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3-4 旅気分

 三人がけの新幹線のシートに腰掛けたご一行。


「お、山崎。ワゴンが来たぞー。

 注文、よろしく」


「へい、がってん。

 あ、警視長は?」


 すっかり従者気分の山崎。


「ああ、俺はいい」


「じゃ、裂きイカと、笹蒲鉾。

 あとビール追加でもう1本、五百ミリリットルの方」


「はいはい」


 その様子を見て、溜め息を吐いた宗像は、山崎に申し付けた。


「やっぱり、俺にはコーヒーをくれ。

 それと領収書を貰ってくれ」


 普通は出張に行っても、こういうのは自腹なので領収書など貰わないのであるが、今日はその辺までも、ちゃんと経費で落ちる配慮があった。


 むしろ、こういう訳のわからない事件の方が警察は困ったりする。

 緊迫のしようもないし。


 こちらから河童にアクセスできる人材は、警察の手持ちではこの闇斬り御本尊しかいないのだった。


 こんな事で、貴重な闇斬りにご出馬いただくとは。

 肝心の首都東京をほったらかしにして。


 しかし、現実に日本各地の警察にも毎日河童目撃情報が寄せられ、住民からもあれは何だと毎回警官が呼ばれてしまう有様だ。


 警官自体も目撃する事が多く、悩んでしまう警察官もけして少なくない数に上る。


 そんな情勢なので、警視総監・柳里是清も眉間を激しく揉む展開となっていた。


 そして、『警察庁』からの要請で、闇斬りを出動させるに至ったのだ。

 河童を探し、今回の真相を解き明かすために。


 当然、現場には宗像を派遣し、補佐として山崎も行かせるのだ。

 あんな奴でもいないよりはマシだ。


 そこは宗像も警視総監に哀願しておいた。

 奴を書類整理に残すかどうか、激しく迷いながら。


「またおかしな妖魔が出てこないとも限らん。

 なるべく早く帰ってきてくれよ」


 そう言って軍資金の封筒と共に、宗像は警視総監自ら送り出されてしまった。


 一緒に行くのは、旅行気分の麗鹿と、その御付き気取りの山崎だし。


「まあ、今回は戦闘もなさそうだし、いいか」


 横で窓の風景を眺めつつ、御代わりのビールと笹蒲鉾を楽しむ隣人に横目をくれながら、独り言ちる宗像。


 麗鹿の話によると、河童という奴らに気の悪い奴はいなそうだ。

 その代わり、まともに話が通じるようなタイプでもない。


 眷属状態のボケボケ山崎みたいなものか。

 まあ戦闘になるタイプのものでもないのだが。


 とりあえずは名古屋。

 新幹線でスパっといけて、それなりには田舎。

 まずは、その辺から攻める。


 一口に地方といっても、ざっくばらん過ぎて逆に行き先に困る。


 名古屋でも結構目撃例はあったようだ。

 とりあえず、目指すは名古屋城のお堀だ。


「そういや、前に名古屋城のお堀にはアリゲーターガーとかがいるって話題になってましたね。

 あれ、どうなっちゃったんでしょうか」


「さあ、どうだったかなあ。

 少なくとも、河童はそんな奴らに食われるような代物じゃないから大丈夫だ。


 むしろ、河童の餌になるんじゃない?

 でも、あいつらも魚は手掴みサイズが好きらしいよ。

 鳴神がそう言ってた」


「ああ、あれなら、確か一匹は捕まったんじゃなかったかな。

 結構大きかったらしいぞ」


 仕方無しに話に混ざった宗像。


「しかし、アリゲーターガーならいざ知らず、河童までいるとはなあ。

 河童というのは、お堀好きなのか?」


「まあ、単に都心部では割と広めな水場だしね。

 川であいつら捜すのは大変なんだよ。

 いそうな気配とかは、ちゃんとわかるんだけどさ」


 何しろ、自転車で川縁(かわべり)を走り回って、川の上までも走って捜すのだから。

 人間にはそこまでは無理だ。


 名古屋駅に着いたので、さっそくお堀に向かう事にする一行。


 その前に駅の生鮮食品売り場で、お話の対価になる例の緑色の物を追加で仕入れていった。


 警視庁捜査官に必要な物は胡瓜の山。

 何かが違うと、些か首を捻った宗像警視長なのであった。


「あー、もう着いちゃった。

 風情が無いなあ。

 開業したての頃の新幹線なんて、もっと時間がかかって楽しかったのに。


 まあ、あれでも結構世間は沸いたもんだけどなあ。

 リニアになったら、旅がもっと短くなっちゃう」


 彼女の『最近の話』がまた始まりそうだった。

 東京オリンピックの話題とワンセットだから興味深くはあるのだが。


 祭り好きで、物見高い鬼にとってはけして見逃せないイベントであったのに違いない。


 そういや、またオリンピックが始まるのか。

 警視庁としては、警備が面倒でいけない。


「今はオリンピックも儲からないのだから、よしときゃいいのに」とは、口が裂けてもいえない公僕稼業だった。


「山崎、ここから名古屋城までは?」


「地下鉄桜通線に乗り、久屋大通駅にて名城線に乗り換えて市役所前で降りましょう」


「ご飯は?」


「名古屋金しゃち横丁で。

 最近出来た施設で観光名所も兼ねてますから。

 お堀に寄った後で寄ってみましょう」


 既に麗鹿の秘書であるかのような振る舞いの山崎。

 麗鹿の好みに合わせて、下調べはバッチリだ。


 それもいいか、と大人しく財布役として後をついていく宗像。


 何かあった時は麗鹿に活躍してもらわないといけないのだ。

 たまには、こんなのもよかろう。


 のんびりと観光地である名古屋城の敷地の中を眺めつつ、練り歩く麗鹿。


 昔の町並みを模した装いで、この鬼にとっては懐かしい雰囲気の、非常に落ち着く場所でもある。


 ここの御祭の時に来たかったなとか思わず思う麗鹿なのであった。


 室町や江戸の時代を経て現代に生きる鬼にとっては、お城の御祭ほど郷愁を誘うものも、また無いのだろう。


「金しゃち横丁は二箇所あるんですが、正門の方にあるゾーンのお店が麗鹿さん向きですかねえ」


 入場料は無料なので、中を通って歩く。

 昔風の建物に仕立てられた店などが並んでいる。


「なんだか懐かしいような感じだが、やはりモダンな雰囲気なのは否めないな」


「無理を言うな。

 真新しくて、現代建築の技術で作られているのだから。


 そういう事を言うんなら、岐阜の高山とか行ってこいよ。

 お前さんには、あっちの方が趣はあるだろうさ。

 あそこは外国人にも人気だぞ」


「生憎な事に、こちらは国産の鬼なのさ」


 そう言いながらも、あれこれ眺め回すのは祭り好きな鬼の性か。


「まあ、後でゆっくり見ましょうよ」


 そういう山崎もなかなか楽しげな様子だ。

 まあ、宗像ものんびり行く事にした。


 今回は雲を掴むような話なのだし、明確な被害が何か出ているわけでもないのだから。

 焦ったって駄目だろう。


 やがて城の城郭の周りを左周りに進み、堀に水が入った辺りに来た。


 名古屋城はどうしてだかは不明だが、堀は上半分のゾーンにしか水が満たされていない。

 埋め立てられているわけでもないようなのだが。


「やれやれ、それでは河童さんを捜すとするかね」


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