死ぬより怖い事ってたくさんあるよね。
上機嫌で階段を上り部屋のドアを開ける。
「あ~す~たん♪」
「キモ」
イスの上から放たれた冷たい視線と一言。あまりの威力にガクッとその場に膝をついた。
「今の心のこもった一言で僕の温かかった心が氷河期を迎えた!温めて!」
「お湯沸かすか?」
「それは一緒にお風呂に入ろうアピールだね!」
「熱湯をお前の頭からかけて、腐って原型を失いつつある脳を茹で上げて、固めてやろうと言う気配りだ!」
なるほど、高度な冗談で分らなかった。
「しかし残念、僕の頭の中は実はお花畑だったのさ!」
「ああ、納得」
「納得された!」
「じゃあ俺帰るわ」
「なんで?!!」
今の会話の流れで?!
今日一番驚いた事に入れても差し支えないだろう。
「ま、まさか僕に失望した上に、神様がいるからそちら側に走っていってしまったというのか!」
確かに予兆らしいものはあった。家追い出されたときとか、さっきの第一声がキモイから始まったとか。
――あれ?それはいつもか・・・ダメだ、自分自身に吐く冗談が効かなくなってる…。
「いや、時間だし。男にも戻ったし。また神様に早寝されても止めようがないからさ。できる事はやって早めに部屋に閉じこもるための対策」
「そ、そんな・・・」
あまりのショックについた膝すらも折れて寝そべってしまう。
「まぁ明日も学校で会うんだからかわんないだろ?」
「うぇ?登校は?」
「え?虧とくるんだろ?」
「の~~~~!!!!待って!何で!そうだ!3人で一緒に登校するって気はないの!」
立ち上がって明日ちゃんに迫るが
「いや~だって鏡の交友を邪魔するわけには・・・」
目を逸らされた。
あれ?実は僕って結構本気で嫌がられてた?
「・・・・」
「だめ!カッターはダメだから!わっかった!一緒に行くよ!」
ポケットから取り出したカッターを奪われてまたも床に膝をつく。
ああ、明日ちゃんの心を覗きたいけど、覗きたくない。
覗いてしまって、もしもの事があったらもう望みが無くなる。それは死ぬより辛い。
「なんでカッター常備してるんだよ!怖すぎるお前!」
「ああ、やっぱり僕って怖いんだね、重いんだね、そして邪魔なんだね。大丈夫。ひっそりと死ぬから」
「どうした!いつものプラス思考の鏡は何処へ行った!」
「地獄」
「・・・・・」
明日が止まった。ああ、きっと重いと思われてる。二階でも飛べば死ねるかな?
「あ~、もう何をしているんですか。明日さんが困っていますよ」
神が天から降りてくる。明日ちゃんを奪った神が。
「ころずぅううううううううう!!」
鋏を両手に特攻するも、あっさりと捕まって口を押えられた。
いくら抵抗しても紙の様に軽い神様の体は岩のように動かない。
「はいはい、暴言は吐いてはダメです。精神年齢の低い鏡夜さんを見ているのも可愛くてよいですが。今回はおいたがすぎます」
めっ!と言って軽く頭に人差し指を当てられただけで意識が薄れていく。
「むぐうう!むぐうう!むぐうぅ・・・」
意識が途切れる瞬間。冷えた頭で状況を把握し、はっ、と我に返って明日の顔を見る。
悲しそうな顔をしていた。
しかし明日は目があったことがわかると笑う。少し悲しそうに笑う。
その笑顔はどこかで何度も見たことがあるような気がして…。
僕の意識はゆっくりと闇の中に沈んだ。
「ふぅ、普通の人にならば一瞬で気絶して、一生意識が戻らないほどの出力のはずなんですけどね」
「え?!それって大丈夫なんですか!?」
「大丈夫ですよ。まぁ流石に明日の朝までは起きないとは思いますが。目覚めた後もあまりに錯乱が酷いようでしたら、不本意ながら記憶を消させていただきますし」
「そ、そうですか・・・それは仕方ないですよね・・・では後はお願いしてしまって良いでしょうか?」
「はい、お気遣いなく」
明日は変な記憶まで消さないように、と強く念を押すと、気まずそうな顔をしながらそさくさと家に帰っていった。
これで一段落。と息を吐いた神様は鏡夜をベッドの上に寝かせ、布団を掛ける。
安らかな表情でゆっくりと呼吸する鏡夜の顔を、神様がベッドに腰掛けながら、優しい笑みで見ている。
そっと、手を伸ばして頬に触ろうとするが直前で止めて引き戻す。
別段、寝ているというより、ただの昏睡状態に近いので、起きるような心配をしたわけではない。
なんせわざわざ当分、目覚めないように深い昏睡状態に落としたのだから。
神様は暫くその状態で静止した後、思い出したかのように浮遊し「行ってきます」と、天井を突き抜けて消えていく。
その表情は…。
「シュンさぁ~ん。でてらっしゃぁ~い」
「…いやだもん!しゅんしゅん、ここにはいないもん!」
「そうですか…。ではこの扉の前に火を放たせてもらいますね」
「やめて!しんじゃう!」
「だって、シュンさん悪い事しましたよね?」
「…わるいこと…してないもん」
「そうですか?ルビ振りサボったり、更新しないで寝てばっかりいませんでしたか?」
「…し、してない…もん」
「…さようなら」
「まってぇええええええええ!!」




