表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/55

3-12 帰京

 駅の売店で、熱心に土産や弁当を次々に物色していく麗鹿。

 あの愛乃狂歌にも買っていってやろうと思っているのだ。


 自分の娘と似たような少女の容姿を持つ妖し。

 親戚に近いような鬼族であるのも、それに加えて親近感が湧いた。


 はっきり言って聡明な自分の娘とは異なり、かなりの大馬鹿者ではあるのだが、それもまた一興だ。


 退屈なだけの奴よりは、ずっとよい。


 人を愛し、人に仇なす者には容赦しない気構えの、あの自分にも似た姿勢には思わず頬も緩む。


 少々アレなところには目を瞑ろうと思っている。


 帰りの新幹線では、また車中宴会だ。


 弁当の仕入先は改札内の有名弁当を狙う。

 蛸壷っぽい容器が麗鹿の古風な感性を直撃した蛸弁当。


 大阪で有名な焼売に、止めはタコヤキと蛸飯のコンボだ。

 人気の弁当を狙ったら、ほぼ蛸尽くしになってしまった。


 あと超人気の、新大阪駅でランキング1位の幕の内もゲットできた。

 ビールはしこたま買い込んで、あざ丸の空間収納に預けてある。


 かなり多いが、これは鬼ならばどうという事はない量だ。


 大阪から東京までなら3時間はかかる。

 ゆっくり楽しむのだろう。


 麗鹿のお相手は山崎に任せて、宗像は一人掛けシートで報告書の続きを書き始める。

 ノートパソコンのバッテリーは満タンだ。


 東京についたらすぐに提出できるように。

 さすがに勤務時間である山崎には禁酒を申し付けてある。


 土日出勤で代休を与える山崎なのだが、色々申請が要るので月曜の今日は出勤だ。


 宗像は偉い人間なので、土日などただの休日返上だ。

 それでも休みの日でよかったと思う宗像。


 これが平日に留守にしていたのだと、地下室の方ではない上階の方の案件で仕事が溜まる。


 平日に地方出張などできはしないのだ。


 弁当をたらふく食べてご機嫌な麗鹿の手を引き警視庁へと戻る。

 そのまま警視総監の下に急ぐと、帰還の挨拶をする。


「只今、戻りました」

「ああ、御苦労だった」


 USBにまとめられた資料を手渡す宗像に、警視総監・柳里是清は、少し躊躇うような感じで声をかけた。


「あー、出張はどうだったかね。

 楽しんできたか」


「御戯れを。

 残念ながら決定的な結果は出せませんでしたが、そう実害があるケースではありませんので。


 事態はそのうちに収束すると思われます。

 麗鹿は楽しんでいましたよ。


 若い山崎を連れていってよかったですわ。

 一人であいつに付き合うのは一難儀でして」


「あ、ああ、うん。

 御苦労だったね」


 いつもと違い、妙に歯切れの悪い警視総監。

 不審に思った宗像が問い質す。


「どうかなさいましたか?」


「ああ、その。

 うーん、非常に言い辛いのだがね。

 西の騒ぎは収まったようなのだが、その……今度は東日本で河童が、その、な」


「な、なんですって? そ、それで?」


 突然、猛烈に嫌な予感に苛まれる宗像。


「そのなあ、帰ってきたばかりで本当にすまないが、今度は東日本に出張してほしいのだが」


「え、ええっ」


 頭の中で、何か激しく鐘を鳴らしたような音が聞こえたのは、気のせいだったか。


 プツっと血管が切れた音とかは骨伝導で伝わるという説がある。

 まあ、今回のはただの幻聴のようだったが。


「あのー」


「わかっとる、わかっとる。

 君の仕事がたまっとるくらいの事は。

 だが、内閣官房の方ではどうしても原因を早期に究明してほしいと。


君が随時送ってくれた報告書から、『もしこれが何かの異変の前兆であった場合に、早急に対応できるように、大至急調査せよ』との通達があったそうだ。


 今朝、警察庁の方から連絡があった」


 がっくりとこうべ垂れる宗像。

 それでは、拒否はできない。


 本来なら、もう山崎にでも任せてしまいたいくらいなのだが、それができるくらいなら警視総監もこんな言い方はしない。


「河童自体は日本政府も、さほど重要視はしておらん。

 だが、それが何かを齎すような危険な前兆でないと誰に言えよう。


 想定外は許されない。

 この国では、いつも言われていることだ」


「御説、ごもっともです……」


 だが、そこで宗像とは逆の反応を示す者もいた。


「やったー、今度は東日本かー。

 ラッキー!」


 両手をそれぞれ二十五度の角度に開いて突き上げて、掌も指も伸ばして広げ、その満面の笑顔と共に全身で露骨に喜びを表している麗鹿。


 その横で、警視総監の前である手前、ピシっとしている山崎も顔は緩んでいる。


 その様子を見て、ゲンナリする宗像と、ホッとしたような様子の警視総監。


「ふう、闇斬り様はやる気充分でよかったようだ。

 山崎」


「はっ」


「若い君が頑張ってくれ。

 本当なら宗像君は免除してやりたいのだが、そうもいかん。


 政府は、対妖魔捜査室責任者である宗像君の報告書を要求している。

 今回は、君が充分以上にサポートしてくれたまえ。

 代休はあとで纏めて取ってよろしい。


 申し訳ないから、もう一日特別休暇をくっつけて丸一週間休暇をあげよう。

 その間は宿直なども無しでいい。

 大変すまないが、今回は続けて頑張ってくれ」


「はーっ!」


 組織トップ直々の、特別休暇のおまけ付きの薫陶に山崎も張り切った。


 何しろ、前回の任務のような命がけの囮任務ではない。

 役得がいっぱい付いた美味しい出張なのだ。

 大好きな麗鹿の御伴なのだし。


 危ういところを拾ってくれた宗像を手伝う仕事のも大歓迎だ。

 正直、早く終わってしまったのが残念でたまらなかったくらいなのだ。


 気合の入った敬礼で返答をしてくれる部下を、目を細めて見た警視総監は、幾分か慈しみの表情も混ぜながら宗像を労わった。


「すまないが頼んだよ。

 ああ、これ今回の軍資金だ。

 不足なら、連絡してくれれば出張先の警察署で受け取れるようにしよう。


 これは日本政府からきた肝煎りの調査なのだ。

 しっかり頑張ってくれ。


 高級ホテルで豪華なディナーやスパとか頼んでも構わないよ」


 警察としては非常に大盤振る舞いな措置であったが、それくらいしてやらないと割に合わないというか、宗像が持つまいと警視総監も思っているようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=835217488&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