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1-4 動画鑑賞

「やあ、麗鹿。

 また、例の事件の犠牲者が出てしまったよ。

 今度は下手人の動画を残してね」


 翌日、朝っぱらから宗像に呼び出されて、またあの小部屋で話を聞いていた麗鹿。


「動画?」


「ああ、何を思ったのかは知らんが、今回の犠牲者の彼は死の直前、何故か逃げ出すこともしないでスマホで【アレ】を撮影して残したのだ。


 その、こう言ってはなんなんだが、我々にとっては大いに助かる。

 このままだと、手掛かりなく犠牲者が増えるばかりなのでな」


 麗鹿は少し考えるようにしていたが、【彼】が訊いた。


「鳥だったかね。しかも、ガルーダ」


 宗像は、その言葉に少し驚いたような顔をしたが、別にその姿無き主からの声がした事に驚いたのではない。


【彼】もまた、この警視長自らがトップである、『対妖魔特別捜査室』の一員なのであるから。


「そうだ。よくわかったものだね。

 この禍々しい物は、おそらく世間ではガルーダと呼ばれている存在なのに違いない。

 もし、その伝説の代物が、この世界に実在するとしたならば、の話ではあるがね」


 そう言って、彼はプロジェクターを操作し、その命と引き換えの貴重な映像を映し始めた。


 撮影者が震えまくっているので恐ろしくぶれぶれであったのだが、警視庁で補正作業を終え、なんとか見られるものになっていた。


 空中に羽ばたく事さえなくピタリっとホバーリングし、じっと撮影者を見ているのがわかる。


 それは、まるで『愛おしい』とさえ思っているような、そんな眼であった。


 ギリシア神話などで人を誘惑する有翼の魔物が、こんな眼をするのではないだろうか。


 だがそいつは、美しい歌声で誘惑するのではなく、怪物の鳴き声でこう言った。


「愛しい者よ、また我を愛するかえ?」


 そして、しばらくそうして見詰め合っていたのだが、その地獄の撮影会は突然終了の鐘を鳴らされた。


 その瞬間、本当に僅かだが、その怪物の目が悲しみに満ちたような。

 根拠は無いが、麗鹿の目にはそう映った。


 撮影者は、最後の時は反射的に襲撃をかわそうとして体を捻ったが、悲鳴一つ上げる暇すらなく無残な最期を遂げた。


 スマホは、そのまま転がっていったお陰で、動画はなんとか無事だったようだが。


 転がりながらもスマホはその機能を発揮していたため、そこに記録されていた、彼の持ち主であった人間の肉が千切れ骨は砕け血が噴出する、耳を覆いたくなるようなスプラッターな音響が、その会議室の空間を音速で埋めていった。


