翼に違和感
増税前に買いだめしよう…と思ったら普段買わないものまで買ってしまって、結局無駄遣いしてしまいました。
墓場に来て気分が高まる人間など、そうそういないだろう。いたとしたならば、相当な変わり者だ。少なくとも私たちの中に変わり者はいなかったようで、少しどんよりした気分で私たちは森へ入っていった。
「ゴーストを相手にする時ってさ。何だか気が滅入るよね」
そう言ったのはキードさんだ。その意見には私も同意する。世界には様々な魔族がいて、その出生にはたくさんの言い伝えがあるが、ゴーストほど人間が元となった魔族はいないはずだ。つまり、ゴーストを相手にするということは、人間を相手にするようなものなのだ。
もちろん、こんなのはただの言い伝えであり、信憑性などないに等しい。だが、他の魔族を相手にするのとは少し違う気分になってしまう。
「そうですね、私もその気持ちには同意します」
「そういうものなのか?」
「ミロさんにもわかりますよ、きっと」
「ふーん」
ミロさんは興味のなさそうな返事をすると、キョロキョロと辺りを見渡した。ミロさんは感覚が鋭い、こういう時は周りに魔族がいることが多いのだ。
「ミロさん、もしかして」
「いる。敵が」
やはりそうか。
ミロさんの言葉を聞いたメンバーは、各々の武器を構えた。風に揺れる木々の音を聴きながら、敵が姿を現わす瞬間を待つ。
ごくりと唾を飲む音が響く。それは自分が鳴らしたのか、この中の誰かが鳴らしたのかどうかわからないほどに、私は緊張していた。そして。
「来るっ」
上空から木々をかき分けて、何かが私たちの前に降りてきた。黒くてよくわからないが、完全に人型で、仮面をつけている。少なくともゴーストらしくはない。一瞬、普通の人間が空から降ってきたのかと思ったが、そうではないようだ。背中に生えた翼が、それを物語っている。
「魔族はゴーストだけって聞いてたんだけどなぁ」
「ミズキコウさんでもないんですね」
「そんな会話している場合ですか!?ど、どうします。撤退ですか、応戦ですか!」
相手の実力を見ないと、どれが最善の選択肢かはわからない。となると、とりあえずここは。
「応戦ですね!」
「そうだねっ」
キードさんが放った狙撃銃の弾丸が、開幕の合図だった。弾丸は黒翼人間の肩を貫き、動きが鈍ったところをキデンさんが殴りかかる。しかし、黒翼人間は態勢を立て直してキデンさんの拳を受け止めると、そのまま腕を掴んで彼を遠くへ投げ飛ばした。
飛ばされたキデンさんは危うく木の幹にぶつかりそうになるが、こちらは空中で態勢を立て直して事なきを得た。こういうところは、やはりディスプさんに似ている。
それにしても一つ不可解なところがある。ミロさんが全く動かないことだ。
いつもならば魔族を見ると速攻で攻撃を始めるミロさんが、攻撃どころか動きさえしない。最初にミロさんが「魔族がいる」と言っていたことを考えると、目の前にいる黒翼人間が魔族だと認識しているはずだ。
…まさかとは思うが。
目の前にいる彼は魔族ではなくて、本当に人間?
ミロさんが感じ取った魔族はまた別にいる、とか?
だとしたらこの状況は不利なんじゃないだろうか。目の前にいる黒翼人間は間違いなく私たちと戦うつもりだろう。それからさらに魔族が襲ってきたら、まずい。
それに、こっちのメイン戦力であるミロさんが動かないことが何より不安だ。一体どうしたものか。
「リモコちゃん、手が止まってるよ!」
キードさんの声ではっと我に帰る。そうだ、対策は臨機応変に、その時になってから考えればいい。全員で生きて帰れさえすれば、それでいいんだ。
キードさんの攻撃を支援とし、私が前線に出る。先程のキデンさんの攻撃を受け止めたり、投げ飛ばしたりしているところを見ると、かなりの力を持っているはずだ。ならば素早く攻めるべきだろう。
姿勢を低くして一気に懐まで潜り込み、斬り払ってからバックステップで距離を取る。
だいぶ前に戦ったオーガとかのように、体が硬いとかもない。ダメージは通ってるようだ。いける。
その後も斬っては離れ、斬っては離れを繰り返す。不思議なことに、黒翼人間は私の攻撃を避けはしなかった。自分で言うのも何だが、これだけ同じ動きをしていたら反撃の一つや二つ、喰らいそうなものだが。
それでいて、キードさんの攻撃は時折避けている。いや、最初に当たった肩の攻撃以外は全て受け流していると言っても過言ではない。
それに戦っている時の違和感。奴は攻撃をするそぶりを見せても、すんでのところでそれを止める。今思えば、キードさんの時も自分から攻撃をすると言うよりは、殴りかかった勢いを利用して距離を離しただけとも捉えることができる。
…攻撃を避けない、攻撃しない、顔も見せない。そして、いつも魔族相手には好戦的になるミロさんが動かない。
もしかして。いや、まさか。
「…隊長、ですか?」




