一週目土曜日~日曜日
土曜日。
テレビも新聞もネットもラジオもA GIRLの話題一色になっていた。
一昨日だけで一年分の募金が集まったとか、神様が世界の滅びを決めたとか。
犯罪など軽々しい行動をとらないよう呼び掛けたり。
コメンテイターが好き勝手言ってるけど、どうも弱腰に見える。
ま、本物の天使が現れたらなぁ。下手なこと言えば地獄行きだもんね。
・・外へ行ってみるか。みんな何してるんだろう?
・・
・・・・
車はちょっと少な目、人通りは殆どなかった。
あまり外を出歩かないでテレビやネットにかじりついているのかね。
まぁ世界の行く末がかかっているもんな。
・・あれ?近所の公園に、巴がいた。
巴「おや緑平。奇遇じゃな。」
緑平「お前はテレビやネットにかじりついたりしないのか?」
巴「なにかあればすぐ連絡をもらえるようにしてある。世界の危機じゃからな。」
さすが抜かりない。
巴「そういうお主はどうなのじゃ?世界の終わりを宣告されたにしては落ち着いてるのう。」
緑平「いや、結構わくわくしてるよ。」
ただ・・A GIRLに会ったのが引っかかって・・なんだったんだろうあれ。
まぁ言っても信じてもらえないだろうから言わないけどさ。
巴「もし世界が終わるなら・・人は人らしく生きられるのか?」
緑平「なに突然?」
巴「20世紀の世紀末にも終末が来ると予言があったのは知っておるか?」
緑平「生まれる前だし知らないかな。」
僕ら21世紀生まれ。
巴「ノストラダムスの大予言と言ってな、1999年7の月に恐怖の大王が来ると言われていた。」
緑平「恐怖の大王・・・・ってなに?」
巴「当時も定かではなかったようじゃ。隕石、宇宙人、核戦争・・色々言われてはいた。結局はなにも起きなかったがの。」
緑平「まぁよかったよかった・・なのかな?」
巴「人々は踊らされた。顕著じゃったのが当時の新興宗教系。自分の宗教なら救われるといった話が数多くあった。」
緑平「なにが起こるかわからないのに救えるわけないやん。」
巴「1990年代はバブル崩壊や震災、テロ事件があったのじゃ。そうした社会不安が背景にあった。」
巴「人々を信じさせようとする空気があったのじゃ。」
うーん、それで信じられるものだろうか?
巴「社会の空気とは非常に大きな影響を与える。2012年にも人類滅亡説があった・・が、こちらは記憶にない者も多い。」
僕も知らないや。
巴「2012年は、ノストラダムスが外れたからこれも外れるだろうという空気があった。」
巴「ノストラダムスの時は、どうせ滅びるのだから勉強しても意味がない。お金を持っていてもしょうがないという話もあったそうじゃ。」
お金はどうなんだろうな。
あの世に持っていけないなら、六文銭の話がおかしなことになる。
巴「天使が現れた今、終末を信じる者も多い。お主は・・どうじゃ?」
僕は・・・・
緑平「出来ればいつも通り生きたいけど、やっぱ特別な気分になっちゃうと思う。」
巴「わらわもじゃ。それで片想いしている者に告白しようとついここまで来てしもうた。」
へー、え?
巴がニヤリと笑みを浮かべる。
学校での顔とは少し違う、妖しい笑み。
ドキっとしてしまう。
緑平「へ、へぇ。そいつこの辺に住んでるんだ。」
巴「そうなのだが・・近くまで来て迷ってしまってな。向こうの迷惑にならないだろうか・・と。」
緑平「大丈夫だ、お前に告白されて嬉しくないやつはいない!」
もしいたらそいつはホモだ!!!
見た目よし性格よし家柄よし!
断る理由なんかないじゃないか。
巴「そうか?」
緑平「ああ。僕が保証する!」
相手が女の子だったらどうしようもないけど!
でも巴が男とイチャイチャするのは・・見たくない。
巴「なら・・」
ぴぴぴぴ・・巴のポケットから電子音が鳴った。
巴が真剣な顔に戻り携帯を操作しだした。
・・画面にちらっと”天使”の文字が見えた気がしたけど・・
僕の気のせいだろうか?
