ツンとイラッを区別するのって難しいよね。
「あ~あ~・・・え~これから入学式を開催いたしまぁ~す」
唐突に流れた放送に驚きつつも皆静まり返る。
9:00から開会と言っていたのだが現在9:10。
確かにいつ始まってもおかしくなかったと言えばおかしくなかったが、声ぐらいかけてほしいかった。
おかげで驚いて、急いでだらけた足を戻そうとした明日が前のパイプ椅子にすねをぶつけてしまったではないか。前の席に座ってるやつの事など気にしない。
それにしても初っ端からやる気のなさそうな女教師の声だ。本当にこの人が司会でいいのか?…いや、よくないみたいだ。下で教師たちが混乱し始めた。
「ええっと・・・本学校の校則事項などについて」
プログラムに書かれている開式の言葉などをすっ飛ばしている。
まぁ、そんな話実際聞きたくもないんで嬉しいけど。
「こ、校長!何をしてるんですか!プログラムが!」
「ああ?うるせ~よ。こちとら二日酔いなんだ大きな声出すな。吐くぞ?」
どうやらこの声校長らしい。ずいぶん愉快な人だ。生徒のあちらこちらから小さな笑い声がもれ、教師たちがあたふたしている。
「教頭!マイクつながったままです!」
下から放送室に教師が声をかけると、先ほどの教頭だと思われる人の慌てふためく声が聞こえて放送が止まった。
そして数秒後「ウゲロブェ~!」という吐しゃ物がぶちまけられる音が放送室から響き、あたりが静まり返った。
「・・・・・・え、ええ。少々事故がありましたので放送担当を教頭の草野 剛に替えさせていただきます」
かわったのは教頭。さきほどの慌てふためいた声が流れた後で決め直されても威厳も何もないが仕方ないだろう。
「え~、すいませんが時間の都合上、本校の説明からさせていただきたいと思います」
結局プログラムはとぶらしい。こちらとしてはありがたい限りだ。
「・・・・う~ん・・・ん?」
いつの間にか閉会式を行っている。丁度いいタイミングで起きたみたいだ。
「やっと起きたか。起立とかなくって本当よかったな」
明日が目元に涙をためながら言ってくる。ついさっきまであくびでもしていたのだろう。
「何言っているのさ明日。瞬きしただけさ、でもおかしいね、時間が飛んでるみたいなんだ。ミニ浦島太郎事件だねこれは」
「何バカなこと言ってるのさ。ほら、もう終わるよ。席立つ準備して」
久しぶりに悩む真似をしてみたのに冷ややかな突込みだ。
「・・・・・いや、これはツンデレというやつなのか?」
「デレッとしているのは腐ってお前の脳味噌だけだ。くだらないことばっか言っていないで早く立て。もう終わったぞ」
明日ちゃんは受けから攻めに転じたらしい。…いや、きっと話長くてイライラしてるだけだろうけど。
明日の心は読まなくても読める今日この頃である。あ、うそ、結構前からだよ。
「あ、置いてかないでよ明日ちゃん!」
忠告を聞かないで立たなかった僕は、いつの間にか席を立って人ごみに紛れそうになっていた明日を必死に追うはめになった。