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3-19 魅惑の猪苗代湖

 駅から国道49号線を目指して西へ進み、後は郡山インターから東北自動車道へと抜けて、郡山ジャンクションにて常盤自動車道へと乗り換える。


 山崎はスムーズな運転で、その巨体を持つ高級車を操り、高速道を走らせた。


 とても、普段目立たない車でこそこそと尾行などをやっているとは思えない、堂々とした運転ぶりだった。


 麗鹿などは、ごろごろと喉を鳴らしそうなほど大層ご機嫌だった。


 しかし、あっという間に猪苗代常盤高原インターに着いてしまい、麗鹿が残念そうな声を上げる。


「えー、もうちょっとドライブしようよ~。

 せっかくのいい車なのにー」


「これから湖を回るんだからいいだろう。

 それより、うっかりしていたんだが、まだ胡瓜の在庫ははあったか?

 肝心の物が無いと、河童は相手をしてくれんのだろう?」


「ああ、それなら山崎に買ってこさせてあるから大丈夫だ」


「そうだったか。ありがとう」


 にっこりと笑顔を返す山崎。

 もう、すっかり高級車の運転手気取りだ。

 八百屋への使いっぱしりも兼ねているのではあるが。


「それでは、道の駅があるので寄っていきますね。

 警視長の御飯がまだですから」


「そうだった。

 チェックアウトぎりぎりで出てきたので、すっかり忘れていた。

 駅で弁当でも買えばよかったのだが」


「仕入れてきた餃子弁当とビールはまたの機会に回すとして、せっかく来たんだから、こういうところで食べようよ~」


 餃子弁当は持っているのに、こっちで食べたいので宗像にはやらなかった。

 そもそも、あれは麗鹿のお楽しみなのだ。


 まだ早い時間なのに食う気満々の麗鹿。

 それに、あざ丸の収納に入れておいた物は腐らないので大丈夫だ。


「わかった、わかった。

 本当によく食う奴だな」


「だって長生きすると、それくらいしか楽しみがないんだしー」


 そうだった、と苦笑する宗像。

 麗鹿とは、そこそこに気安い関係だ。


 時折、その見かけに騙されそうになるが、相手はそういう者なのであった。


 平日ランチは11時からなので、丁度オープンしたばかりで、まだがらがらだ。


 そして、タッチパネルの券売機のメニューを見るなり、麗鹿の判断は速攻だった。


「よし、決めた」

「ほお、何にしたんだ?」


「ビール、生大」


 地ビールもあったのだが、ここでは生ビールの誘惑に負けたようだった。


 宗像が呆れた顔をしているのを無視して料理の注文に入っていく。


「会津地鶏プレミアの唐揚げ定食。

 猪苗代産そば粉天の香を手打ちした蕎麦とやらの、もりそばと天ぷらのセット。

 猪苗代産蕎麦粉は、天の香というのか。

 あと、猪苗代町産のお米で炊き上げた、かまど炊きごはんとやらを一つ。

 以上だな」


 さっさと、自分の分の注文をタッチして、購入は山崎に任せる麗鹿。


「えーと、警視長は何になさいますか?」


「そうだな、俺もその釜飯とやらをいただこうか。

 朝は、やっぱり米を食わないと元気が出ん」


「もう昼だぞー」


 さらっと茶々を入れる麗鹿。


「うるさい。

 お前こそ、そこの高い猪苗代サーロインステーキとかを食わないでいいのか?

 今日はやけに小食だな」


 いつものように、宗像も混ぜっ返す。

 それでも麗鹿の食事は軽く三人前の分量なのだが。


「今日はいいよ。

 まだどこかで何か食う予定だし」


 どうやら湖畔で、まだ食い漁る予定だったようだ。


「あー、僕は『もりそばとソースかつ丼』で。

 あと塩チャーシューを一つ」


 こちらも結構食う山崎。

 眷族になると、食欲も主人に近くなるのであろうか。


 料理が出来ると呼んでくれるので、何度も運ぶから受け取り口に近い場所に陣取った。


 やがて満腹で満足そうなライオンならぬ鬼を乗せて、昼間の宴席を終えた一行は湖へと向かった。


「お姉さんにも聞いてみたけど、やっぱりかなりの規模で河童騒動があったようだね。

 お客さんでも見た事がある人がたくさんいたって」


 ちゃっかり、お愛想で聞き込みを済ませていた麗鹿。

 だてに千年近くも生きてはいないようだ。

 亀の甲より鬼の功。


「そうか、それで今は?」


「山崎君のご意見は?」


「いや、さっぱりですね。

 お留守番の子供一人いませんよ。

 いたような気配はあるみたいなんですが。

 そうですよね、麗鹿さん」


 黙って笑顔で頷く麗鹿。


「そうか。ここも空振りか。

 すると、段々十和田湖説が濃厚になってくるな。

 だが、一応は湖を回ってみたい」


「わかりました。どっちから回りますか?」


「右!」

 何故か強行に主張する麗鹿。


「河童がいるのか?」


「いや、それはわからんが、とにかく右だ。

 何か、予感がするのだ!」


 やれやれといった感じで山崎に指示を出す宗像。


「右から回ってくれ。

 主要道路でいいぞ。

 この車で狭い道はなんだしな」


「はい。それでは、ぐるっと一周行きましょうか」


 だが三キロほど行ったところで、いきなり麗鹿が叫ぶ。


「止まれっ!」


「どうした? まだ湖は先だぞ?」


「見ろっ、あれを!」


 山崎は後方を確認してから、素早く車を道路の端に寄せてハザードを点滅させる。


「何っ、何かあったか」


 緊迫した麗鹿の声に緊張して構える宗像。

 だが、そこにあったのは。


『猪苗代地ビール館』


 思わず、シートの上でずり下がる宗像。


「お、お前なあ。

 さっき、あれだけ呑んできたろ」


「やだ。絶対に行くんだ。

 地ビールは飲まずに後の楽しみにしておいたんだからな」


 じたばたして、喚きながら国産最高級車のリヤシートで両手を振り回す麗鹿。


 こうなったら梃子でも動かないというか、初志貫徹を決め込む女なのだ。


「では、参りましょうか」


 主に忠実な下僕は、するりっと車をその魅惑の施設に運び入れた。

 やれやれといった感じの宗像の冴えない表情を載せて。


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