巴「・・今日は帰るのじゃ。」
緑平「告白は?」
巴「取りやめじゃ。急用が入った。」
そう言って、巴は帰っていった。
なんだったんだ?
ん?俺の携帯もブルってる。電話だ。
緑平「紀一か?」
紀一「すぐ集合!」
(いつも)暇だしいいよ。
・・
・・・・
紀一「ふふふ、聞いて驚くなよ。」
紀一の家へ行った・・んだけど。
緑平「・・なんで?」
巴「紀一に呼び出された。急用の方は後でいいと言われたのでな。」
巴はため息をついた。
別れたばかりだから微妙に気まずい。
紀一「話聞けよ!世界の危機だぞ!」
緑平「まぁ、どうぞ。」
紀一「我は裏情報を得たり!天使は世界を救う12人を選ぶとのこと!」
勇者みたいなもんか?
緑平「なんで12人?」
紀一「・・・・なんで?」
巴「不明ではあるが、キリスト教の使徒や星座、干支あたりとの関係が有力じゃ。」
紀一「ということだ!」
緑平「お前が答えるんじゃないんかい!!」
紀一「元々さ、巴んち情報だから。」
うーん、幼馴染というコネクションをフル活用してるなぁ。
となると、さっき巴に来た連絡もこのことかな?
巴「世界が滅びるまで最短で4日。だが選ばれた12人に世界を救うチャンスが与えられるというものじゃ。」
紀一「このことは明日発表されるらしい。つまり今がんばってA GIRLにアピールして、オレも12人のひとりに選ばれたい!!!」
緑平「具体的には?」
紀一「それをお前らにも考えてもらいたい。」
紀一「正直、どうしたらいいかまったくわからなくて。」
僕もわからんって。
んー、A GIRLへのアピールねぇ・・
緑平「祈るとか?」
紀一「もっと!誰よりもA GIRLへの想いを伝えるんだ!」
緑平「・・先に世界を救えばA GIRLも驚きの結果に。」
紀一「それだ!・・世界の危機ってなんだ?」
知らん。
紀一「もっとこう、オレでもできることで!」
巴「12使徒に習って伝道師になるというのはどうじゃ?」
紀一「それ最後やばい結果じゃなかったっけ?」
巴「ひとりは流刑、11人は殉教じゃ。これ以上ないアピールになるぞ。」
緑平「裏切った13番目の人は自殺したんだっけ。」
紀一「選ばれるどころじゃない!」
巴「まぁなんだ、A GIRLは日頃の行いを見ているのであって、一時的にがんばるからご褒美くださいなんて考えを認めるわけなかろう。」
紀一「わかってる・・わかってるけど!・・・・それでも救いが欲しいと思うんだよ!!!」
巴「慰めるのは緑平に任せてよいか?わらわは用事があるのじゃ。」
緑平「ああ、任された。」
巴は帰っていった。
緑平「巴は忙しいんだからあんまり無理させるなよ。」
紀一「慰めは?」
緑平「それは諦めたやつにすることだろ。お前はもう諦めたのか?」
紀一「緑平・・そうだな。オレとしたことが弱気になってたぜ。」
緑平「最後まで付き合うよ。巴の言うことも正しいと思うけどさ、最後まで諦めないやつに天使は微笑むと思うぞ。」
紀一「その通りだ!外へ行こうぜ。善行を積みまくろう!」
緑平「ああ!」
僕たちはいつも通りゴミ拾いに精を出した。
その帰り道・・
紀一「これだけやったんだ。A GIRLも見ていてくださるよな。」
緑平「ああ。もし今回選ばれなくても、次の候補には入るさ。てか、もう選考済みの可能性もあるから。」
紀一「そんときはお前も一緒だぜ。あーあ、巴は落選だな残念残念。」
それはどうだろう。
僕たちよりよっぽどがんばってるよ。
紀一「ま、あいつは家のことがあるからな。あまり自由がないんだ。」
緑平「今日も忙しそうだったなぁ。」
紀一「部活も家の用事があれば休まないといけなかったりするそうだ・・それでも今はマシな方かもしれないが・・」
緑平「進路は親の決めたところしかいけないとか?」
紀一「生まれた時には婚約者が決まっていた。大学へは行かず結婚して家に入るそうだ。」
緑平「え?」
紀一「オレも幼い頃から両親に言われてたよ。もし間違いがあったら、死んでもお詫びしきれないって。」
間違い・・まぁ男女だからな。
