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3-28 インタビュワー山崎

「あのう、ちょっと失礼します」


 いきなり、『人間風の者』に話かけられて、その波打ち際にいた河童は驚いた。


「あんたは、人間……じゃないな。

 鬼? いや、鬼の眷族か」


「いや、待て。

 その者は、何かおかしいぞ。

 河童? いや、違うのか。

 まさか、麗玉しりこだまの霊装持ちか?」


「なんですか、それは」と言いたそうにする山崎。

 だが、河童たちの騒ぎは収まらない。

 どんどん集まってくる。


「おい、みんな。

 何か、面白い者がいるぞ。

 鬼の眷族のくせに河童の特殊霊装持ちだ!」


「なんだと?」

「へえ、どれどれ」


 たちまち、物見高い緑の群れに取り囲まれて、目を白黒させている山崎。


 どうしたらいいの? とでも言いたいかのように振り向くが、援軍は無い。


「これはまた、珍妙な。

 カッパ・マスターめ。

 河童共にもてもてじゃのう」


「いやはや、なんというか。

 いいんだか悪いんだか。

 だが、仕事は若干進みそうな気はするなあ」


 完全に面白がっている麗鹿と、部下の置かれた微妙な雰囲気に困惑する宗像。


 困った山崎は、仕方がないので仕事をする事にした。


「あのう、皆さん。

 これから河童の集会なんですよね」


「おう、そうじゃ。

 もうすぐ始まるぞ」


「お前も出るか?」

「出るよな、当然だよな?」


 何か、山崎が強引に河童の集会に参加させられそうになっている。


 河童に両側から掴まれて、水中に引き摺りこまれそうな勢いに、慌てて取り繕う山崎。

 もう脹脛まで水に浸かってしまっている。


「ああ、僕ら水中は無理なんで、ここで参加させていただきますよ~。

 あ、そこにいる僕の主と上役の眷族も一緒でいいでしょうか」


「おう、構わんぞ。

 オブザーバーって奴よ」


「何しろ、河童の歴史が始まって以来の大集会だそうだからなあ」


『それ、いつから始まったんですか』


 聞いたとて、どうせまともに理解できない返答が返ってくるだろう事が予想できたので、その言葉を山崎は飲み込んだ。


 何しろ、その手の話題については、麗鹿と話していたって同様なのだから。

 頃合を見て傍にやってきた二人に向かって報告する。


「という訳で、警視長。

 我々も集会に参加させていただく事になりました」


「また、それはいきなりだな」


「まあまあ、いいじゃないか。

 願ったり叶ったりだよ。

 どうせ調べるんだから、特等席で見ようよ」


 面白い展開になってきて、楽しそうな顔でご満悦な麗鹿。


 どうせなら、あの青山とかいう狂歌の眷族の少女も連れてきてやっていれば、彼女を通してあいつも楽しめたのになと思うのであった。


 生憎と、彼女も今日は学校に行っているので無理だ。


 さすがに警察に協力するといっても、二日連続で学校を休ませて他県にまで連れて行くのはちょっと。


 そうすべき理由も無いのだし。

 狂歌も、傍勤めを卒業した眷族の女の子に対しては、過剰には干渉しない方針なのであった。


「まあ、仕方が無い。

 そっと見守るだけのつもりだったのだが。

 毒を食らわば皿までだ」


 宗像も無事に諦めたのを確認して、麗鹿は楽しげに河童の海を見詰めている。


 河童に引き摺られて、無様に湖にズボンの裾を濡らした山崎と、そのような醜態はけして晒さないダンディな宗像と共に、河童の集会が始まるのを待つ。


「ああ、親愛なる河童諸君。

 ついに時はきたれり」


 長老らしき、大きな年老いた感じのする河童が演説を始めた。


「ねえ、何か御大層な事が始まるんですか?」


 思わず、隣に立つ河童に聞いてみる山崎。


「いや、無いよ。いつも、こんなもんだ」


 ズルっと軽くズッコケる山崎。


「会議と言ったってなあ。

 中身は、ただ長老のお話を聞くだけなんだが、いつも話が長くてなあ。

 年々、参加者が減る一方でさ。


 それに対しても欲求不満の年寄り達が、若い奴らに大会議を企画させたのさ。


 しかも開催直前になって、『やはり、開催は、由緒正しき東北の地でやらねばならん』とか言い出しちゃってね。


 企画させられてる奴らも、参加者もそれはもうバタバタしたもんさ。

 まあ、それでも集まっちゃうのが河童なんだけどね。

 みんな、ゆるゆるだから」


 それを聞いて、なんだかなあと思う山崎であったが、一応はお仕事なので確認してみた。

 今度は反対側の隣にいる河童に。


「でも、環境会議とやらなんですよね」


「ああ、それ。

 無駄よ、無駄。

 そんなの考えるだけ、無駄だって。


 河童の住環境についての不満なんて、そりゃあもう何百年も昔から同じような繰り言を爺さん達が延々と言っているだけで、もうみんな耳に蛸ができてるって。


 まあ、確かに最近は人間も狼藉が過ぎるのだが、それでも爺さん達が言う事はまったく同じなの。

 若いヤツがどうの、昔は良かっただの、わしらの若い頃はあ、とか」


 お隣さんの、若干辟易したような解説を伺いながら困っているような感じで、足元を湖に浸したまま、妙ちくりんな顔をして振り向く山崎。


 それを受け止めた宗像も困ったような顔をしているだけだ。


 眷族化のせいか、その山崎と河童の会話も鬼の聴力で全て聞こえてきている。


 正直、これはキツイ。

 もう最後までいてもしょうがないのだが、山崎などは両側から河童に抱えられてしまったままだ。


 なんというか、『俺達だって聞いていたくはないんだ。ゲストのお前らも付き合えよ』みたいな感じなのか。


「これ、規模はでかいけど、本当にただの河童の集会だよね」


「ああ、しかも爺さん達の愚痴を、若いみんなで聞く大会だな。

 ああ、よく見たら寝ている奴らも多いな」


 だが、さすがに寝ているわけにはいかない、山崎と宗像。

 只今、勤務中の警察官なのである。


「いい報告書、書けそう?」

「麗鹿も、手伝ってくれる?」


「やだ。わたしの仕事じゃないもん」

「だよな」


「山崎が手伝うからさ」

「あいつは、元々俺の部下なんだが」


 そんな間抜けな会話をしながら、二人も延々といつ果てるのかもわからぬ河童の爺様達の愚痴を聞き流しているのであった。


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