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3-27 湖の中の海

 八戸駅でレンタカーを仕入れ、五十キロばかりの道を走り、一時間あまりの道のりで湖まで辿り着いた。


 今回は、やや峠道っぽい感じだったので、ワンボックスではなく車幅控えめのセダンにしてみた。

 やはり安定感はこちらの方が上だ。


 何気に山崎には気を使ってやる麗鹿だった。

 刑事の仕事以外では、非常に有用な男であると、その価値を大いに認めている麗鹿なのであった。


 その事実が、本人にとっていいのかどうかは別として。


「さて。どこで飯を食ったものやらな」


 鬼の強力な視力で、厳しく辺りを探査していく麗鹿。


 眷族秘書・山崎が当たりを付けてはいるのだろうが、自分の目でも探して楽しむのだ。

 昔は、スマホなんて物は無かったのだから。


 そして、見つけてしまった。

 勿論、見つけたのは麗鹿だけではない。

 

「ほっほ、これはまた。

 どうだ、鳴神」


「これはまた」


「ひゃあ、これは凄いな」


「なんともはや、こいつは凄いものだな」


 少なくとも、この四名には『視える』のだ。

 この河童の海が。


 いや、ここは湖なのであるが、そう表現するしかない。


 まるでガンジス川に沐浴する無尽蔵とも思える人々のように、湖一面に見られる、緑、また緑。


 勿論、それがそのまま人に見えてしまっているわけではない。


 それなら、大騒ぎになってしまっているだろう。


 だが、人の中にも妖しが視える者もおれば、何かの拍子で見えてしまうこともあるのも、また今回の河童事件の大きな特徴でもあったのだ。


「いやあ、壮観だねえ」

「凄いですよね、これ」

「うんざりするほどいるな」


 やや、肩を落とし加減でそれを見詰める宗像。


 どうせ写真に撮っても映っていないのだから、文章のみの報告書だ。

 リポーター泣かせとはまさにこの事。


「じゃあ、飯だな」

「そうだな」


 仕方が無く同意する宗像。

 今すぐ集会が始まる雰囲気ではなさそうだ。


 どっち道、腹は満たしておかねば頑張れない。

 車に乗り込むと、またスマホでさっと検索し直した山崎が運転席から振り返って訊いてくる。


「どうしましょうかね。

 ここって、いかにも郷土料理っていうかそういう食堂的なお店と、ネットで評価の高いお店などは湖の景色を楽しむ御洒落系の女性やカップル向きのところが多いようで、概ねそういう具合に別れるようです。


 夜は宿でガッツリといった感じなんですが、ランチとなると迷うところです。

 御土産屋を兼ねている店も多いですしね」


 だが、主は即答だった。


「そんな事は訊くまでもないぞ、山崎。

 もちろん、昼もガッツリとだ。

 美味そうな食堂に突撃だ。

 梯子でも構わん」


「アイアイサー!」


 水回り的な、ウエットな題材の事件のせいか、眷族山崎の返事も海軍風だ。


 またかと思いつつ、些事は放っておく宗像。

 せめて、自分の士気の低さをこいつらに補ってもらいたいと真剣に考えていたくらいなのだから。


「若いっていいな」


 ふと、そんな事を考える宗像。


 自分も歳を取ったのだと改めて思ったが、そこに自分など問題にならぬくらいに歳を取っている奴がいるのだが。


 そいつは、とてもそんな気配は微塵も見せていないのだ。


 仕事の厳しさの合間に、宗像も人生と老いについて考える。


 自分もそういう歳になったのだと思う事にして、一旦そういった考えは切り上げる事にした。

 そこの鬼でも見習うとするか。


「山崎。

 俺は、ヒメマスがいいな。

 昨日は、がっつりと肉だったからな」


「あ、ズルイぞ、宗像。

 と言いつつ、わたしの胃袋もヒメマスは外せないんだよ」


「了解。ではヒメマスを求めて、出発しまーす」


 そのまま数キロ走り、レストラン街というか食堂街の端にある高評価の店を狙った。


 子供連れ向きとあったが、『ヒメマスが美味い』という口コミに負けて入店、そして大満足だった。


 ネットの高評価は伊達じゃない。

 御洒落な部分は皆無な店なので、味だけで評価されているのだ。


 だが、隣の食堂ではB級グルメと謳われるバラ焼きをやっているので、賞味しに梯子する麗鹿。

 ここも、かなりの高評価を得ているのだ。


 料理は違えども、さっきの店と同等の美味さで、御土産屋ではなく純食堂であるので、それは当然の評価なのかもしれない。


 お伴をするのは山崎だけで、宗像は辞退して車の中だ。


「お前ら、本当によく食うな」


「警視長、食わないと頑張れませんよ!」


「そうそう。

 いよいよ、会議なんだぜー。

 どうする?」


 いかにも、わくわくが止まらぬという風情で、麗鹿は食堂の駐車場で腕組みをして立っている。


「そうだな。

 河童さんにインタビューと洒落込むか。

 山崎、胡瓜の仕度は?」


「はあ、かなりの量を集めましたが、これだけの河童がいますからね。

 やたらと出すと、パニックになるのではないでしょうか」


 おそるおそるといった感じで、河童の海を思い起こす山崎。


 あの河童の海に胡瓜を与えるとなると、大型トラックで輸送しても間に合うまい。


 さすがに出費的にもキツイと思うし。

 いかに日本政府が払ってくれるとて、はたして警視総監が決済できるだろうか。


「そうか。

 とりあえず、胡瓜なしで話ができるか?」


「そうだな。

 相手は煮ても焼いても食えない連中だ。

 そこの『カッパ・マスター』に挑戦してもらうとするか」


「え? 僕?」


 宗像も、繁々と山崎を観察していたが、ふむと頷いた。

彼にも『視える』のだ。


 この山崎の首筋に張り付いて、今や体の半分ほどまでに広がってしまった、あの『紹介状』という名の霊装が。


 カッパからもよく見えるだろう。

 あの広瀬太郎という大河童、なかなかの霊力の持ち主のようだった。


 あの巨体でもあったのだし。

 もしかしたら、地元とかで祀られている水神なのかもしれん。


「よし、山崎。いってこい」


「はあ。集会について、聞いてくればいいんですよね?」


「そうだ」

「頑張れ、山崎ー」


 面白がって嗾ける麗鹿。

 連中から、どんな反応が返ってくるのか、非常に楽しみなのだ。


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