紀一「巴はオレのこと弟のように思っているし、オレも姉のように思ってる。」
紀一「うちの親が巴の家で働いているのもあってか、オレは一応信用してもらえてるんだよな。」
紀一「実はオレの部屋から巴の部屋まで屋根伝いに行けるんだぜ。」
紀一「でも・・巴が卒業して結婚したら今みたいに会うことは許されなくなる。」
緑平「じゃ、じゃあさ、恋愛とかもやっぱダメなのか?」
紀一「当然だ。もし巴が誰かと付き合ったら、どんな手を使っても別れさせられる。死人が出ても、だ。」
・・なら、巴が今日言っていたことって・・
紀一「巴もそれがわかっているからな。それこそ終末でも来なきゃあいつは好きな人に告白されても断るだろうさ。」
紀一「もし世界の終わる日が来たとしたら、その日だけ素直になるかもな。」
・・巴・・
緑平「なんとかできないのか?」
紀一「巴が嫌がりでもしていれば違うかもしれないが・・周りだけ騒いでもしょうがないだろ?」
まぁ、な。
今のままじゃ巴がどう考えているかわからない。
でも積極的に歓迎しているようには思えない。好きな人がいるようだし。
諦めているのか、家に逆らえずいるのか・・・・
・・
・・・・
女の子がいる。
ウェーブのかかった金色の髪。くりっとした目がかわいい。
A GIRLと呼ばれる・・・・天使だ。
?「もう知っている人もいるけど、改めて言うね。」
?「3日後に人類は滅亡します。」
?「でも安心して。世界を救う12人を選んだから。」
?「今日中にその12人は世界を救うために動き出すわ。みんな応援してあげてね。」
紀一の言った通りだ。情報元は巴の家だけど。
?「みんな忘れないで。世界を救うのは12人だけだから。」
そこで僕は目を覚ました。
・・
・・・・
日曜日。
朝一で、紀一から電話が来た。
紀一「世界を救うぞ!」
緑平「はいはい。」
今日も清掃活動かな?
僕は紀一の家へ行った。
・・
・・・・
紀一「今日は頼もしい仲間がいる!」
三太「よっ。」
三太だ。
緑平「巴は?」
紀一「今日は用事があるって断られた。」
三太「さよなら」
紀一「おいい!お前巴のことが好きなのか?」
三太「ち、ちげえよ!た、単に男だけで遊んでもつまんねえってだけだ。」
紀一「なら紬と天音を呼んでみるか。」
紀一が電話をかける。
三太「どうせ来ねえよ。こないだ紬を誘ったら断られたし。」
紀一「・・あ、紬?うちに遊び来ないか?」
紀一「他誰いるかって?緑平と三太。天音も誘うつもり。」
紀一「うん。おっけじゃあ待ってる。」
三太「え?紬くんの?」
紀一「ああ。」
三太「マジかよ。以前断られたのに。」
紀一「そういやお前の名前出したら嫌がってたな。」
三太「ちょーい!」
緑平「僕のことなにか言ってた?」
紀一「いや全然。」
それはそれで微妙(´・ω・`)
天音にも電話をかける。
紀一「天音?ああそう。今からうちに遊び来ないか?」
紀一「今いるのは緑平と三太。紬も今こっち向かってる。」
紀一「うん。了解待ってる。」
緑平「天音も来るって?」
紀一「ああ。5人いりゃ力強い!」
緑平「・・遊び誘ってなかった?」
A GIRLにアピールするのはどうしたよ。
三太「天音もくんのかよ。」
緑平「嫌なの?」
三太「つーか知ってるか?あいつ関西弁喋ってるけど北陸出身だぞ。」
・・それは知らなかった。
エセ関西弁ってやつか。
紀一「関西弁は世界共通語だから。仕方ないね。」
三太「そっかー・・んなわけねーーーーー」
緑平「そうそう。精々日本共通語だよ。」
三太「関西限定語だろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
いや、日本国内なら結構どこでも関西弁通じると思うんだけど。
それっぽく喋れるし。
世界共通語になるには・・あと数年は必要だね。
・・
・・・・
紬「えーごみ拾い~?」
天音「正義に目覚めたん?」
紀一「正義はいらない!A GIRLに会いたい!」
緑平「あれ?」
三太「それより遊び行こうぜ!」
紬「さんせーい!」
