3-15 城址公園
その後、麗鹿にしては珍しくビール二杯で切り上げて、まだ他の店に客が入らぬうちにと駅から徒歩二分の駅ビル一階の店へと速攻で滑り込んだ。
ここは美味い餃子店が多く入っているらしい。
今日は胃袋がすっかり餃子モードのために次の店で待たされたくなかっただけのようだ。
「ようし。
この店では腰据えて飲むぞ。
そうしておけば、次の店では空いてくるだろう」
なかなか戦略的だった。
千年近くも飲み歩いていれば、経験豊富で飲み処の攻め巧者という事なのだろうか。
そんな、さっそくビールを大ジョッキで注文している麗鹿を尻目に宗像が尋ねる。
「それで、山崎。河童はどこから攻める」
「はい、この近くには田川があり、その川向こうに宇都宮城址公園がありますので、まずそこへ行きましょう。
先に、その宇都宮城址公園へ行ってみてはどうでしょうか。
そこはかなく、そこに河童の気配があるような。
特に強いものではありませんが、お留守番か何か?
川の方は今一つという気配ですね。
そこにはいないんじゃないですかねえ。
まあ、城の方に行ってみて駄目だったら川で捜すという事で。
しかし、そこの川よりは他を当たって見た方がいいのではないかと。
そういう雰囲気です」
山崎は、見事に河童レーダーの役を果たすようになっているようだ。
「それで合っているか、麗鹿」
「ああ、大体そんなもんだ。
やるじゃないか、山崎」
ビールを口につけながら『眷属』を褒める麗鹿。
さっそくやってきた熱々のネギ味噌焼餃子に被り付く。
鬼だけあって、少々熱いのは平気なものらしい。
やはり、鬼には味噌なのか。
続けて、嬉しそうな顔をしてビールを喉に流し込む。
「明日はどうするんだ?」
「ああ、山崎の資料チェックによると、次は猪苗代湖あたりか。
そして仙台付近に盛岡、そして十和田湖だ。
北海道のあたりは少ないようだ」
麗鹿も少し考える風で答える。
「鳴神、どう思う。
わたしは、おそらくは最初は西日本、多分大阪あたりで集まる予定だったものが、東北の北部に変更になったように感じるが」
「まあ、河童の現われ方を見れば、その考えで概ね正しいのかもしれんな。
大湖である十和田湖など怪しいように思うが」
「それを言うのであれば、西は琵琶湖あたりに集まっていてもおかしくはないのだがな」
狭い会場には、おそらく入りきらないだろう、緑の大集団。
「まあどの道、会場は変更になった。
順に当たってみればよいのではないかな。
それで集会が終わってしまったのなら終わってしまったで仕方あるまい。
とりあえず、宗像がレポートを出せるようにしてやらねば、なんともなるまいよ。
お前の食道楽のために旅に出たのではないのだからのう」
「あっはっは、そりゃあそうだ。
でも食うけどね」
そう言いつつ、餃子の残りに齧り付くのであった。
ゆったりと楽しみ、頃合を見て締めのお店へと移動する。
ラーメンも美味いと評判の店だから。
目論みどおりに平日の昼飯時を過ぎ、楽々席をゲットした一行。
例によって、いきなりビールを注文して座る麗鹿。
「さて、城址公園か。
昔ながらに風情のあるところだといいのう」
「さあ、そればっかりは行ってみないと、なんともいえませんがね」
そう言いつつ、軽く下調べした内容は麗鹿のご希望には沿えないものだとわかっていたが、『ご主人様』を、早めにがっかりさせるのが忍びない山崎なのであった。
日本全国、概ねそうなのであるから仕方がない事だ。
明治維新の際にも多数の城などが破壊されてしまったはずだ。
そこから、早く仕事に行きたそうな様子の宗像を尻目に、ゆっくりと餃子とラーメンを堪能する麗鹿。
そして、ようやく現場に行ってみると、なんとなく現代風で観光用に建てられたような趣だ。
名称は天守閣とは書かれずに、櫓と表されている。
確かに城というには少しばかり寂しい物のようだ。
公園の真ん中には城跡と記されている。
おそらくは天守閣に設けられた櫓のようなものの再現なのであろう。
些か、表情にも失望を露わにする麗鹿。
この場所は税金を払う地元市民の間でも賛否両論だそうであるが、昔を知る生き証人にとっては、寂しいものがあるのだろう。
それでも市民の中には、このように公園が整備されて喜ぶ人達もいるわけなので、部外者がとやかく言うものでもない。
子供達が見れば、充分に喜ぶ代物だろう。
「ああ、ここは戦災や開発などで完全に失われました。
完全に公園の施設として建て直されたものですから。
まあ、それは仕方がありませんよ。
ちゃんとお城風に建ててくれてあるだけでもいいじゃありませんか」
「まあ、そうよのう」
そして宗像以外の『三人』は、河童の気配を探った。
こと河童探索に関しては、鬼の宗像と呼ばれた男も形無しだ。
「ああ、おるな。あそこに見える」
櫓の袂から、六十メートルほど離れた橋の下を指差す麗鹿。
ゆっくりと近づいていくが、河童は逃げたりはしない。
よく見ると今まで見てきた河童よりもサイズがかなり控えめだ。
「おや、子供の河童か?」
「へえ、河童に子供なんているのか?」
宗像も少し興味を引かれたようだ。
みんなで覗いていると、河童が声をかけてきた。
「お姉さん達は誰? 僕が見えるの?」
やはり、子供のような可愛らしい声だ。
近くで見ると、顔も確かに可愛らしい。
「ああ、私も鬼だからね」
「ふうん。鬼さん、こちら」
そう言って、ちゃぽんと水に潜る河童の子。
「ああ、待て待て。
聞きたい事があるのだが」
「子供から聞き出せますかね。
お留守番しているだけっぽいですし」
「頼むから、聞いてみてくれ」
レポート、報告書を出さなければならない宗像が哀願するかのように頼み込む。
「あいよっ」
そして、例によって羽衣を纏い、麗鹿は堀に舞い降りた。




