僕が無敵だと思ってた?そんなわけないでしょ!
「それより明日ちゃん。いま明日ちゃんは明日ちゃんなわけだけど、どうする?家に来る?」
神様が思考に割り込んでこなくなった理由は、明日の姿で明白だった。詰る所、僕をいじり飽きて寝たのだろう。
「・・・うん」
明日ちゃんは急にしおらしくなって頷く。
元に戻っても何事もなかったかのように会話を続けてたし、現実逃避したかったんだろうなぁ~、と感じる。明日ちゃんの可愛いポイントがまた上がった。
「なぁ、神様に交渉とかできると思うか?」
「明日ちゃんが、神様の興味をひけるような何かを持ってれば、神様が乗り気の場合に限って簡単な事ならできるんじゃないかな」
「それって確立どれぐらい?」
明日ちゃんは肩を落として暫くの沈黙した後、顔を上げて聞いてくる。
「ん~・・・一割いかないかな。寝起き、いい夢を見てればかなりご機嫌だけど、それでも三割」
明日ちゃんが無言で再度項垂れる。精神的に大ダメージだ。
「でもダメもとでもやってみたほうが良いよ。うちの神様、お賽銭とかいらないし、聞くだけならタダだよ」
ただ、言葉巧みに人を誘導して弄んで楽しむ癖はあるけどね。とは言わないでおく。これは親切心からである。そう、親切心から・・・くくくっ。
「そうだね、ノーリスクで神様と直談判できるだけでもいいとするか」
俯き加減の明日ちゃんが、自分に言い聞かせるように小さく呟く。
昨日のやり取りで感じていたが、やはり明日ちゃんは神様は少し苦手なようだった。
明日の方がよっぽど感情と行動が直結してると思うのは僕だけ?
「ところで何を交渉するつもりなの?呪いをかけた張本人探し?」
「ん~それが一番だけど、せめて寝る前に一声かけて欲しい」
本当に高望みしないよね、明日ちゃん。昔から――ん?昔?昔って――
「ところでさ、神様って起こしたら機嫌悪くなる?」
思考を遮るように明日ちゃん声が響く。すると記憶の彼方に行きかかっていた意識が戻ってくる。そうだ、大事なのは今だ。
「ああ、勿論悪くなるね。少なくとも自然に起きるまでは交渉は諦めたほうが良い」
「そうかぁ~これじゃあ家にも帰りにくいしなぁ~」
胸のせいでぴちぴちになった制服のYシャツをつまみながら言う。
「はっ!これは・・・!もしもしそこのお方、家にも帰れず、外もぶらつけず、と、なると家にいるしかないわけだよね?」
「あ、ああ、それはそうだな・・・」
あからさまにやな予感がする、と、顔が言っている。ならその予言。信者たる僕が実現させてやろうではないか!
「そして、家では神様が寝ていて、実質二人きり。家の鍵を掛ければ完璧なシチュエーションではないか!」
「何が完璧なんだよ!せめてそういう思考は頭の中に留めておけないのか!?」
「え?だって明日ちゃんにも心の準備ってものがいるでしょ?」
まったく、何を言っているんだか明日ちゃんは。僕は紳士なんだよ。
「何故そんな、何を言っているんだ?みたいに言ってるの?!俺の意思は?!」
「だから、家に上がったら合意の上ってことで」
ほら、意思ちゃんと尊重してるよ。僕は紳士だから。
「なんか生々しい上に、貴重な素の表情をここで使わないで!と言うか俺が否定した場合、神様が起きるまでどうしろって言うんだよ!」
「まぁ精々、ご近所さんに女装してると思われないように隠れ通すことだね」
「くっ!親友だと思っていたのに!」
チィッ!五月蠅い小娘め!・・・と、紳士紳士。・・・グへへへへ
「ああ、ダメだ。鏡が猟奇的に笑い始めた。もう交渉の余地はないのか・・・」
明日ちゃんの顔に影が落ちる。どうした?やっと諦めたのか?
と、次の瞬間。軽快なステップの後に足を払われた。
「ぐぶふっ!」
転んで宙に浮いた僕の鳩尾部分に、明日のつま先がめり込む。
「ひっ、さしぶりに、いい蹴りだったぜ・・・・ガクッ」
少し得意げな明日の笑みを見上げると、そこで意識は潰えた。
「やっと休みだ!」
「と言っても一日だけですけどね」
「うるさい!うるさい!僕は今夜の宴の為にわざわざ遠くまで買い物をしてきたんだ!気分を壊すんじゃない!」
「あ!それは ビアパパ のシュークリーム!」
「ふふ~ん。良いだろう!意地悪な神様にはあげないからね!」
「私はシュンさんの一部なのでシュンさんが食べれば私が食べたも同然なのです。…あ、宴と称して徹夜しようとしているのはバレバレですからね。このエナジードリンクは取り上げておきます」
「そ、そんなぁ…」