紀一「お前らA GIRLに会いたくないのか!?」
天音「んー、うちゴミ拾いでもええよ。」
緑平「僕はまぁ元々そのつもり。」
三太「ちぇ、つまんねえやつらだ。じゃあ紬、オレたちだけでどっか行くか?」
紬「仕方ないなぁ。私もゴミ拾い手伝ってあげよう!」
三太「おい!」
紀一「みんなの心がひとつになった。A GIRLも認めざるを得ないな(満足)」
天音「いやいやいや(困惑)」
僕たちは心を5つにしてゴミ拾いに精を出した。
天音「バラバラやん!」
個人主義ということで。
・・
・・・・
紬「ねーお昼どうする?」
紀一「もうこんな時間か。ラーメンでも食べ行く?」
三太「オレ肉がいい!」
紬「魚がいい。」
天音「パスタ!」
見事に分かれたな。
紬「ねえねえ緑平くんは?」
紀一「無理せずラーメンでいいぞ。」
三太「ゴミ拾いで疲れただろ?豚肉がいいぞ。」
天音「パスタおしゃれやろ?絶対楽しいって。」
緑平「・・ファミレス行こうか。」
好きなの注文しろや。
和洋中全部あるぞ。
・・
・・・・
天音「あ!ちょ、みんな見て!」
ファミレスで食べていたら、天音が携帯を手に興奮してる。
紀一「なに?・・これは!」
三太「まとめか?」
天音「A GIRL騒動をまとめたサイトなんだけど、天使に選ばれた12人が動き出したんやって。」
紬「キタ!あーでも、紀一くんは選ばれなかったってことだよね?」
紀一「がーん。」
三太「ざまあ」
天音「まだわからんよ。活動を開始したのはまだ6人。」
緑平「そうか。みんなA GIRLの夢を見ただろ?その中で言ってたのは・・12人は今日中に動き出すということ。」
緑平「今まさに選ばれているんじゃないか?」
紀一「そういうことか・・主役は最後に現れる。」
紬「で、動き出したって具体的になにしてるの?」
天音「A GIRLが用意したヴァーチャル空間で世界の危機に対応するみたい。」
三太「なんでヴァーチャルなんだよ。」
紬「リアル危機じゃないの?」
紀一「みんな!天使のすることに疑問を抱いてはいけない!」
僕も自分の携帯で見てみるかな。
みんなで天音の携帯に顔を近づけてもよくわからないし。
緑平「・・んー、こういうことみたいだ。」
現在の科学力では対応できない危機である。
A GIRLの用意したヴァーチャル空間には未知の物質がある。
理論上でしか存在しなかった物質を使えば、世界の危機に対応できる。
ヴァーチャル空間での解決が、現実の解決につながる。
緑平「つまり選ばれた12人はヴァーチャル空間で世界の危機に対応する。その結果が現実に反映されるということ。」
紬「なにが世界の危機かわかった?」
天音「まだちょっと・・あ、ヴァーチャル空間を覗けるアプリがリリースされてるって。」
紀一「すぐダウンロードだ!」
ダウンロード中・・
紬「ところでさぁ、未知の物質ってなに?」
紀一「色々あるけど、有名なのはモノポールあたりかな?」
紬「モノポール?」
紀一「磁石って、必ず片方がS極でもう片方がN極だろ?でもS極だけ、N極だけの磁石が”理論上”存在しているんだ。」
紬「都市伝説じゃないのー?」
紀一「確認したわけじゃないからな。ブラックホールだって観測できないだろ?でもあるという前提で理論は打ち立てられている。」
三太「ブラックホールって、うず状になってるやつじゃないのか?」
紀一「それは想像図。普通に観測するなら光が必要なんだ。でもブラックホールは光さえ逃れられないから。」
紀一「世界中の研究者が今でも観測しようとがんばってるんだぜ。」
三太「マジかよ。現代科学ってしょぼくね?」
紀一「科学は理論と実践の両輪で打ち立てられる。でも宇宙は実践するの難易度高過ぎなんだよ。」
紀一「兆単位の金があっても足りないぜ。」
三太「マジか・・やっぱ不況で金ねえの?」
紀一「宇宙関連はとにかく金がかかる。でもリターンは?っていうとちょっとな・・」
紬「お金とって一般の人を宇宙へ連れて行けばいいんだよ!民間の会社がやろうとしてるじゃん。」
