自分探しなんて旅に出なくても案外で簡単にできるのかもね。
「ただいまぁ~」
家に上がったら神様はともかく、明日ちゃんは降りてくるものだと思っていた。
しかし、その期待とは裏腹に反応がない。少し寂しい。
「まぁ本当に何もないけど上がってよ。あ、食品冷蔵庫に入れるからリビングで待っててね」
荷物を受け取ると虧をソファーの上に座らせ、自分は要冷凍のもから優先的に冷蔵庫にしまっていく。
「さて、では何をしますかな?」
ソファーの前に戻るとそこにはトランプやボール、小型の将棋、チェス、オセロ、など様々な遊び道具が所狭しとばらまかれていた。
きっと鞄の中に入っていたのだろう。
しかし、僕の収納能力ではもう一度詰め込むことはできなそうだ。どうやって入っていたか見当もつかない。
「う~ん。どれにしようかな」
一番手頃なトランプと行きたいところだが、二人でのトランプはあまり面白くないことを明日と検証済みだ。
確かに二階から明日を呼べばいいだけの事なのだが、あの明日が自主的に降りてこないと言う事は呼ばないほうが良いのだろう。
「じゃあこれで」
と、いう事でルールが簡単で分かりやすいオセロを選んだ。
僕は黒、相手は白。経過時間十数分。接戦と言うわけでもなかったがその理由は明白だった。
なんせ大半が白で覆われており、黒はぽつぽつと数えるほどしかないのだから。
圧倒的大勝利という感じだが、実は中盤まで僕が優勢だった。
このまま行けるか?と思った終盤、端から一気に取られほとんどが白に変わってしまったのだ。
何とも騙された感があって面白い勝負だった。
このまま数回やっても、どこで戦況を覆す種を撒いているかなんて僕にはわからないだろう。
と言う事で今度はジェンガをやることにした。
この戦いは先ほどとは違い拮抗した。
下も上ももうグラグラで、真ん中一本で耐えているところもある。いつ倒れてもおかしくない。
次は僕の番だ。
呼吸ですら倒れてしまいそうなので息を殺し、手の震えを押さえながら両手を使って慎重に引き出す。
1、2、3、4、5・・・・・セーフ
「お、俺の番か・・・」
慎重に指を近づけていくが、それが触れた瞬間。バラバラバラ!と、塔が崩れ落ちた。
思わずよし!と声が出てしまったが、虧も畜生!と言って悔しがっているだけなので、これはセーフらしい。
こんなどうでも良い事なのに、今までにないぐらい真剣になった。
そんな僕自身が可笑しくて笑い出しそうになる。
いや、こういう時は表情を出したほうが良いのかもしれない。
二人で一しきり笑いあった後、崩れたジェンガをまた立て直すのは面倒だ。と言う事で横に並べてドミノを作っていく。
ルールは簡単。一人一本ずつ交互に割り箸でジェンガを縦に置いて行く。勿論、倒したほうの負けだ。
虧が考えたのだが、すごい地味。でもこの緊迫した感じが楽しい。幅設定は5cm以下だ。
難易度で言うとジェンガの終盤あたりがずっと続いているという感じで、時間と共に神経を二次関数方式で削られていく。
しかしそれでもお互い残りのジェンガが8本となったところまでは続いた。
今回も勝ったのは僕だった。
どうやら虧は頭脳戦派らしい。それと、案外繊細なことが長時間できる僕発見。収穫になった。
「あ、そろそろ帰らなきゃな。また駅まで戻るのか。面倒だ~」
時間は5時ちょっと過ぎ、帰ってきたのは4時だったからもう1時間は遊んだのか。
「駅まで徒歩だと20分って言ったところだけど、自転車なら5分で着くよ。どうする?持ってく?明日の朝家に帰してくれればいいし、駅の反対側なら公園いっぱいあるから、自転車放置しても鍵かけとけば、そうそう回収されないし気にもされないよ」
僕は柄にもなく気を遣う。
「おおそうか!それじゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」
喜ぶ虧を見ていると何故だかこちらまで嬉しくなってきた。
「あ、そういえばここからなら歩いて学校20分程度だけど、駅からだと学校まで40分ぐらいかかるよね。バス登校?」
ちょっとした疑問からそんな言葉が自然と出る。
「だな、でもバス定期のやつ無駄に高くて憎い」
そんな話をしながら片づけを終えた虧は帰っていった。
今日は・・・楽しかったな。と、息を吐く。
しかしよく使いなれているはずの表情筋が、虧と笑ったときも、そして今も上手く心に連動して動いてくれないのは少し悲しかった。
不意に『ふふふ』と神様の笑い声が頭の中に響いてくる。
しかしその声にイラッとしなかったのは、いつもの冷やかしではなく、それこそ神や仏のような、慈愛に満ちたものだったからだろう。
ただ、その分何故だか心がこそばゆくなる。
今日は色々と新しい自分を発見する日だな。とつくづく思った。
「神様も僕にこれぐらい優しければいいのになぁ…」
「優しくして欲しいですか?」
「…やっぱりなしで」