 その侵食が全て終了した終局に、おもむろに宗像が切り出した。


「以上が、今回の犠牲者に関する全てだ。

 そこで、あなた方のご意見を賜りたい」


 宗像は、粗末な会議室の机の前方に、組み合わせた両手を投げ出して問いかけた。


「あの怪物が喋った言葉が気になる。

 なあ、鳴鈴。

 ガルーダとは、あんな風に普通に喋るものなのか?」


 そして鳴鈴と呼ばれた彼は、あのなんともいえない独特のボイスで語った。


「本来のガルーダならば喋りはせぬ。

 だが、極楽鳥に援軍に呼ばれ、体を貸し与えた物は別だ。


 それは極楽鳥ガルーダ。

 別物の妖魔と考えた方がよかろう。


 元は人の怨念をベースに出来上がる妖魔だからな。

 喋るには喋るが、大体は、その本質に関する事のみだろう。

 だから、あの言葉は重要な手掛かりだ」


「それと、あの魔物の悲しみを湛えた目がどうにも気になる。

 何かに裏切られたかのような。

 男の側に何か重大な非があったのかもしれんな」


 麗鹿も、外せないポイントについて、きちっと言い添える。


「あの類の女妖魔が発生するのは、大体男の方が悪いケースも多いがな。

 それが男と女の性よ。

 今回は、どういう背景でこの事態が発生しているものやら。


 そして、それが何時いつ起きたものなのか。

 現代か、はるかな時の彼方か。

 それにより、警察が捜査して何かわかるものなのかどうかも変わってくるものよな」


 宗像も、ふうむと唸り眼を瞑ると、溜めていた息を吐きながら、組み合わせた両手を裏返すようにぎゅうっと胸の前に引いた。


「とにかく、あの犠牲者達に似た人物で、何か女性がらみの事件に関わったものがいないか、早急に捜査させよう。


 監視カメラの映像も解析に総力を上げさせる。

 ただ、雲を掴むような話なのでなあ。

 こいつはまた泣けてくるぜ。

 正直に言って、あんた方だけが頼りだ」


 それを聞いた麗鹿は、おどけたように両の肘でパイプ椅子に凭れかかりながら言う。


「おやおや、いつも『俺はエリートだ、偉いんだ』とか言っているくせに。

 小僧、今日はやけに弱気じゃないかね。

『鬼の宗像』の名が泣いているぞ。

 妖魔なんて、この大東京では珍しくもなんともないのだがな」


「正真正銘の鬼はあんただろうが。

 というか、それが困るんだよっ!

 なんだってまた、この天下の桜田門東京警視庁の管轄で、鬼だの妖鳥だのが暴れていなくちゃならないんだか」


「暴れているのは別に警視庁の管轄だけではあるまい。

 日本国内の各地県警所轄は言うに及ばず、スコットランドヤードの管轄なんかも多いそうじゃないか。

 アメリカや中国なんかも件数は多いのだし。

 インド・アフリカあたりも多そうだ」


 宗像も些かゲンナリとした様子で、机に両手をついて立ち上がった。


「そうなんだよなあ。

 あちらさんでも、お前さんみたいなとんでもない連中と組んでいるところもあるみたいだしねえ」


 そう、闇斬り。

『ダーク・スレイヤー』と呼ばれる人外の者達は世界中にいた。

 しかし、その戦う理由は様々だ。


 麗鹿のように人の世で生きる事を望むため、あるいは人に追われてやむなく人の王と約定を結んだ者、単に金が欲しくて仕事を請け負う賞金稼ぎの真似事をする者、永過ぎる生を彩る退屈凌ぎのためだとか。


 その理由は多様で、また気まぐれだ。

 裏切りや寝返りなど、日常茶飯事。


 なんというか、麗鹿のように、ほぼ無条件で人に与してくれる人外は地球レベルで例外的だ。

 だから、宗像もあのように気安い口を叩いているのだ。


 むしろ、麗鹿はそういう雰囲気を好む傾向にある。


 だが他の闇斬りは、そうはいかなかった。

 口の利き方一つで、自分の同僚や家族の命にまで関わるのだから。


 いずれにしろ、人の世に蔓延る、人の手に余る者との戦いを請け負っているのだ。


 闇斬りは、お互い自分の縄張りから出る事など殆どないので、互いに滅多に出会う事はないのであるが。


 麗鹿自身も外国は嫌いなので、日本から出た事はない。


 パスポートは日本政府から支給されてはいる。

 もし万が一にも外国から『応援要請』が来た暁には、麗鹿を応援に出さないといけないのだ。


 貴重な戦力である麗鹿のご機嫌を損ねたくは無いので、拠所ない事情になるまでそれは無しという事になっているが。


「とにかく当たってみよう。

 それが探偵の本分だ」


 別に探偵業を生業にしているのではないのだが。

 あの事務所は人の世にあるための仮初めの居場所に過ぎない。


「それでは、こちらも警察の本分に戻るとしようか。

 どうせなら、こっちの仕事に専念したいのだが、なかなかそうもいかなくてね」


「はっはっは、小僧。

 苦労は若いうちに買ってでもしておくのだな」


「へえへえ。

 俺だってもう若くはないんだがな」


 やや溢し加減に出て行く、警視庁の『やや偉いさん』を見送ると、麗鹿は相方に尋ねた。


「ところで鳴鈴、奴はどうやって狩る?」


「とりあえずは、現場に行ってみるか。

 昨夜の今日だ。

 奴の妖気がまだ残っているやもしれん」


 麗鹿は頷いて立ち上がり、右腕を上げて、んーっと大きく伸びをした。


 また厄介な事になりそうな雲行きであったが、この愛おしい相方と一緒であるならば、どんな苦難も乗り越えてみせよう。


 それが闇斬り鈴鹿の、今も変わらぬ生き方であった。


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