紀一「安全性が担保できない。一度事故って地球に帰れなくなったら次がなくなる。投資した分が全部無駄になるぞ。」
紀一「簡単にできることじゃない。」
紬「失敗したら次に生かせばいいじゃん。それがわかっての宇宙旅行でしょ?」
紀一「福島原発の後どうなった?次がんばろうという流れになっているか?」
紀一「技術者は国内で仕事が無ければ海外に流れる。金かけた技術が垂れ流しだ。宇宙開発でも同じことやるのか?」
三太「面倒だなあ。」
紀一「民間なら失敗しても精々潰れるだけだ。でも国は?逃げられないんだよな。」
紀一「でもそんなこと言ってると、海外に遅れをとる。国は没落していく一方だ。」
3人がそんな話をしている間、僕と天音は黙々と携帯をいじる。
同じこと思ったのか、ちらっと天音と目が合って僕たちは笑った。
天音「緑平くんどう?アプリ快適?」
緑平「うん。でもログ早過ぎなんだけど。」
ヴァーチャル空間を覗くというか、選ばれた12人をフィーチャーしてくれるって感じだ。
自由な移動はできず、できるのは12人それぞれの視点の切り替えと、メッセージ投稿。
天音「世界中からアクセスしてるからやな。短文や規定文をフィルタするとマシんなるよ。」
なるほど。
ありがとうとか、がんばれとか非表示にするだけで結構減りそうだ。
緑平「これさぁ、言語選択変えるとログの言語も変わるんだけど・・全部翻訳してる?」
天音「そうみたいやね。」
自然な翻訳だし、これすごくないか?
もしかしてAI?
三太「そっちで話進めんなよー。」
紬「どんな感じ?」
天音「専門的過ぎてさっぱりや。」
緑平「番号で呼び合ってるのはわかった。」
FIRSTとか、NINTHとか。
紀一「察するに、12人いるからその番号だろうな。」
天音「んーならA GIRLが割り振ったのかも?12人集まってないのにTWELFTHがいるし。」
紀一「え・・?」
天音「どしたん?」
緑平「あー、TWELFTH(12番目)まで決まったってことかと・・」
天音「あ・・そっか、紀一くん12人の中に入りたかったんだっけ・・」
三太「こいつらが失敗したら次の12人が選ばれるんじゃね?」
紬「それよ!」
失敗って、世界滅亡しない?
紀一「いや・・いいよ。しゃあないさ、今回はこの人たちに任せる。」
紀一「今回は諦めて、次の機会を狙うよ。」
三太「ふーゴミ拾いはこれで終了だな。」
天音「あ、FIRSTがなにか見つけたみたい!」
紀一「オレが参加する方法とか?」
三太「全然諦めていない説」
緑平「・・隕石?」
みんなのコメントもその話題一色になっていた。
地球に接近する巨大隕石。衝突までおよそ3日・・そのことが判明したようだ。
三太「マジ?メテオかよ!」
紀一「これ見るとステルス隕石みたいだな。」
紬「紀一くん説明して。」
紀一「隕石って宇宙にある物質が塊になって落ちてきたものなんだけど、今回のは光を吸収する物質で構成されてるみたいだな。」
紀一「オレたちが物を見る場合、明かり・・つまり光が必要だけど、今回の隕石はその光を吸収してしまう。」
紀一「つまり肉眼や望遠鏡では観測できない。」
それでステルス隕石か。
紀一「地球の素材だけじゃ観測設備が用意できないけど、理論上でしか存在しなかった未知の物質のあるヴァーチャル空間なら・・」
紬「観測できたってわけね!」
紀一が頷いた。
三太「観測がゴールじゃねえだろ?地球が滅びるくらいなら超でかいんじゃねーか?」
紀一「サイズより質量の方が重要だと思う。壊すにしろ軌道をずらすにしろ、質量が大きいと生半可な威力ではびくともしない。」
三太「大きい方が質量もでかいんだろ?」
紀一「そうとは限らないんだよ。言うなればわたあめが重いかって話。」
三太「それもそっか。中がスカスカな場合もあるしな。」
スカスカ王国。
紀一「くっそ、オレたちはここで応援することしかできないのか!」
紬「でもさー、面倒だしやりたくないかなぁ。」
三太「オレも同意。頭いいやつがやりゃいいじゃん。」
紀一「みんなの問題だろ!?世界が滅びるかもしれないんだ。」
