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3-13 連続ミッション

 闇斬り関連は日本政府が、警察の予算外から無条件で出してくれる。


 ずっしりと福沢諭吉が束で詰まった厚い封筒を渡されて、気落ちした気分を多少は浮上させると、宗像は二人に声をかける。


「そういう訳だから二人共。

 すまないが、続けて出張だ。

 山崎、また代休が伸びてしまって本当にすまないな」


 前回の騒動の時も、実は休日返上というか休日に出させたのだが、自分の持ち場では代休は取れなかっただろう。


 むしろ、自分の仕事がたまってしまっているので、次の休日も休めなくなったかもしれない。


 刑事の宿命といえばそれまでだが。

 特に地方の小さな警察署などでは、土曜日などでもよく仕事をしているのだから。


 それでも、いきなり妖魔相手の命がけの任務の後で、その扱いは少し悲惨だ。


 まあ公僕なのだから仕方が無いといえば仕方が無いのであるが。

 警察は他の職業とはやや違う側面もある。


「いえ、とんでもないです。

 お二人と一緒なら、どこまでも」


 その気持ちに偽りは無い。

 この前へまをして飛ばされそうになった仕事では、相方がとんでもない人だったのだ。


 警視庁でも三本指に入る『きぶい人』であった。

 若くて気のいい山崎には相手をするのが無理な人だった。

 他の人にも相手は無理な人であったのだが。


 そいつが無理な事をやらせたので、山崎は失敗するべくして失敗したのだが、そいつは全責任を山崎に押し付けた。


 確かに山崎自身も、ぼんくら気味ではあったのだが。


 警視庁内でも同情の声も聞かれたのだが、それで山崎を拾ったりすると面倒な事になるので、地方に飛ばされそうになっていたのだ。


 飛ばされたような人間は、また行った先での扱いが厳しい。


 山崎の上司は、このまま変に警視庁に置いておくよりは地方に行かせた方が山崎のためにもなるという判断も持っていたのだが、この前の事件で縁があった宗像に聞いてみたら二つ返事での身請けであったのだ。


 双方の利害は一致した。

 宗像は、そんなつまらない話などは歯牙にもかけない。


 山崎も、今回魔物の気配を察知できるようになったようだし、麗鹿とも気が合うのだ。


 もし、自分に何かあったら後は山崎に任せてもいいくらいに宗像も思っていた。


 とにかく、人間相手ならともかく妖魔と切った張ったの大立ち回りをするのは少し辛い歳になりつつある。


 宗像も、山崎のやる気のあるところは買っていた。

 彼、山崎の上司もそれは同じであり、このまま地方に飛ばすのも忍びないと思っていたようだ。


 そんな上司達の事が山崎は好きであった。

 そして、妖しの身の上で人として生きようとし、人のために戦ってくれる麗鹿も。


 初めは、『闇斬り』という単語が齎す先入観にビビりまくっていた山崎も、次第に麗鹿の鬼柄に惹かれていったのだ。


 警視総監から資料を受け取った宗像は二人に声をかけた。


「山崎、今のうちに少し仕事をするぞ。

 明日出発する。

 多少でも書類を減らしておかんと、次はすぐ帰れないかもしれん」


 だが、世の中に神も仏もいなかった。

 ここにいるのは鬼だけだ。


 一応、あちこちの神社に祀られて、神鬼と呼ばれる事もある鬼ではあるが。


「すまん、宗像。

 今からすぐに行ってくれ」


「え!?」


 驚いて、手に持った資料を取り落としそうになる宗像。


「そのな、お偉方がさっそく、今夜第一報が欲しいと。

 総理の命令で、簡易ではあるが首相官邸に対策室が設けられた。


 今回の事件は妖魔関連では、完璧に表沙汰になってしまっておる。


 これは何か大きな異変が起きるのではないかと、政府は非常に危惧している。

 今までにこんな事はなかったからな」


 言葉もない宗像。

 あんな河童なんていう暢気な奴らのお陰で、そこまで!?


「わ、わかりました。

 では、今からいってまいります」


「あれ? 狂歌に土産を買ってきたんだけどな」


「すまないが、後でまとめて渡してくれ」


「じゃあ、警視総監に預けておくから、眷族の女の子にでも取りにきてもらうか。

 どうせ、狂歌なんか取りにこないだろうし。

 電話しておくから総監、御願い」


 そう言って、名古屋名物と大阪名物などを、あざ丸から受け取って袋ごと渡す。


「ああ、わかった。

 渡しておこう。

 じゃあ、みんな済まないが頼んだよ」


 それから、若干重い足取りの宗像と、その反対の気分満載のコンビは資料のコピーに向かう。


 こんな気分の時に頬摺りすると、その暖かみで少し癒されそうなコピーが、昔の人が見たら魔法と思うかのような美しい輝きの後に排出された。


 手に持って一瞬、本気で癒されて一秒ほどフリーズする宗像。


(いかん、疲れているな。

 しかし、やらないわけにはいかん。

 いかねば!)


 帰った後の地獄については考えない事にした宗像だった。

 そうしないと泣きたくなってしまうので。


 鬼の宗像たろう男が、自分の仕事場で泣いているわけにはいかない。


「なあ、宗像。最初はどこに行くんだ?」


 何時の間にか、あざ丸が差し出した『日本全国食べ歩きマップ』と書かれた本を開いている麗鹿。


「あー、東京周辺から始まって北海道まで広がっているが、近くで多いのは栃木だ。

 今日は宇都宮まで行くぞ」


「よっし、今夜の晩餐は餃子だな!」


「あはは。

 麗鹿さんのおつまみには事欠きませんね」


 今日はもうグランクラスの豪華シートで行こうと決意していた宗像であった。

 前回の資金もまだ残っているのだから。


「山崎。

 やまびこ号かはやて号で、グランクラス席を三席予約してくれ」


「はい、わかりました」


「あ、駅までお送りしますよ、部長。

 お疲れ様です……」


『上階』の部下から、同情を禁じえない眼差しで声をかけられる宗像。


「ああ、すまんな、西城。助かる」


 西城と呼ばれた、まだ三十代の初めくらいに見える彼は、きびきびと車を手配した。


「では、車を玄関口の方に回しておきますので」


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