流れる年月
とうとうPV数が450を越えました!嬉しいです!
これからも頑張りたいと思いますので、見てくださるとうれしいです!
「うぉぉぉぉぉっ!!」
貫いた拳が空を切る。決まった、そう思い込んでいたがために隙が生まれた。棒のように伸びきった腕を掴まれグネリとひねられる。その腕を軸として体が回転し、天と地が逆になり、その後に大きな衝撃が俺を襲った。
「痛ぇっ!」
「はいもういっちょ!」
仰向けとなり無防備となった腹に盛大に拳が突き刺さる。逆流した胃酸が口から飛び出し相手にかかった。それを嫌がろうともせず、目の前の牛顔はぺろりと舐めた。
「竜ちゃんさぁ。安心するの早いんだよ。ダメダメそんなんじゃ。当たってないことも考えて次の手を取らなきゃ!」
「うるさい!俺はそんな名前じゃない!」
後でわかったことだが、俺はどうやら竜人という種族に生まれたようだった。緑色の鱗や角、ぎょろりとした目。全て合わせたその顔は爬虫類のようだった。
「名前ねぇ。聞いてたように人間ごっこが好きみたいだ」
「ごっこって言うな!俺は人間だ」
この世界で俺をその名前で呼ぶモノは誰一人としていない。この牛顔が俺のことを竜と呼ぶように、それぞれがそれぞれを種族で呼び合っているのだ。
ただ、あいつを除いて。
「はぁん。シオウ様が仰っていたように随分変わってるね、あんた」
シオウ。それは俺が初めて出会ったあの金髪の名前だ。
あいつはこの魔界の中でトップクラスの実力の持ち主であり、この世界の王のような存在であるらしい。魔界の王。恐らくその名前の通り、あいつは魔王なのだろう。
「ねぇねぇ、どこでそんなに人間の知識を手に入れたの?」
「どこだっていいじゃないですか。…続きを」
「お、頑張るねぇ!じゃあもう一回戦おうか!」
強くなりたい。力がほしい。ただその一点で俺は戦い続けた。
あの日の言葉を実現させるために。
「人間として生きたい。そしていつか貴方達と戦います」
四年前、俺は鳥人の前でそう言った。
鳥人のどちらかに徹底して生きるという考え方を聞き、心の底から出てきたその言葉を聞いた鳥人は大いに笑った。
「面白い。今の腑抜けた魔物たちには良い着火剤となる」
「火事くらいは起こすつもりですよ」
「はっ。思ったより意識が高いな。気に入った」
鳥人はバサッとその大きな翼を広げた。幾つかの羽が落ち、それが舞い散る。まるで踊っているかのようだった。
「それで?これからどうするつもりだ。何か考えはあるのか?」
「いえ」
そのためにどうすればいいのか、それはわからなかった。漠然と思いつくのは力があればいいということだけだ。
「力があれば変わりますか?」
「私が知るか。…そうだな、その小さな体では何もできないだろう。とにかく数年はここで過ごしたらどうだ」
「成長するまでってことですか」
「そうだ」
確かにそうだ。今の体のままこの化け物たちと戦って勝てるとは思えない。そもそもだ。今の俺じゃ新しい種類の化け物と出会う度に気を失うだろう。まずはこの世界に慣れなければならない。
「そうします。しばらくはここで過ごし、力を手に入れます」
「良い宣言だ。私はお前が反逆するまで静観する。達成して見せろ」
俺は力強く返事をし、部屋を出ようとした。しかし扉に手をかけた時、鳥人は俺を呼び止めた。
「一つ聞きたいことがある」
「何ですか?」
「名前だ。人間だというのなら、あるのだろう?種族ではなく、固有の呼び名が」
魔界の生き物に名前がないことを不思議に思い一瞬首を傾けたが、人間の常識が通じないことを思い出し、それを受け入れた。
「俺の名前は水樹光です。水の樹が光るって書いて、水樹光。これからよろしくお願いします」