三太「A GIRLって天使なんだろ?なら天使がやりゃあいいじゃん。」
紬「そうだよねぇ。なんで人間にさせるの?ヴァーチャル空間じゃなく隕石破壊装置とかちょうだいよ。」
紀一「人間への試練だ!これを乗り越えた時、人間は天使様に認められる!」
三太「天使とか偉そうに人間見下してんだろ?何様だよ。」
紀一「天使様だよ!!!」
緑平「紀一声のトーン落として。ここファミレス。」
紀一「おっと・・すまない。」
緑平「天使は人間じゃないんだから、人間の常識で考えてもしょうがないって。」
緑平「天使は、神様のために行動するのであって、人間のために行動はしないと思う。」
天音「つまり、今回のことは人間のためにやってるわけじゃないってことなん?」
緑平「・・人間の常識で考えたらそういう結論になった。」
三太「いきなり矛盾してねーか?」
紬「でも言いたいことはわかるなぁ。人間にとって都合の良い存在でいろって考えの方がおかしいよね。」
三太「んなやつは邪悪な生き物のカテゴリにいれてやんよ!」
天音「うわー天使をそんな言い方したら、三太消されちゃうかもしれんよ。」
紬「惜しい人を・・・・そうでもなかった。」
紀一「今なら許してもらえるかもしれないぞ。」
三太「オレは信じねえよ!」
A GIRLは・・天使は何のために今回のことをやっているんだろうな。
人間のため?
それとも神様のため?
もしくは・・・・天使のため?
・・
・・・・
解散して家に帰った。
ネットを見ると、A GIRLによって選ばれた12人の話題一色になっていた。
どうやら現実でもステルス隕石を確認できる方法がわかったそうだ。
隕石そのものではなく、その周囲の変化を確認することで、ステルス隕石の存在を確認できる。
選ばれた12人によってステルス隕石の存在と位置が判明したからできる方法だ。
だが広大な宇宙では周囲に何もないことの方が多い。
観測は限られたタイミングでしかできないそうだ。
緑平「・・盛り上がっているなぁ。」
お話の中ではみんなが勇者になれても、現実で勇者になれる人は限られている。
紀一がんばってたんだけどな。
応援していた立場としては、残念だ。
僕はそういうの面倒だからお断りだけどね。
勇者になるんじゃなく、勇者を助けるくらいが性に合ってる。
ゲームでもしようかなとブラウザを閉じた時、見覚えのないアプリを見つけてしまった。
金髪の天使の姿をしたアイコン。アプリ名は・・13。
おーいー、世界を救うのに選ばれるのは12人じゃなかったのかよ!
僕に13番目の使徒・・裏切り者になれというのか?
んーどうしよう。
・・よし!
迷ったけど、アプリを起動することにした。
やっぱ気になるし。
―――――
最初に。
お姉様に気に入られているからって調子に乗らないように。
―――――
アプリを起動すると注意事項が表示された。
えっと・・。
お姉様って誰だよ!
やっぱり道端で出会ったA GIRLは本物だったのか・・?
同じこと言ってるし。
―――――
あなたの目的は、あなた以外の12人を倒すこと。
アプリ内のキャラを倒せばOK。
倒しても現実の人への影響はないので安心!
―――――
これだけ見ると、単なるゲームって感じだ。
人間をどうしたいの?
助けようとしたり、邪魔させたり。
―――――
アプリ内のあなたが死んだら、現実のあなたも死ぬわ。
ご了承ください。
―――――
さて、と。しゅーりょー。
さすがに続ける気はない!
―――――
もしあなたが12人を倒さないと・・人類が滅びるわ。
12人を倒し、人類を救いなさい。
―――――
え・・逆じゃないの?
世界を救おうとしているのは選ばれた12人で、僕にはそれを邪魔しろって言ってるように見えたんだけど。
僕も救う側?え?え?
なんで僕なの?
―――――
お姉様が気に入るくらいならさぞかし優秀なんでしょうね(怒)
この程度さくさくクリアしちゃうんでしょうね(怒)
早く死ね(期待)
―――――
出来レース・・じゃないよね?
