは、見る者により好みが分かれるところだろう。

 麗鹿にとって、花愛しい者に褒められたこの眉を剃って弄る了見など、もとより無い。


 するとスマホがけたたましく派手な着信音を奏でた。


「はい、こちら麗鹿」


 スマホは片手に持っていたものらしい。

 さすがは、仮にも探偵の看板を上げている者か。


 やや寝起きの微量に不機嫌さの残る返答に、相手は謝罪した。


「ああ、起こしてしまったかな。

 悪い。


 おはよう。

 あれについて、何かわかっただろうか?

 今日、全体の捜査会議があるので、よかったら参考人として出席してほしいのだが」


「ああ、そこはかとなくではあるが、あれこれとね。

 実は昨日、あの後現場に行ったら、あれと遭遇したよ」


「なんだとっ」


 電話の向こうで慌てる声がしたが、こっちはマイペースだ。

 スマホを肩で挟んで、歯ブラシを取り出して歯磨き粉を付けている。


「んー、現場に行ったらさ、あいつの残留妖気が凄くてね。

 あれは『臭い』


 それで、そいつ本体が、あの場を乱した我々の存在に気付いてやってきたらしい。


 多分、あいつの捜す想い人が、あいつの気配に気付いてきてくれたとか思ったんじゃないのか?


 別に交戦したわけじゃないんだ。

 向こうは殺しにかかってきてたんだけどな。


 なんていうのか、向こうの攻撃は反射的なものというか、心ここにあらずっていうのかね。


 ありゃあ、重症だわ。

 なんかこう、色々と拗らせまくっているみたいだねえ」



 回線の向こう側で宗像が絶句している気配がしたが、どこ吹く風で歯を磨きだす麗鹿。


「でへえ、ひょうのはいひっへ、なんひから?」


「ええいっ、歯を磨きながら喋るなよ。

 9時から第1会議場でだ。

 来れるか?」


「いふ!」


「わかった。

 待ってるよ、鬼のお姉さん」


 そして歯磨きと洗顔を終えて、麗鹿は呟いた。


「そうか、会議か。

 他の人も来るんなら、シャワーも浴びておくかな」


 そう言って、ワイシャツと下着を手荒に脱ぎ捨てるのであった。


 鬼は人よりも体臭はきつめだ。

 すっかりと人間臭い生活に染まっている彼女は、まだ控えめな方なのだ。


 駅へ出て朝マックで朝食を片付けてから、少しのんびりしながらガラスの向こうの、慌しく通り過ぎていく通学や出勤途中の人々を眺めている。


 わざわざ桜田門とは反対方向の秋葉原まで歩いてやってきて。


 神田は好きなので、そこに事務所を構えているが、駅にマックが無いのが唯一不満だ。


 さすがに東京駅周辺に事務所を構えるのは困難だし、駅が巨大すぎて使い勝手が悪く、仕事で使うには却って不自由なのだが。


 神田は、東京駅から徒歩でもやってこれるし、山手線で短く一駅だ。


 歩くか電車にするかは、その人の年齢やその日の体力により選択されるような、はっきり言って東京駅圏内である。


 神田駅は小さな駅の割には、周辺に食い物屋が異様に多いのも、あの独特の雑多な雰囲気を放つ空間も、永い年月を生きてきた麗鹿には非常に魅力だった。


 大きなガラス越しに、人々がせかせかと歩く遠い風景を見ながら麗鹿は呟いた。


「人は、かくも忙しく立ち働く生き物なのであった」


 結構、こういうのは見ていて飽きない主義だ。

 永く生きていると、こういうのをゆっくり眺めたいというスタンスになる。


 この綺麗で大きなガラス窓っていうのはいい。


 昔はこういうのは無かったが、今は非常に安く手に入るらしいので、この種の趣の建物には不自由しない時代だ。


 麗鹿にとってはありがたい風潮だった。


 しかし、世が移ろえばこれも変わっていくのだろう。

 できれば、もっと退屈しないような物がじゃんじゃん出てくる景気のいい世の中になってほしい。


 海外旅行は嫌なのだが、宇宙旅行は行ってみたい気がする超我儘な麗鹿だった。


 この国は一般的な科学技術も建築技術も優れている。

 宇宙エレベーター、軌道エレベーターとかいう奴を作ってくれないものだろうかと願っていた。


 少なくとも、核戦争後の世紀末な世界で退屈するとかいうのだけは勘弁してほしい。

 それならそれで、その世界で大暴れでもしてやるまでなのだが。


 そして時間になったので立ち上がり、トレーを片付けると店を出た。


 あまりに早く出ると地下鉄が混んでいて苛立つので、大好きな人間鑑賞を楽しんでいたまでだ。

 ここまでの時間になると、通学者はほぼいなくなるので楽だ。


 また走って神田駅まで戻り、地下鉄銀座線に乗るのだ。


 秋葉原から神田まで山手線を使うのは、どう見ても麗鹿のような人外の体力を持つ者には使い勝手が悪い。


 ちなみに神田から桜田門まではICカードで使う定期券をもらってある。


 東京の地下鉄は運行間隔が短いので助かる。

 銀座駅も乗り換えは楽なので地下鉄を普段使いしている。


 最悪なのが渋谷駅だ。

 必要に迫られなければ絶対に行かないのだが、昨日はそいつに迫られてしまった。


 ただいま、8時50分。

 超余裕だ。


 警視庁建物の中へ入り、会議室の方へ向かうと慌しい気配が廊下を通して伝わってくる。

 今日の会議参加者はかなりの人数に上るようだ。


「おお、来てくれたか。

 こっちに座ってくれ」


「やだな。上座じゃないの。

 あっちの隅っこじゃ駄目?」


「駄目だ! お前は貴重な目撃証人じゃないか」


 すると、静やかに声をかけてきた人物がいる。


「その人が件の鈴木さんかね?」

「ええ、そうです」


「あー、えーとえーと。

 いやあ、人じゃあないんですが、鈴木です。

 どうも」


 誰だろうと首を捻っていたが、向こうから名乗ってくれた。


「どうも、警視総監の柳里是清です。

 よく来てくれました。

 もう、実に頭の痛い問題でして」


 そう言って、彼は他の人のところへ回っていった。


「おっと、ここの親玉さんだったのか。

 初めて会ったよ。

 特に興味とか無かったしね」


「今日は、警察関係者が勢揃いさ。

 警視総監も昨日から大変だ。


 今日は自衛隊からも参加してきている人がいる。

 いざとなったら出動を要請されるあたりの部署だな。


 外国からの軍事的な干渉には空自海自の出番と決まっているが、ここは陸自の出番だろう。

 俺達警察に、あれとやりあえと言われても困る」


 宗像の渋い顔だった。

 当事者というか責任者として、今日も会議の中心人物を務めるのだろう。


 麗鹿は、そんな宗像の顔を面白そうに見ているのだった。


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