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3-25 遠野の里

 無事にわんこそばをたらふくと心ゆくまで食い終わり、ほぼ満腹のライオン化した麗鹿。


 今日もワンボックス車を借りさせ、真ん中のシートに陣取り、シートを目一杯スライドさせ、背もたれを思いっきり倒して大鼾だ。


 まさに鬼を接待して腹一杯飲み食いさせたら、こうなるだろうという見本のような女だった。


 だがそうしていると、数多の妖物を始末して多くの人命を救ってきた伝説のヒロインにはとても見えない。


 だが、それは正しく日本の歴史の中で『鈴鹿御前』と呼ばれてきた、正当なる鬼斬り鬼として生きてきた神鬼である事に、何ら変わりはなかったのである。


 盛岡まで行ってしまったので、少々大周りで遠野に向かいながら、運転手の若い山崎が何の気なしの会話を始める。


「遠野かあ。

 行った事は無いですが、昔から不思議な物語の舞台的な扱いですよね」


「そうだな。

 ある意味、河童の里なんてあってもおかしくもなんともないが、どちらかというと山の中っぽい雰囲気だよな。

 猪苗代湖や十和田湖の方が、河童の根城には向いてそうな気はするのだが」


 わざわざ盛岡まで新幹線でいったのに、盛岡インターから東北自動車道に乗り、遠野まで行くのだ。


 まあ、花巻ジャンクションから釜石自動車道に乗れば、すぐに遠野に辿りつけるのであるが。


 インターを降りた山崎が尋ねる。


「麗鹿さん、麗鹿さん。

 これから、どこへ行けばいいんですか?」


「お、おう。

 もう着いたか。あざ丸」


 あざ丸が収納から出してくれた、大河童から貰った紹介状を山崎に「くっつけた」。


「あ」


 そう。

 霊装状文であるため、そのような事も可能とするのだ。

 いわば、『霊装ナビ』である。


「こっちか。右ですね」


 釜石街道へと入り、そのまま行政センターなどを越え、市街地を通り主要道路へと向かった。


 だが、やがてその道も必然的に細くなっていくであろう。


 そのために、本日のレンタカーのチョイスは『トヨタ・ヴォクシー』


 ハイパワーモデルを除けば幅は百七十センチと、昔の5ナンバーサイズで細道を行くのに都合がいい。


 それでいて中は広く、特に二列目シートは麗鹿が寝ていくのに丁度いいという、今日のミッションに合わせたベストチョイスだ。


 そして、その主要道路も目的地に着くや、しばしのお別れとなった。


 そこは『遠野第二ダム』

 ネットの地図で見ると、まだ何か工事中だ。


「なあ、麗鹿。こんなところが、本当に河童の里なのか?」


「ああ、少なくとも『今』はな」


 どういう意味だ、と思った宗像ではあったが、気まぐれな河童のことだ。


 何かあれば、またどこかに移動するのであろう。

 とりあえず、ここが現在の河童の里らしいのだから。


「河童さん達、いるかなあ。

 あ、いますねー」


 だが、気配だけで姿は見えず。

 そして、麗鹿は両手に胡瓜を持って叫んだ。


「おーい、河童の里のみなさーん。

 胡瓜の配達でーす」


 そんな呼びかけに応じるものなのか?


 作業の方々に見られていないか、気にしながら見守る宗像。

 人が見たら、「この女、気が触れてるんじゃないか」とか思われそうだ。


 この探し方については非常に懐疑的な宗像であったのだが、そんな事には一切お構いなく、あちこちからわらわらと沸いてくる緑色の方々。


 がっくりと地面に膝を着きそうになる宗像。


「里に入るには紹介状が要るんじゃなかったのかよ……」


「言うな、宗像よ。

 こやつらには言うだけ無駄な事よ」


 そんな鳴神の慰めにも、いま一つ浮かない宗像なのであった。


「そうだったなあ」


 そんな彼らを尻目に、河童達は和気藹々と胡瓜を受け取っている。


「なあ、知らない人間に姿を見せたらマズイんじゃないのか?」


 ふと気付いた感じで河童の一人が口に出す。

 もっとも、その両手には胡瓜がいっぱい握られていて説得力はまるで無いのだが。


 もう一人、隣でやはり両手いっぱいに胡瓜の掴み取りを演じている河童が答える。


「馬鹿だなあ。

 これは鬼と、その眷族じゃないか。


 人間じゃないのだから、いいんだよ。

 それに、ほれ。

 そこの小僧の首筋を見ろ。


 広瀬太郎さんの紹介状が融着しているじゃないか」


「え?」


 慌てて首筋に触る山崎。

 どうやら、紹介状は既に役に立っていたらしい。


「れ、麗鹿さん。

 融着って?」


「ああ、くっついちゃったな、それ。

 気にするな。

 一生取れそうも無いが、無害な霊装だ。


 一生、河童の里では歓迎されるぞ。

 だが、土産に胡瓜は忘れるなよ」


 そんな風に、事も無げに言う麗鹿。

 思わず、宗像と顔を見合わせる山崎。


「あ、あのなあ。麗鹿」


「いや、あの太郎さんさ。

 気軽に作っているから使い捨てのアイテムだと思っていたが、一生物で使える霊装だったなあ。


 山崎、お前はもしかしたら胡瓜で河童を召喚する事のできる、いわば河童王になったやもしれんぞ」


 面白さを堪えきれないという感じに笑い転げんばかりの麗鹿。


「河童召喚……ですか!?」

「面白くていいじゃないか」


 うーむ、と思わず唸る山崎と宗像。

 だが、山崎は気楽に言った。


「それもそうですね。

 じゃあ、河童さん達ー。

 今後とも宜しく~」


 それを聞いた河童の一人が笑顔で言った。


「おう、胡瓜は忘れるなよ、若いの」


 それを見て、更に爆笑する麗鹿なのであった。


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