まさかとは思うけど、僕を殺すための罠・・はははまさか。
やりたくないけどやらないとダメなんだろうなぁ。
ログインして始めてみる。
・・
・・・・
ぱっと見た感じ、選ばれた12人と同じヴァーチャル空間へ行けるのかな?
こっそり外から様子を見る。
選ばれた12人はビルの中で研究をしている。
・・あれ、いつの間に12人揃ったの?
ということは、向こうは本格始動か。
んー、チュートリアルとかないのかな?さすがに武器なしで倒せとか言わないよね?
ジェミニ「最初だけ私が案内してあげるわ。」
緑平「・・あれ?ジェミニ先生?」
ジェミニ「現実の先生とは別人だから気を付けてね♪」
ああ、肖像権の侵害か。
まぁ天使だし訴えることはできないだろうけど。
人間の法律は人間にしか適用されない。
緑平「はい。よろしくお願いします。」
ジェミニ「では、チュートリアルをカットしますか?」
緑平「いいえ。」
なんかゲームっぽい。
ジェミニ「では、短時間で終わるように簡潔な説明で終わらせますか?」
緑平「いいえ。」
僕の命がかかっているんだし、時間かかっても詳しく聞きたい。
ジェミニ「では、わかりやすいよう一部だけ説明しましょうか?」
緑平「いいえ。」
とりあえず全部聞いておきたい。
ヘルプとかあるかわからないし。
ジェミニ「では、説明面倒なので簡略していいですか?」
緑平「・・面倒でしたか・・」
ジェミニ「はい♪」
なんていい笑顔だ。
緑平「ならまぁ、簡略でお願いします。」
ジェミニ「まず目的を考えましょう。」
緑平「A GIRLに選ばれた12人を倒す。」
ジェミニ「必要なのは?」
緑平「武器?」
ジェミニ「なら武器の作り方を教えるわ。」
最初はこん棒とかかな?
そんで徐々に魔王の剣とか作れるようになるとか。
片手剣か両手剣か迷う。
ジェミニ「こっちよ。武器を作る拠点があるわ。」
工房みたいなとこかな?
・・
・・・・
案内されたのはマンションの一室。
普通の部屋だ。
ジェミニ「1.この装置に素材を入れて、2.どんな武器を作りたいか入力して、3.スタートボタンを押す。それで完成するわ♪」
緑平「・・あの、武器ってそうやって作るんでしたっけ?」
ジェミニ「現実と同じように作っていたら、すぐ時間切れになるけどいい?」
緑平「良くはないです。」
ジェミニ「どんなに崇高な目的があっても、無限の時間がかかっては意味が無いわ。」
ジェミニ「最短で最高の結果を求めなさい。」
緑平「は、はい!」
別人・・なんだよね?
本物みたいだ。
ジェミニ「じゃ材料をポポイッと入れて、はい完成。超地中貫通爆弾。」
緑平「なんですかそれ?」
ジェミニ「これがあれば地下室も破壊できるわ。逃げ場なし!」
緑平「へー凄そう。なに入れたんですか?」
ジェミニ「ふふ、材料はなんでもいいの。あなたが考える最強の兵器を作るのよ・・現実には無いものでもね。」
現代兵器でも未来の兵器でもいいんだ!
なら核兵器!・・・・は止めておこう。
なんというか、使っちゃダメな兵器トップ3に入るよね核は。
緑平「ええと・・どうしたらいいんだろう?」
ジェミニ「あなたの武器を想像しなさい。あなたはどんな武器で戦う?」
僕の武器。
直接やり合うのは嫌だな。
なら剣とかではない。
自分の手で殺すような感覚も嫌かな。
なら銃も使いたくない。
ジェミニ先生が作った爆弾系は・・イメージできないなぁ。
というか見た目はミサイルっぽいし。
ああいうのはもう少し慣れてからがいいな。
僕にふさわしい武器・・地雷かな。
設置して、後は知らぬ存ぜぬ。罪悪感は少なそうだ。
うん、僕って悪い子。
ジェミニ「考えたら、その武器に必要な素材をこの中から選んで。」
素材?
・・火薬は・・いるよね。
あと信管ってのと、地雷の容器ってなに使ってるんだろう?
