建前って大事だよね。
突っ込み役が居ない事に気が付いた僕は着替えると家を出た。
行き先はもちろん合格発表がされている明心高校。
志望動機は単純、公立でここから一番近かったからだ。
学校としては、学力そこそこ、特色無しのごく普通の普通科学校。なのに変人、超人が集まるという不思議な学校で普通の人が入学するといろいろと困るらしい。普通代表の僕も気を付けなくちゃ。
現在11時ちょい過ぎ。外に出るかどうか一時間以上迷った。ソファーでテレビを見ながらココアを飲みつつ悩みに悩み、苦悩した末の決断だ。後悔はしない!
玄関の扉を開けた瞬間後悔したことは言うまでもない。
だがしかし!行くしかない!しかも、目的地はここから歩いて1分、2分なので余裕で間に合うのである!
学校までそんなに近いのかって?ノンノン、ダメだなチミタチ。高校生の青春の一ページといえば待ち合わせだ。ラブラブ登校的なあれだ。
十字路を左に曲がって何軒目かの家の前でインターホンを押す。そしてダッシュ!
「あ!こら!逃げるな!」
しようとした所で、すぐに二階の窓から声をかけられた。やばい!見つかった!
まあ、小学生時代友達なのだけれど。そして約束していたのも彼なのだけれど。
少したつと彼こと美津愛 明日が現れた。
「よう、鏡。どうした?つまらなそうな顔して」
艶やかな黒髪をして、後ろでポニーテイルのように軽く束ねている。体格もがっちりしていなく、程よく痩せていて。顔立ちも綺麗だ。
「いや、お前が女だったらな~って思ったり。いいんじゃない?明日、可愛いし女に見えるよ。毎日女装してよ」
身長が少し小さいのがコンプレックスなのを知りながら、頭をなでなでしながらお願いする。これだけの誠意を見せれは明日ちゃんの心も動くはずだ。
「中学の文化祭(仮)の時やったろ?もうこりごりだ」
軽く手を振り払われて少し悲しい。やるならもっと大胆に!っと、会話つなげなくちゃ。
「すごいよ。あんなにたくさんの男子に告白されて」
「その中にお前が混ざっていた時、もう友人関係は終わったかと思ったよ」
「僕の愛を受け取ってくれ明日!」
ポケットの中に入れてあって封筒を渡す。
「嫌だよ!ってなにこの手紙?!」
「愛がこもるように暖めておいたラブレター」
「・・・・」
真剣に封筒を見つめている。
「え?やぶらないの?どうしたんだよ、らしくないよ。…!まさか僕の愛を!」
「いや、何が入っているかわからないのにうかつに破れないなと思って」
言葉を遮られた上に、酷いいわれようだ。僕はそんなことしないよ…そう!手紙なんて遠回しなことはね!
「大丈夫、サリンとかは入ってないと思うし。それさっき男の子が君のうちのポストに入れてったやつだから」
『ビリビリビリッ』
即座にそれを引き裂くと、そこらに捨てずにポケットの中に入れた。見られないためか、マナーを守ってか。性格的にどちらもだろうけど。
というか、明日ちゃんの中では見知らぬ男≫僕の信頼度が成り立っているらしい。僕ちゃん、悲しい。というわけで、反撃の開始だ。
「あ~あ、封筒やぶちゃって・・・まあ、中身はこっちにあるけどね」
封筒を取り出したのとは反対側のポケットから手紙を取り出す。
すると、明日は猛獣のような目でこちらを見てきた。
試しにちらつかせてみると猫パンチの要領で手が伸びて来た。こんなところまで可愛いとは…可愛さがあざとい。
瞬時に腕を上にあげて回避するが、ジャンプまでして取りにくる。そのまま走り出すとちゃんと着いてきたが、視線がラブレターに一直線だ。これは面白い。
走ったり、跳んだり、たまに蹴りが飛んできたり、何だ逃げ回っているうちに、いつのまにか明心高校にたどり着いていた。
二人で走りながら来たので、他の学生たちの視線を一身に浴びる。しかし、僕ちゃん様のメンタルは蒟蒻のようにそれを受け流すのだ。
「はぁ、はぁ、ついた~!って!わっ!」
「きゃ!」
疲れたので足を止めるとラブレターを追っかけていた明日がぶつかってきて、明日が僕を押し倒すように覆い被さってきた。
「!あ、あの!明日。道端でこういうのは・・・」
「・・・・!あ、あうあぁぁぁ!」
ラブレターを必死になって奪った後、やっとみんなの視線に気が付いた明日は真っ赤な顔をして一人校舎の方に走っていってしまった。よって、合格発表を見に来ている生徒の集団に、僕を中心に輪ができる。
独りぼっちにしないでくれ!僕の心は蒟蒻のように柔らかいのだ。
空気に流され・・・じゃなかった、人目を避けるため僕も明日の後を追って校舎の方へ走り出した。