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3-22 河童達の事情

 結局、麗鹿がもう一軒行きたいと言い出したので、真昼間から牛タン店を梯子する事になった。


 普通の人間でも、ここへ来たら牛タン定食をランチで梯子する人など結構いるので、何も問題は無いのだが。


 麗鹿の場合はランチセットなどという生易しい食ではありえない。

 呑み放題、食い放題状態だ。


 大概の飲食店の人が、彼女の食いっぷりには毎回驚くようだ。

 同行の人間とのコントラストが、あまりにもはっきりし過ぎているので。


「なんだ、宗像。

 せっかく梯子したんだから、お前も二人前くらいはいったらどうなんだ。


 牛タン、美味かったなあ。

 東京にも、ここの牛タン通りにあるお店の支店があるんだよな。

 今度行こうっと」


 もちろん、何かの事件の打ち上げで宗像に御馳走させるつもりなのだが。


「お前と一緒にするな。

 こっちの胃袋はただの人間だ。

 もう若くはないんだからな」


「そんなことだから、この程度の行軍でひいひい言うのよ。

 昔の日本人ときたらなあ!」


 そんな二人のやり取りをにこにこしながら見ていた少女は、頃合を見て言った。


「皆様、今夜の宿はもうお決まりでしょうか?」


「いや、まだだが」


 それを聞いて、いそいそとスマホを取り出し検索しようとする山崎。


 それを真っ白な、かつてあの狂歌が愛したであろう、細くて柔らかそうな手で軽く制した少女は言った。


「この仙台駅前には温泉付きのホテルもたくさんございますので、そちらからお選びになられては。

 観光案内所で斡旋してくれますから」


 そう言われて拠点の確保のため、少女の後をついていく一行。


 もうどうせ、明日も次の地、おそらくは本命である十和田湖を攻めるのだ。

 駅の近くに居座ったほうがいいのに決まっている。


 少女の案内で、なかなかのホテルを確保した一行は駅に舞い戻り、レンタカーを手配した。


 今回は高級車が手に入らなかったので、足はこれも比較的高価なワンボックスにした。


 中が広いので四人なら充分ゆったりできる。

 シートや内装の出来が違うので、充分にリラックスできる。


「では、川を順に回りましょうか。

 ここの河童は川にいるものが殆んどです。


 ここは西日本とは違い、河童の数が多いので残っている者もいるのではないでしょうか。

 はぐれ者みたいな河童が多いかもしれないですが」


「へえ、やっぱりそうなのか?

 確かにいる気配はするな」


 麗鹿の問いに少女は、その辺の男なら一発で蕩けてしまいそうな笑顔を添えて、応えを返す。


「はい。

 河童の社会というのは、案外と狭いというか、田舎の付き合いというか。


 こういう時にちゃんと出席しないと、仲間外れにされてしまいますからね。


 なまじ、空間妖術で移動できる分、そういう事には煩いそうで。

『いつでも来れるくせに何故出てこない』と。


 それで、河童たちはあのようにバタバタしているのですよ。


 ただ、そんな事はお構い無しの連中も常に一定数はいますし、東京などにいるのは都会暮らしに憧れた河童たちなので、そのような『しきたり』は古い風習だといって見向きもしないようなのですが。

 そういう事がまた、昔気質の長老達には気に入らないようですので」


「やれやれ、河童社会もせちがらいな。

 しかし、それにしても大掛かりだな。


 日本政府がだいぶ焦っているみたいだぞ。

 こういう事が何か重大事の前触れなのではないかとな。

 わしはそうは思わなんだが」


「なんと言いますか。

 河童の長老達も、長年溜め込んだものが沸々とマグマのように滾って爆発寸前なんじゃないですかね」


 少女は笑って、とんでもない事をさらりと言ってのけた。


「リミットブレイク?」

「はい」


「あっはっはっは」


 鬼と吸血鬼の眷族は、お互いに顔を見合わせて大笑いしている。

 その一方、新米の鬼の眷族は苦い顔付きで少女に尋ねる。


「えー、青山さん。

 具体的に言うと、そのリミットブレイクとやらで、何かが起きるのかね?」


 そこが肝心で、必ず持って帰らねばならない土産なのだ。


「いえ、特にそういう事はないのじゃありませんか?

 河童社会の問題ですので。


 ただ、それのテーマが『環境』というのが、気がかりといえば気がかりなのですが」


「というと?」


「ええ。

 河童の住環境に関しては、人間が多大な影響を及ぼしている可能性があります。

 つまり、人間に対する不満も槍玉に上がる会議なのではないかと。


 長老達の若者に対する不満と合わせて、河童の二大不満と言えるものなのではないかと思いまして」


 うーむと唸る宗像。

 その場合、河童が人間に仇を為す動きがないとは言い切れないではないか。


 麗鹿達の話によれば、怒らせたら非常にまずそうだ。

 数はいっぱいいるようなのだし。


「麗鹿、お前はどう思う?」


「さてね、それこそ聞いてみねばわからんよ。

 少なくとも、会話はできない事もない相手さ。

 ただ、話が通じるかどうかまでは知らんがね」


 今までの経緯を思い出し、なんとも言えない表情で答える麗鹿。

 それを見たガイドの少女は提案してくれた。


「それでは、皆様。

 明日は集会場である十和田湖へは直接向かわずに、遠野へ行かれては如何でしょうか。


 そこには『河童の里』がございますので、何かお話が聞けるかもしれません。


 ただ、河童の紹介がないと人間などは、ああ、鬼の麗鹿様でも入れませんね。

 彼らの結界は強力でございますれば」


「河童の里? そんなものがあるのか。

 遠野だと。あの岩手のか」


 遠野、よく妖怪の住まう舞台として物語にも書かれたりする場所だ。

 何か美味い物はあったかなと数百年分ほどの記憶に、心を巡らせる麗鹿。


「はい。

 それもあって、今河童を探しているのです。

 里への紹介者として。


 ほら、さっそく強い気配がします。

 いますね、この川に強力な河童が。

 その者ならば紹介くらい、たやすい事でしょう」


「宗像。盛岡には行くぞ。

 そこから遠野までゆけばよい」


「ああ、わかった、わかった」


 もう車は川付近へと到着していたが、運転手の山崎はどうしたものかと思っている。


「車、どこへ止めましょうか」


「じゃあ、その辺の河川敷駐車場へ適当に御願いします」


 そして、案内標識に従って一行を乗せたレンタカーのワンボックスは、緩やかに駐車場へと滑らせていった。


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