鉄?でもガッチガチだと地雷の中で爆発して終わりそうだし。
長期間使うわけでもないし、木でいっか。
緑平「素材入れました!」
ジェミニ「次に武器の名前を入力。」
緑平「じ・・ら・・いっと。」
ジェミニ「はいスタートボタン。」
ぽちっとな!
チーンと、地雷が出てきた。
緑平「出来た!この材料で地雷ってできるんですね。」
ジェミニ「いいえ、全然足りないわ。でもそれでいいの。」
緑平「いいんですか?」
ジェミニ「地雷を作るのに必要な材料を知らなければ、現実で作ることもないでしょう?」
ジェミニ「兵器の作り方なんて知らなくていいの。子供のうちは特にね。」
・・ですね。
ジェミニ「イメージで作ればいいわ。それでなんでもできちゃう。」
緑平「便利ですね。向こうの12人もこんなやり方してるんですか?」
ジェミニ「向こうはもう少し大変よ。理論はきっちりしていないといけないわ。材料と組み立ては自動でやってもらえるけどね。」
緑平「理屈が合っていれば、隕石を破壊する装置なんかもすぐ作れちゃうわけですね。」
ジェミニ「そういうこと。さすがに現実と同じやり方だと間に合わないわ。」
3日だもんな。そりゃそうだ。
それでヴァーチャル空間を用意してくれたのか。
A GIRLって意外と親切?
・・なんでギリギリなんだよ。数年前に教えてくれればよかったんじゃね?ってツッコミは無粋かな。
ジェミニ「これでチュートリアルは終わり。あとは自分の力でがんばりなさい。」
緑平「は、はい!」
ジェミニ「困ったら、科学の力で新しい道具を作れば大体解決できるわ。」
緑平「(これを科学と言っていいのかはともかく)はい!」
ジェミニ「現実の私にもよろしくね♪」
そう言って、ジェミニ先生は帰っていった。
・・よし、地雷を設置しに行こう!
・・
・・・・
地雷の設置場所は・・12人のいるビル近くの道路でいいかな?
んー、アスファルトって硬い。
そっか、地雷って埋めないといけないのか。
困ったときは・・大体科学がなんとかしてくれる!
あれを科学と言っていいかはともかくとして。
アスファルトに地雷を埋めるには、どんな武器があればいいのだろうか?
いや武器とは限らない。
僕は材料の中からスコップとアスファルトの欠片を取り出した。
これらを素材にして、名前は”アスファルトを掘れるスコップ”
スタート!・・すぐ完成品のスコップが出てきた。
見た目はただのスコップだけど・・
再び12人のいるビルの近くへ。
スコップでアスファルトが・・・・ざくざく掘れた。
いいのかこんな作り方で。
鉄製のスコップ作っても、普通は鉄を掘ったりはできないよね?
ならアスファルトを材料にしてもアスファルトを掘れるわけ・・
・・気にしたら負けかな。
僕は地雷を設置した。
あれ?
ビルから誰か覗いていたような気がした。
見られた?
・・
・・・・
ログアウトして、今度は12人の様子を見れるアプリを起動する。
もし僕のいたヴァーチャル空間がこっちと同じなら・・
しばらくすると、誰か外に出てきた。
そして・・・・地面が爆発した。
ごくりと、僕は唾を飲み込んだ。
携帯を持つ手が震えた。そして通知が来た。
”残り11人・・それで人類は救われる”
僕の仕掛けた地雷が成功したことを告げていた。
でも、本当にこれは救いなのだろうか?
アプリの画面にメッセージが表示される。
”SECOND GAMEOVER”
SECONDは、恐らくA GIRLの割り振った番号だろう。
地雷でやられたのは2番の人か。
見ている人のコメント欄も、物凄い勢いでコメが流れていく。
「なんだ?悪魔の襲撃か?」
「2番逝ったあああああああああああああ」
「これも神の試練なのでしょうか?」
「正義が負けるわけない。2番は正義じゃなかったんだ。」
「信じられないね。誰がこんな結末を想像しただろうか。」
「OH, MY, GOD!!!」
「所詮人間は生きていてはいけなかったんだ。現実を見ればわかるだろう?」
「2番は雑魚。くくく、やつは四天王最弱。」
「これどうなんの?」
あと11人。それまで僕の心は持つだろうか。
涙が出てきた。
・・
・・・・