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3-20 湖探索

 人気で、些か込み合う地ビール館にある二階のスペースで、しっかり地ビール五種のお試しセットを堪能している麗鹿。


「次は三杯までだぞ」


 宗像から言われて、本番のその三杯もじっくりと堪能していた。


 更に、御土産の地ビール各種とオリジナルソーセージを御土産として確保して、名物のビールソフトクリームを抱えてやっと退館し、かなり満足した様子だ。


「まったく。

 まだ仕事が残っているのに、もう昼をだいぶ過ぎちまったじゃないか。

 今日は出来れば次の街まで車で行きたいところだ」


「駄目だな」

「なんだと?」


「お前がオーバーワークだ。

 警視総監には、もう電話しておいた。

 上官命令で、本日はこの辺にある温泉旅館にお泊りさ。


 どの道、まだ仙台と盛岡と十和田湖が残っているんだ。

 全部回らないといけないんだからな。

 そうしないと日本政府も納得しないだろう」


 それを聞いて、ぐうの音も出ない宗像であった。


「まあ、そんな顔をするな。

 多分、日本政府の心配するような事は起こるまい。

 あの河童という奴らのやる事だからな。

 鳴鈴も同じ意見だ。


 この騒動は、奴ら自身の問題で起こしておるものなのだ。

 何故、今回だけこのような大騒動になっておるのかはわからんのだがな。

 それもきっと、現地に行けばわかる」


『年上』に言い聞かされて、ふうと息を吐いて力を抜いた宗像。


「そうか、そうならいいんだがな。

 確かに俺は疲れている。

 自分でもその自覚は充分にあるからな」


「ま、ちっとくらい力抜けよ。

 そのうち、河童の海には出会えるだろうさ。


 行った時には集会も終わっているかもしれんが、その時は後で、どこかの適当な河童を捕まえて話でも聞くさ」


「そうか」


 まあ、それもいいかもなと思ってしまった宗像。

 体が弱っていると碌な事がない。

 心も弱気になるようだ。


「あ、温泉は湖から十キロ行かないくらいのとこがいい感じだから、そこに決めたよ。

 結構いいお湯らしい」


 自分の好みで、さっさと決めてしまっている麗鹿。

 反論する気力も湧かない。


「お次は遊覧船だな」

「おい」


 あくまで観光気分か、と顔を顰める宗像。


「奴らのテリトリーである湖の上に出られるんだぞ?

 陸から見るだけより、よっぽどかよいと思うのだが」


「そ、そうだったな。

 仕方ない、それでは行くとするか」


 そして、麗鹿は遊覧船を心ゆくまで楽しんだのだった。


 その間、山崎はしっかりと目を凝らし、気配を感じ取ろうとしたのだが、残念ながら全ては無駄に終わった。


 いや、それを確認したという事実が報告書には必要だったのだ。

 湖上から確認できたのは、報告書にとっては大いに足しになったであろう。


 この猪苗代湖は、河童大集会会場の容疑者の一人でもあったのだから。

 どうやら無罪に終わりそうな按配であったのだが。


 それから湖の周回道路を一周して、時折車を降りて確認してみたのだが、やはり河童は欠片さえも見当たらない。


「どうやら、十和田湖が最終目的地になりそうな按配だな」


「でも、結局は全部捜査しないといけないんですよね」


「そういう事だな」


 それが警察という物のお仕事なのだから。

 そして諦めて、本日は温泉に大人しく護送されていく宗像なのであった。


 温泉は無料足場も置かれていて評判のいいところだった。

 麗鹿が山崎に命じて、宗像をたっぷりとお湯につけて戻しておいた。


 そして、今夜も地元産食材をたっぷりと奢った料理に舌鼓を打ち、例の地元の名産牛も見事に腹に収めたのであった。


 翌朝ゆったりと宿を出て、時間いっぱいでレンタカーを戻し、その足で新幹線に乗り込んだ。


 もちろんグランクラス席だ。

 郡山から仙台に行くなら、やまびこ号に乗るしかない。

 昨日よりは体調もだいぶマシそうな宗像。


 実は軽く眷族化の処置を施してある。

 これくらいならば、そう支障はあるまいというレベルに抑えられているが。


 あまり気乗りしない宗像であったが、この目で河童を見ておくのも一興と同意した。


 やはりゾクゾクと体に走る感覚は、とんでもないものであったが、きっちりと堪える宗像であった。


 この辺が山崎あたりと、鬼の警視長を隔てるものであろう。


「次は仙台かあ。

 何が美味いのかなあ」


「お前はそればっかりだな」


「美味い物が好きで何が悪い!」

「いや、それは別にいいんだけどな」


 それから僅か39分で仙台まで着いてしまった。

 もちろん麗鹿は例の拘りによって、車内のビールは無しだ。


「この近辺に大きな湖のような物は無いようなのだがな。

 こんなところで河童の目撃例が多いとはな」


「それは、この辺りには元々河童が多いからなのです。

 東北自体がそうなのですが」


 いきなり前置きなしに後ろから少女に話かけられて、驚いた一行。


「誰だ、君は?」


 宗像の問いに、そのセーラー服を着た美少女は、にこっと魅力的な唇を柔らかく開いて笑って答えた。


 眷族化の影響で、宗像にもその少女が尋常な者ではないのは、すぐに理解できた。


「皆様がやってくるのを、お待ちしておりました。


 私は狂歌様の元眷族で、青山愛美と申します。

 お傍づとめもさせていただいた事があります。


 いえ、心はまだあの方の眷族なのですが。

 家の都合でのお引越しで狂歌様と離れ離れになってしまいました。


 とても悲しいです。

 しかし、あの方は言ってくださいました。


『たとえ離れていても、お前は私の可愛い子。

 いつか、お前に何かを御願いするかもしれない。

 その時は頼んだわよ』と。


 私は嬉しさのあまり、泣いてしまいました。

 そして今、その時がついに来たのです!


 あと、狂歌様から伝言です。

 御土産ありがとうって。


 ここでの狂歌様への御土産のチョイスは、是非私にお任せくださいっ」


 これはまた重症な奴が現れたものだなと思った麗鹿ではあったのだが、ガイド付きとはありがたい。


 ちょっと心の中でほくそ笑んだ麗鹿なのであった。


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