人間って中々現実を直視できない生き物だよね。
やっと最後のスタンプ。前半のロスタイムは痛かったが、後半は上手く人を避けられたので、どっこいどっこいと言った感じか。
「よし、これが最後のスタンプだよね。おわった~!」
明日ちゃんが人目をはばからず背伸びをする。
注目を浴びるのは嫌いなくせに、無意識にこういうことしちゃうんだよなぁ。天然すぎる。
「後は教室に行って提出か。11:00微妙な時間・・・俺、家近くもないから初学食いくかな。そっちはどうする?」
虧の問いに、僕は明日の方を向いて視線でどうする?とアイコンタクト。
「ああ、ごめんね。いま有り金が少ないんだ。また今度で」
「僕も右に同じ。ごめんね」
「あ~、こっちこそ悪い。じゃあ教室にカード提出したらそこで解散か」
バツが悪そうに謝ってくる虧くん。悪いのは嘘つきな僕たちなので良心が削られる。
「そうだね~。あ、家遠いって言ってたけど・・・」と、解散直前まで会話が続いていく。
僕?勿論傍観席さ!しかし経験値は積めた!相槌のスキルが上がった気がする!
さて、邪魔者…じゃなかった。虧がいなくなったのでやっと明日ちゃんと二人きり。嬉しい時間だ。
冷めたテンションを少しづつ温めていると神様からコンタクトが入る。
『上がったのはダメ人間度じゃないですか?』
少し静かにしていてください神様。
『それと傍観席と言うよりは、蚊帳の外ですね』
…自覚してるんだからいちいち傷を抉らないでください。
「どうしたの?なんか暗いけど」
校門を出て隣を歩く明日がそれと無く聞いてくる。
「やっぱり明日ちゃんは優しい!」
あまりの気づかいに抱き付いてあげたいぐらいだ。まぁ腕をつっかえ棒にされて、頭を押さえられたから無理だけど。
「もっと、こうさ。感情を抑えられないの?」
明日はいまだに続く僕の進行を抑えつつ呆れたように聞いてくる。
「ノンノン、これはスキンシップだよ。愛のね♪」
うああ、とひかれる。物理的にも。
すると当然押さえていた腕も引くわけで、そこに力を込めていた僕は盛大に頭からすっころんだ。
うん、我ながらバカみたい。あと、この頃頭をうつ頻度が高い気がする。
「大丈夫か?頭打ってそれ以上バカになったら流石に手におえないぞ?」
まだ物理的に距離を取りながらも少し心配したように聞いてくる。
え?心配してるように聞こえないって?僕の五感全てには明日フィルターがついているから、いいように自動変換されるのさ!
「――そういえば明日ちゃんって、他の人の前と僕の前じゃ少し口調が違うよね」
これまた唐突だな。と明日。立ち位置は先ほどの距離に戻ってきた。
追い払われても戻ってくる鳩みたいだなぁ~と思ってしまったのは秘密だ。
「ん~。でもそういうの気にしてないぞ?無意識とはいわないけど、自然にでる」
へぇ~。そもそも明日と僕じゃ脳の構造が違うのか。なんか納得。
「でも、ろなると、僕の前では素で話してくれてるわけだね。それはうれしい」
「お、久しぶりにおどけない鏡を見た。・・・って、なんか恥ずかしいな」
明日ちゃんは頬を人差し指でかきながら笑う。
「何を言っているのさ。いつものこれが僕の素だよ?」
「俺は素なのに、なんかずるいなそれ」
不満そうにつぶやかれてもこれだけは譲れない。なんせ僕、素になったら誰より面白くない自信があるからね。
…さて、そろそろ明日ちゃんに現実を突きつけるとしますか。
僕は未だに何事もなかったかのように振る舞う明日ちゃんを見て涙が出そうになった。
「今日も書いて頂いて感謝しています」
「…どうしたの神様?変なものでも食べたの?」
「それはさておき、シュンさん。この頃貴方碌に食事も睡眠もとっていませんよね?」
「…え?あ、はい」
「そして明日も休日出勤…。体は大丈夫なのですか?」
「ま、まだ動いてるし…。大丈夫じゃないかな?」
「…ニコッ」
「後生だ!唯一の楽しみを奪わないでくれぇ!あ…」